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 闇螢号は、ヴェ−ル・ロックの中腹に停船していた。辺りは一面の森で、闇螢号がすっぽり入る空間が開いているに過ぎない。地面に降り立ち周りを見渡したタカは、これだけ大きな飛行船をよくこんなスペースに降ろせるものだ、と感心する他なかった。
 それにしても、ただでさえ大きな闇螢号だ。この程度のカモフラージュで外界、特に空から隠せるものだろうか? 
 タカがその疑問を口にする前に、その謎は解けた。大の男が8人掛かりで、船から大きな巻き物を降ろしてきたのだ。その巻き物にポンプでガスを送る。徐々に拡がったそれは、やがて大きく盛り上がり少しづつ空へ上がっていく。
 縁についた長くて丈夫なロープを数人づつで押え手近な木の幹に結んでやると、その布はものの数分で飛行船の上空をカバーしてしまった。布は深い緑色で、木の葉の形の様々な緑の布が縫い付けてあった。
 これなら、上空を世程低空で偵察されない限り気付かれない。

「上手いこと考えてんなー。つーか、あれすげーよ」

 ほぉ。と素直に感嘆を漏らすタカに、翔が自慢げに答える。

「凄いでしょー、那夜が考えたの。さすがお頭よねー。ちなみに私達もあの葉っぱ縫い付けたのよ」

「へー。すげーでかさだもんな」

 すげーすげーと、いつまでも上を向いていそうなタカを宮がどつく。

「これから毎日見られるからさ。ほれ、おいてくぞ」

 おぅ悪ぃなどとつぶやきながら、やっぱりタカは上を向いている。それでも一応歩き出したのを見て、宮と翔は苦笑しながら歩き出した。

 

 闇螢号の停泊位置から差程遠くないところに、小さな洞窟があった。大柄な大人がようやく通れる程度の穴で、ザスを含め大抵の男達は体を縮めるようにしてその中に入っていく。大きな荷物も器用に通していく様を見ながら、タカは横の宮に問いかけた。

「なぁ、こんな狭いトコで大丈夫なのかよ。ザスとか通れてなくねぇ?」

「平気。ちっさいのは入口だけだから。ま、中入りゃわかるっしょ」

 いくぞー。と、宮はさくさく進んでいく。その後にタカが続いた。
 タカ達には難無く通れる入口をくぐると、しばらく狭い通路が続く。前を行く男達は、みな一様に窮屈そうだ。足下を照らすために壁面に置かれた小さな松明さえも、彼等には邪魔そうに見えた。
 途中にいくつかの分岐を経て、ようやく通路はがらんとした空間にでる。そこからは下への縦穴が続いており、縄梯子がかけられていた。

「あー。ここまでがしんどいんだよなぁ狐穴はよぉ」

 荷物を下の連中に受け渡して、ザスはぐいっと肩を回した。ごきごきと関節が嫌な音を立てる。ひとしきり体を伸してから、ザスは縄梯子を伝って降り始める。タカと宮もそれに続いた。
 するすると何回か縄梯子を降りた頃。タカは次の縄梯子の先が、今までより明るいことに気がついた。訝しみながら縄梯子を降りる。
 地に足を付けて振り返ったタカは、そこに草原と黄昏れの空を見付けて驚いた。縄梯子は小さな洞窟に降り、その洞窟の外は空のある普通の外の世界だったのだ。

「うわぁー、すげーなおい。外だよ。どーなってんだよ」

「タカ、とりあえず、邪魔」

「あっ、悪ぃ」

 上から降りてきた宮の為に場所をあけると、タカは眩しそうに空を見上げた。そこにあるのは先刻のような覆いではない、本物の空だった。
 どうなってるんだ、とタカがしつこく聞いてくるので、宮はジェスチャーを交えて説明する。

「ヴェ−ル・ロックにはこういうぽっかり開いた空間が結構あって、洞窟の中をあっちゃこっちゃすると辿り着けるようになってんの。つっても、ここみたいな広さと便利な通路があるのは他にはないけど。大抵の穴の広さじゃ、家3軒も建てられないんじゃん?」

「はー。この場所自体は天然もんなんだなー。すげー」

「タカって、すげーばっかりいってんのね」

 暫く姿の見えなかった翔が、唐突に洞窟から現れた。どうやら随分後から来ていたらしい。荷物の他に、艶のある朱色の果実を片手で持てるだけ持っている。一口サイズのその果実を見て、宮は苦笑を漏らした。

「紅柑か。どこにあったんよ」

「んー。二つめの分岐を反対にちょっといったトコ」

 へぇ。と答えながら、宮は荷物を持ち直して歩き始める。それに続いて歩き出しながら、3人は取り留めのない会話をする。

「なぁ、それジャムにすると旨いやつだろ」

「そーそー。半分はドライにしてケーキにでもいれようかな、なんてねー」

「いいねぇ、ケーキ。甘さ控えめで」

「あ? 何いってんだよ宮、ケーキってのは甘いもんだろ?」

「はいはい。どっちも作ったげるから」

 云いながら翔は、出会ってまだ一日と経っていないのに、色々ありすぎてタカとはすっかり打ち解けたなと思う。いい仲間になれそうだ、と思って、翔は自然と笑顔になった。

「何笑ってンだよ」

「別にー。なんかどたばたしちゃったけど、落ち着いたらタカの歓迎会やらなきゃなーと思って。ケーキはその時ね」

 目の前に、彼等の新しい家が見えた。相変わらず集落で一際小さい建物の前で、翔はふと立ち止まる。つられて立ち止まった宮とタカを見て、翔はにっと笑った。

「タカ。改めて、これからもよろしく!」

「おぅっ!」

 とんっと軽く拳を合わせて、三人は笑った。なんだか、もう随分前から仲間だったかのように、お互いの存在に違和感がない。
 けれど、彼等の物語はまだ始まったばかり。これからもずっといい仲間でいられるように……彼等は、歩んでいく。

 

 

 

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