+

 

+

 

 


 夜が白々と明けはじめる頃、闇螢号は海面すれすれを滑るように飛んでいた。ヴェール・ロック周辺に貼られた航路警備局のレーダーを避けるためだ。闇螢号は平均的な大型飛行船よりも更に一回り程大きく、独特な機影をしている。そのため、レーダーに捉えられると正体のカモフラージュがきかないという欠点を持っていた。

「んなの、もうちょい尾翼をでかくして船底部分をでかくすりゃいいじゃんか。収容人数変わらねーし、横削って尾翼がでかくなりゃ普通の格好だろ?」

 そう言ったタカに、ザスはとんでもない、と首を振った。

「これ以上尾翼をいじったら、こいつぁ飛べなくなっちまう。そんくらいギリギリのバランスとってんだよ。……タカ、ペンチ…よしっ、次はそれとってくれ。大体こいつぁ設計に無理があったんだ。それをお頭がOK出しちまうから……ッ畜生、硬くて開かねぇ」

 作業を覗き込んでいたタカの横を、ガツッと鈍い音がして、何かが飛んでいった。

「うをっ危ねっー」

「お、悪ぃな。あー……ボルトの首が飛んじまった。暫く使ってなかった船だしな。こりゃ相当錆ついてるぞ」

「力任せにやるからだろ。オレがやろうか?」

 ザスの代わりにニッパを手にしたタカは、器用に首がとんだボルトを掴み、くるくると外してしまった。その手際にザスは腕を組んで感心する。

「なかなかやるじゃねーか。よし、んじゃあお前にここの補修は任せるぞ。んで俺が上をやった方が早ぇわな。おし」

「あ、おい」

 止める間もなく、ザスはそういってあっという間に姿を消してしまった。補修を一任されてしまったタカは、仕方なく他のボルトの取り外しにかかる。こう見えてしっかりモノなのだ。
 そして、その仕事振りを物陰から見ていた人影が二つ……。

「へぇ。案外できるんだ。ザスって人使い荒いから、根を上げてるかと思ったのに」

「翔……差し入れにきたんじゃなかったっけ?」

「あ、そうだった。ザスー、タカー、差し入れに……っ!?」

 翔が片手に持った盆を掲げた途端、ぐらり、と大きく船が傾いだ。壁に手をついて、翔と宮はなんとか身体を支える。

「また敵か!?」

 船体の異様な揺れにタカがハッとして立ち上がる。だが、予想に反して周りの人間は落ち着いていた。
 一人で大袈裟な反応をしたことに気恥ずかしさでも感じたのか、タカはバツの悪そうな顔で翔と宮を見やった。当の二人はといえば、くすりと笑って緊張感の欠片もない。

「この揺れはね、ヴェ−ル・ロック特有なのよ。むしろ名物みたいなもんかな。船乗りの常識よ?」

「ここは乱気流が激しいから。マジで煽られるとこんなもんじゃないって」

 二人が言い終わらないうちに、船は再び大きく揺れた。たまらずタカも近くのパイプに掴まる。

「名物ったって……これじゃまともな修理なんてできねーじゃんよ」

 揺れにつられて方々へ転がっていきそうな道具を足で押え、タカは軽く舌打ちした。
 先刻飛んだボルトの首が、揺れに合わせてころころと転がっていく。その転がった先に、道具一式を抱えたザスが姿を表わした。相変わらずの揺れを気にする風もなく、壁伝いに歩いてくる。

「つーか、こんな船体で乱気流にでも飲まれたら分解しちまうぞっ」

 タカの切羽詰まった口調ににやりと笑んで、ザスは答えた。

「心配するな。うちの操縦士はそんなへぼじゃねぇ。それに…………もう到着だ」

  

 さっきまでの荒れっぷりが嘘のように、船体の揺れは収まった。代わりに人の移動するざわめきがどこからともなく聞こえてくる。

『全艦各員に告ぐ。ヴェ−ル・ロックに到着。「狐穴」に向かえ』

 船内を伝声管の声が駆け巡る。

「狐穴?」

 首をかしげるタカに、宮が隠れ家だ、と教えてくれた。

「他にも一応あってね。ヴェ−ル・ロックに数カ所、他の島色んなところに数カ所づつ。さっきみたいな襲撃があった時の為の予備とか、空賊の仕事の時の足掛かりがね。まぁ、さっきみたいなことは滅多にないんだけど…………ちなみにさっきの所が『狼窟』。私達の知ってる限りでは最大級の集落だったんだけど……もう戻れないかもねー」

 あはは。と、わざとらしい笑いとともに翔がいう。タカにとってはほとんど半日しか過ごさなかった場所だが、翔や宮にとってはそれなりの思い出の地なのだろう。二人の傷心を思って、タカは神妙な顔になった。それに気付いて、翔は苦笑する。

「ちょっと止めてよ。あんたが感傷に浸ってどうするの。さっ、荷物降ろしたり色々忙しいんだから、行くよ」

「あ、おぉ」

 足早に歩き出した翔の後を、タカと宮は慌てて追いかけた。  

 

 

 

+

 

+

 

=NEXT=

=MENU=

Copyright © 2007 Kaoru TATEWAKI. All rights reserved.