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=第二章=
飛行船は海を見下ろす絶壁に停泊していた。陸側には小高い丘と森があり、内陸部から飛行船の姿を隠している。紺碧の海からよせる潮風は、上空の風よりも穏やかで暖かい。少々べたつくその風に吹かれながら、三人は食堂に向かった。
「何かわかった?」
先に到着していた翔が、各々にハーブティーを煎れてくれる。尚に二言三言文句をいいながら自分の椅子に腰を降ろした三人は、『宝瓶宮の地図』をテーブルに広げた。カルが手帳に視線を落とす。
「まずこの文字ね。これアルコールに反応して出て来たんだと思うんだ。昔どっかの貴族がそういう手法で遺言書残した事があってね、その人の名前取ってアレク文字って呼ばれてるんだけど」
「んな所に名前残っても嬉しくねーよな」
「てか、嫌」
タカと尚が思い思いの感想を口にする。それを目で制して、宮がカルに先を促した。
「うん、で、この文字はシエル・エトワレの古代文字にめちゃくちゃ似てるんだけど、どうも違うっぽいんだよね。だから……ぁ」
カルはそこで決まり悪そうに顔をあげた。正面に座った翔が、肩を竦めて答える。
「わかんないわけね」
こくんとカルは頷いた。それから慌てたように彼女は付け足す。
「でも、多分トワレ言語のどれかだと思う。だからヴェルソーの市で古本探して調べるよ。どっちにしても、こんなのあるからには分んなきゃ先進めないし」
うんうん、とティーカップ片手に尚が頷く。
「全く。今更でも気付いて良かったんだろうけどさぁ、何で出航前に気付かなかったかね」
「うるさい」
嫌味っぽく言って相手をからかうのは尚の常套手段だが、それこそ今更言われても仕方ない。何より、これから拠点にしている島まで戻るのもあまりに馬鹿らしい。カルは食堂の時計を一瞥して立ち上がった。
「今から町に降りてみるよ。取り敢えず古書探さないと始らないし」
「じゃぁ一緒行くよ。夕食当番うちだし、食材買うから」
「あ、オレも探すもんあるし」
続けざまに宮とタカが席を立った。疲れたからと、尚は座ったまま手を振る。その横で、翔がにっと笑みを浮かべた。
「それじゃあ変装しないとね? 仮にもうちら賞金首だし?」
立ち上がった三人が、顔を引きつらせた。素晴しい反射神経の賜物で、宮がさっと身を翻す。タカも知らぬ顔をして出口に向かう。しかし翔の動きも半端ではなかった。出口の扉にとんっと手をついて三人の行く手を遮り、満面の笑みで「残念でした」と言う。あーだこーだ言い訳をしつつ彼女の手を逃れようとした三人も、結局は諦めるしかなかった。
「だから、何でスカートなんだよ。お前遊んでるだろ」
鏡に映った自分を見て、タカが嫌そうに顔を顰めた。踝丈のスカートにぴったりとしたシャツを重ね着したスタイルは、翔の見立てだ。船の上では絶対にできないような恰好である。いや、地に足をつけていたって彼女達が進んで着る事はまずないだろうが。
「あ、バレた? ……って、嘘よ嘘。だって手配書に男って書いてあんのよ? おもいっきり女の恰好した方が誤魔化せるでしょ」
「まぁ、正論だけどね。けど何で翔が持ってるのか疑問」
隣室から、同じくスカートをはかされたカルが姿を見せた。ドゥーズ諸島特有の麻のジャンパースカートに、幅広のベルトを締めている。似たり寄ったりの恰好をした宮は、半端丈のスカートの裾をしきりと気にしていた。
「この前ドゥーズ諸島に寄ったでしょ? あの時に買ったの。タカのは『ゲーテ号』の戦利品だけどね。さぁほら、行った行った。早くしないと日が暮れるよ」
「ほーい」
翔に背中を押されて、三人は飛行船を後にした。日は、既に西に傾き始めている。急ぎ足で三人は町に向かった。
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