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「翔、そいつ縛り上げて無線の電源を落とせ」

「はーい」

『ポルテージ号』の操舵室は、いまや完全に制圧されていた。縛り上げられた乗組員は、一様に苦虫を噛み潰したような顔をしている。それを後目に、翔は無造作に無線の電源を落とした。これで、ボタン一つで発信される航路警備局への救難信号ですら、送信することは出来なくなった。隙を見てボタンを押そうと画策していた乗組員達は、また苦い顔になる。

「お頭、そろそろザス達が引き上げの合図を出してもいい頃じゃない?」

「ふむ。確かにちょっと遅いな」

 お頭、と呼ばれた相手は、細身の黒衣に身を包んだまだ若い女だった。それを見て、『ポルテージ号』の乗組員達は、自分達の飛行船を襲ったのがかの有名な空賊団『グッドスピード』である事を知った。

「よし。翔、お前ちょっとキャビンにいって様子をみてきな」

「はーい」

 可愛らしく返事をして、翔は颯爽と操舵室を飛び出していく。ヒル・マイナ・ヒルの海のような碧色のバンダナが、彼女の動きに合わせて軽やかに揺れた。

 入れ違いに、抜き身の大きなナイフを下げた若い男が操舵室に入ってくる。

「どうしたカザ」

「いや、キャビンに女のガキしかいないんでさ。金目のもの物色するのに、翔か頭を呼んで来いってことだったんで」

「ふむ。今翔を行かせたから。じゃあま、しばし待つか」

 懐から煙草を出して、お頭・那夜は火をつけた。紫煙がゆらりと立ち上る。香の強い煙草だった。甘いような華のような、華やいだ香の煙が操舵室にくゆる。しばしその紫煙を見つめていた那夜が、すぅっと目を眇めた。視線の先は、ヒル・マイナ・ヒルの空……………

「……ちっ。カザ、急いで翔達呼び戻しな。船に戻るっ」

 いうや否や、那夜は操舵室を飛び出していった。

 

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 「……最悪」

 キャビンに一歩踏み込むなり、翔はげんなりと肩を落とした。彼女と年端の変わらない少女達が、怯えた目をしてこちらを伺っている。今日の『ポルテージ号』の乗客は上流階級の貴婦人方という情報だった。それなら宝石が拝めるだろう、と襲撃を企てたのに……

「これじゃ装飾品も碌なもんがないわ」

 ガセネタじゃない。と文句をいいながら、翔はつかつかと少女達に近寄った。

「さ、持ち物拝見しますよー。余計な事するんじゃないよ」

 さっと一通りに睨みを利かせて、手近のハンドバックを手に取る。中身をひっくり返すように物色して、翔は再び溜め息を吐いた。面倒臭そうな顔をしながら、次々に少女達の持ち物を取り上げる。ひどいわ、などと呟かれようものなら、鋭い視線を投げ付ける。そうして一通りの持ち物を見るのに、そう時間はかからなかった。

「ま、換金してそこそこいけそうなのはこんなもんか」

 小さな宝石のついたブローチやネックレスを一握りつかんで、翔が立ち上がる。それと前後して、先刻のナイフの男がキャビンに駆け込んできた。血相を変えた男が叫ぶ。

「コンドルだっ。船に戻れ!」

「何ッ?!」

 空賊達の動きは早かった。踵を返すと、キャビンから駆け出していく。後に残された女学生達は、何が起きたのか判らないまま、呆然とするしかなかった。

 

 キャビンを出、内廊下を走り、デッキから青い小型艇に飛び乗る。既に飛行体勢に入っていた2機の小型艇は、すぐさま『ポルテージ号』から離脱した。刹那、先程まで小型艇のいたデッキに、マシンガンの雨が降り注ぐ。航路警備局警備第4課、対空賊戦専門−通称『コンドル』。空賊にとってもっとも厄介な敵が、こともあろうに3機。

「早ぇっ。どーゆーこった。救難信号は止めたんじゃねーのか?」

 悪態を吐きながらザスが機関銃を握る。目前に迫った黒い小型艇に向けて、引き金を引いた。

 - バラララララッ バラララララッ

 黒も青も、敵も味方も、蛇行飛行しながら空中で銃撃戦を繰り広げている。

「宮! このまま『琅碧号』までやつら連れてくわけにゃいかねぇ。なんとか振り切るぞ。翔、援護しろ」

「うぃ」

「え? ちょっ……?」

 - バラララララララッ

 ザスの隣から、やはりマシンガンの発射音が響いた。マシンガンの銃弾が見事に敵を捉え、黒い小型艇が黒煙をあげ、大きく傾く。

 - バラララララララッ

 もう一機の小型艇も、エンジン部分が火を噴いてぐっと高度を下げた。残る一機は那夜の小型艇が仕留めたと見えて、辺りから黒い小型艇の姿が消えた。しかしまだ気は抜けない。レーダーに補足されないよう高度を下げつつ、彼等の青い小型艇はスピードを落とす事なく飛び続ける。

 程なくして、那夜の小型艇が進路を変えた。それを確認して、ザスはふぅっと息を吐く。

「よし。宮、このまま紅港の裏手につけるぜ。……にしても、翔も腕あげたじゃねぇか」

 マシンガンを横にのけ、ザスは労うように翔を振り返った。

 そこで、はたと動きが止まる。ザスは困惑とも警戒ともつかない色を浮かべたまま、説明を求めるように翔に向き直った。

 

 

 

 

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