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青い小型艇が翻り、黒い小型艇が煙をあげながら落ちていく。地上からは、絶え間なく砲弾が打ち上げられる。
双眼鏡から目を離して、宮は伝声管を掴んだ。
「前線離脱。琅碧号も西南に進路を取って速度を上げた模様。引き続き全速前進で願う」
『了解』
「宮、交代するぞ」
見張り場に入って来た図体のでかい男に、宮は否と首を振った。見張りくらい自分でもできる。その意志を感じ取ってか、男はそうか。と呟いた。
「新入りはどうした?」
「奥の部屋。ガキ共の面倒みてる」
「ほう、ガキの面倒ねぇ。面倒みいいのか? あいつ」
意外に、と双眼鏡を覗いたまま宮は答えた。確かに意外だぁな、と男は笑った。
「お前が見張りをしてんなら、俺はちょっくら寝るとすっかな」
戦線離脱をしてようやく一息吐いたという時に、呑気な男だ。ぐーっと伸びをして、言葉通り彼は見張り場を出ようとしていた。
しかし、状況はそう彼等に優しくはなかったのである。
「待った。ザスッ、下!!」
「何ッ!!」
「操舵室! 直下に敵影発見ッ」
宮の一報に、にわかに船内が騒がしくなった。伝声管を通じて、指令が一気に駆け巡る。
『雲の中に退避する!』
「駄目だ、間に合わねぇ!! 全員戦闘体勢だッ、非戦闘員を奥へ!」
伝声管の中を怒号が飛び交う。その間にも、敵影はみるみる接近してきていた。今では敵機の操舵室の様子が双眼鏡で覗ける程近い。その敵機の格納庫がゆっくりと開くのを見付けて、宮は再度叫んだ。
「飛行艇が来るぞぉッ! 各員準備!」
「お前は奥に入ってろ、いいな!」
宮にそう言い付けてザスが飛び出していく。その後を追って、宮も外へと走り出した。
「タカ、戦闘経験は?」
藍色のバンダナをギュッと締めた翔は、そう言ってちらりとタカを振り返った。
「それなりに」
答えを聞いて、翔は走り出す。向かう先は最下層。敵が侵入した際に、真っ先に前線となる場所だ。同じ年頃の少年が二人、前を走っている。
「キリ、カザ。宮は?」
「見張り場だ。先にいるは……ッ」
答えかけた途中で、カザの声は爆音にかき消された。
軽い振動が壁越しに伝わる。顔色を変えて、四人は速度を速めた。屈強な男達に混ざって廊下を駆け抜け、入り組んだ梯子を降りる。前方に宮を見付け、タカは急いで駆け寄った。
「状況は?」
「知らん!」
「乗り込んできてんだ、落とす気はねーだろうよっ。だが念には念をだ! 野郎共、“浮き袋”には傷つけさすんじゃねーぞッ!」
ザスの声に、おう、と数人が答える。その時、彼等の目前のバリケードに決定的な亀裂が入った。
「来るぞ! ゴーグル付けとけ!」
ザスが叫ぶ。ダンッという音がそれに続き、一気に航路警備局の黒い制服に身を包んだ男達がバリケードの穴からなだれ込んできた。航路警備局の戦闘要員、空上での空賊の一網打尽を専門とする警備第四課だ。
──通称 『コンドル』
双方からの催涙ガスで辺りは一瞬真っ白になる。敵も味方もわからない中では銃火器は使えない。カトラスを片手に、ザスが煙幕を突っ切った。その後に、少年達が続く。
「どっけぇぃ!!」
「翔、後ろッ」
翔の背後に迫っていた敵を、タカの回し蹴りが沈める。
「サンキュッ」
振り返らずに礼を言った翔は、既に別な敵と対峙していた。
狭い船内では柄の小さな少年達の方が動きが速い。
最初は五分だった勝負が、いつの間にかこちらに有利となっていた。周りを見回す余裕を得て、宮は敵の間をすり抜け駆け出した。前方の床に携帯用のランチャーが転がっている。航路警備局が乗り込む際に使ったらしいそれを拾い上げ、彼女はおもむろに引き金に指をかけた。
「あ、おい宮、それは……」
タカが驚いて声をかけるのと、ランチャーの弾が発射されるのがほぼ同じ。そして……
──ッガァン
爆音とともに『コンドル』自慢の高速飛行船の横腹に、大きな穴が開いた。バランスを崩しながら、高速飛行船は高度を下げていく。
「さて……どうやらあんたらは帰り道がなくなったみてぇだなぁ?」
その様を見て、ザスがにやりと笑みを浮かべた。抵抗を続ける気力も失せたのか、それとも保身の為か、離れていく船を見送った『コンドル』の面々は大人しく縛られていく。
「全艦に告ぐ! 危機は脱した。臨戦体勢に切り替え、引き続きアジトを目指す。以上!」
伝声管越しに微かな歓声が聞こえた。
船足の遅い闇螢号は、万全を期して高度を上げる。吹き抜けになった天井を見上げて、ザスは大きく息をついた。上空の冷たい風が吹き込み、その場は震える程寒い。吐き出した息は、夏だと言うのに真っ白だった。
「あー。修理するまでここは閉鎖だな。冷えきってしょうがねえ。おいタカ」
「んあ? はい」
返ってきた妙に律儀な答えに、ザスは思わず噴き出す。
「そう固くなるな。オレは別にお前のボスじゃねぇよ。オレ等のボスは那夜で、それ以外はここじゃ皆ヒラだ。ところでお前、船作った事あるか?」
「いえ、いや、ないけど……」
「よし、じゃあ作らせてやる。明日から手伝え!」
「はぁ? え、何だよそれ、えぇ?」
振り向くと、さり気なく、宮や翔、キリやカザは廊下を引き返している。ひとり取り残されたタカは、結局翌日からザスにこき使われる事になった。
勿論、それが切っ掛けで後に彼女が自分で飛行船を組み立てられるようになるとは、この時ザスには知る由もなかったのだが……。
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