=序=
『……汝、宝瓶宮を目指すものよ。永久に輝ける紅に誘われ、その光に魅せられし者共よ。忘れるなかれ、植物神の加護を。忘れるなかれ、その恩恵を。忘れるなかれ、その紅き誇りを……』
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どんっ
カルの後ろで、何かがぶつかる音がした。そして、
がっしゃーんっ
何かの降って来る音が続いた。
「いってぇーっ、うっ、ゴホッゲホッ」
「わぁぁ、大丈夫? タカ」
振り返ったカルの目に飛び込んで来たのは、埃と紙の束にまみれた友人の姿だった。金茶の髪には、ところどころ綿ぼこりがまとわりついている。埃を吸い込んだらしく、タカは激しくむせていた。店の奥から現れたまだ若い男は、その様を見て大きく溜め息をついた。
「ったく、何してんだよ、血気盛んなお嬢ちゃんよぉ。いくら眼帯してるからって、何で動かない積み荷にぶつかるかね」
「ッケホ。璃審あんたこそ、どういう積み方してんだよ!」
眼帯に隠されていない方の瞳を涙目にしながら、タカが反論する。喧々囂々、まるで餓鬼の喧嘩だ。ああいえばこういうの掛け合いを漫才の様に繰り広げている二人の間に、それまであらぬところを見ていたカルが割って入った。
「ストップ、ストップ。あのさ、璃審。積み荷は悪い事したけど、おかげで面白いもの見付けたよ。これ売ってくんない?」
彼女がそう言って差し出したのは、半分近くが破れて欠けた何かの地図だった。人の心配より積み荷が大事か! と反論しようとしたタカは、カルの手にした地図を下から覗き見て口を閉ざした。その地図を納めていた質素な箱には、幽かな飾り文字が描かれている。『汝、宝瓶宮を目指すものよ。永久に輝ける紅に誘われ……』読み取れるのはそこまでだったが、それは詩の様な不思議な言葉だった。そしてカルには、いや、恐らくタカにも、それは聞き覚えのある詞だった。
「あ? んなもん欲しいのか? まぁ、構わないけどな」
「やった」
格安で値切れるだけ値切って、二人はそれを手に入れた。
古びて半分以上も失われた、貧相な地図。
それが、彼等の旅の出発点だった。
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