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 涼やかな風が川面を撫でてゆく。猛暑の熱気も、ここでは少し和らいでいる。この時期唯一の憩いの場所で、宮はせっせと洗濯に精を出していた。

「宮〜!!」

 川上の木立の中から名前を呼ぶ声が聞こえ、宮は手を休めて振り返る。真夏の陽射しが眩しくて、思わず彼女は眉を顰めた。

「翔?」

 逆光の中、獣道を弾むような足取りで降りてきたのは、宮より少し上背のあるすらりとした少女だった。上機嫌なようで、ひらひらと片手を振ると、最後の大岩を軽やかに飛んで宮の横へとやってくる。

「那夜が帰って来たって! 港に琅碧号が戻ったって。行かない?」

「マジで? いくいく」

 バサバサと洗いたての洗濯物をかごに放り込み、濡れた足を布で拭って二人は川上へと駆け出した。

 

 木立を駆け抜け、野茨の茂みを抜け、崖に彫られた細い抜け穴を通ると、その先に集落がある。非合法に生きる空の盗賊、「空賊」の一団が暮らす、地図にない小さな村だ。こじんまりした家々が点在するその集落の上空に、青竹色のスマートな飛行船が一機停泊している。
 彼等『グッドスピード』の頭領那夜は、繋留用の塔の下で、五、六人の男に囲まれて立っていた。

「那夜! お帰りなさーい!」

「お、ただいま。翔、宮、お前らに土産があんのよ」

「美味しいもの?」

 ぱっと顔を輝かせる二人に、いんや、と首を横に振って、那夜は後ろを振り返った。

「おいで」

 二人は那夜の後ろを興味津々で覗き込むが、那夜の呼ぶものはなかなか塔から出てこない。ふうっと息をついた那夜はおもむろにそれを引きずり出した。

「うおっ」

 半ば引きずられるようにして翔と宮の前に現れたのは、金茶の髪をした少年だった。

「ほらタカ、挨拶しな」

 人見知りをしているのか、それとも見知らぬ人間に囲まれているからか、少年はふいっとあらぬ方を向いた。

「ほぉ、珍しい事もあるもんだな。那夜が男を拾ってくるたぁ」

 そう言ってしげしげと少年の顔を覗き込んだ男は、次の瞬間顔面に鋭い裏拳を見舞われるはめになった。勿論、攻撃したのは金茶の髪の少年だ。それを見て、那夜は豪快に笑った。

「平気か、シン? なぁ、そいつは格闘センスがいいだろう。磨けばもっと強くなるよ」

 なっ、と那夜は楽しそうに笑う。

「それから、言っとくけどそいつは女の子だよ」

 女? へぇ、女ねぇ。というざわめきは、タカの一睨みでさーっと引いた。

「翔、宮、こいつお前らのとこに置いてくれ。お前らに任せるから」

「了解!」

 二つの威勢の言い返事を聞いて一つ頷くと、那夜は男達とともに集落の方へ歩き出した。彼等がだいぶ遠ざかった頃、ようやく翔と宮はタカの方を振り返った。

「タカって呼んでいい? あたしは翔。で、こっちが宮。よろしく」

 翔の営業スマイルに、タカは少し警戒を解いたらしい。どうも、とぼそりと呟いた。

「あー、取り敢えず部屋決めないと」

 短く刈った髪の先をいじりながら、宮はちらりと視線を遠くへ飛ばした。集落のはずれのとりわけ小さな家が彼等の住まいだ。そして、きっと部屋は散らかしっぱなしだったな、と宮は内心少し焦っていたりする。
 そんなことを知ってか知らずか、翔は相変わらずの笑顔で頷いた。

「そうだねー。じゃ、行こっか」

「あ、おう」

 薄青色のバンダナを翻して颯爽と歩き出す翔の後を、タカと宮は慌てて追いかけた。

 

 

 

 

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