醤油の油

 食文化の中や、日常の食で毎日でてくる「醤油」という文字について日本人の多くは関心がないであろう。が、油でもないものが「油」となっているのはどうしてなのか? 別名は「むらさき」であり、その語源に関する説もいろいろある。 
 そもそも、醤油は日本独特の調味料、と考えている(思っている)人も多いようである。 現代の醤油は日本独特なものであることは認めるが、元々中国から伝わったもので、中国語で「醤油jang youジャンヨウ」である。その歴史はかなり古い。

 中国の《斉民要術》は北魏(530年頃)に賈思勰によって書かれた農耕、山林、養蚕、家畜等の農学書でもあり、また乳酪、麹、酒、酢、醤、餅、麺等多くの食品の加工法が記載されている実用書でもある。 
この《斉民要術》の中に「醤油」という文字は出てこない。出てくる「醤 jang ジャン」は、発酵させた味噌状、ドロドロしたものにつけている。魚醤、肉醤、麦醤、豉(豆)醤などがある。 また、豉(豆)醤(日本での味噌)からでる液、搾った液を「豆醤清」あるいは「豉汁」としており、これが古代における醤油の名称であった(他にも呼び名はあるが)。
 「醤油」となったのは宋代で、1266年頃に書かれた林洪著の《山家清供》という料理書に初めて「醤油」が出てくるという。
 日本で、文献に醤油の文字が登場するのは室町時代(1400~1500年)となっており、また、それより数百年前の平安時代には醤油のルーツである「醤(ひしお)」が作られていたとある。ひしおは、当時の塩蔵発酵食品の総称で、草びしお、肉びしお、穀びしおの三種類に分かれており、前述の中国の魚醤・肉醤・豆醤類と同じである。 
 
 日本で「醤油」と呼ばれるようになったのは、中国より200~300年後のようであり、名称も中国から伝わったものとしてよい(日本から中国に伝わったものではないという意味)。
 したがって、「醤油」という文字・呼称は中国語として考えなければならない。

 さて、「醤」はすでに説明しており問題はない。「油」が使われたことが問題で疑問である。
「油」という文字は中国の辞書では、①動植物内に含まれる脂肪 ②各種の炭素と水素の化合物で、一般に燃焼し、水と混ざらないもの(灯油、揮発油、ロウ等)。③潤滑等の意味に使われる。日本の辞書でも同じであり、どうしても「あぶら:油」である。
 が、中国の辞源(約100年前の発行)に、「油」には「光潤」「油油」という意味があるとある。あぶら「油」がつややかであることから、つややかな色に「油」が使われるということであろう。
中国語で色を調べると、紫という色には、正紫、黄紫、青紫、油紫、枯紫等があり、油紫(yu zi ヨーツ)は黒紫色とある。
 この「油紫」は宋代1100年ころの書物に出ており(注1)、染物の技術に関連した詞であり、つやのある黒紫色である。 現代の色彩分類で、油黄、油緑、油黒、油紫等つやのある色を「油--」としている(注2)。 醤油と呼ばれるようになったころ(1200年ころ)にはすでに「油紫」という色の表現があったということである。 
このことから、しょうゆを「醤油」にしたのは、醤(日本ではひしお)から出る色つややかな黒紫色の液、すなわち、「醤油」の「油」は、油紫(つやのある黒紫色)からの「油」であるといえる。
 日本で、醤油を「むらさき」ともいうが、その由来に関していろいろあるようであるが、醤油の色、油紫を日本では単に「むらさき」といったものであろう。

 だが、日本では別の解釈もある。それは、
① “「醤油の『油』は、オイルの油という意味ではないんです。『油』という字には液体、汁という意味もあり、  そっちが醤油の『油』なんですね」 ”

 <中国の辞書(日本でも)そのような意味はない。何かの間違いでしょう。>

②“醤油の油という文字は、とろりとした液体を意味し、「醤」の字に合わせて使われたと考えます。古い中   国には「油油(悠々)」という言葉があり、「おもむろに流れる様」という解説がされていますから、とろりと  した液体という意味につながります。”

  <しょうゆ情報センターのHPにある「醤油」の油についての説明である。>
  確かに、「油油」という熟語があり、草や雲や水がゆっくり動く様の意味につかわれている。が、「とろりとした液体」につながるとするのは、飛躍し過ぎの感じがする。 緑油油―― とか、湖水油油―――という使われ方しか見当たらない。
 また、なぜ醤油にだけ「油(とろりとした液体としての)」をつけたのか説明がつかない。醤油以外に、油(油脂)でないものに「油」が使われているものは見当たらない。牡蠣油(オイスターソース)は、醤油を使ったものであり、醤油の油である。 蝦油(えび油)はあぶらである。
 「油油」は前述のとおり、単に「油」としても使われ、光潤すなわち、つややかなという意味で多く使われている。つやのある色、油黄、油緑、油黒、油紫のように。
 ということから、「とろりとした液体」→「油油」→「油」→には無理がありそうである。
 
(注1)王得臣(1036-af.1115)『麈史』 
(注2) http://com.nulog.cn/book.htm?96774


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