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「ちょっと! 迷うからあんまりうろうろしないの!」

 一喝とともに襟首を掴まれ、カルは翔に襟首を掴まれた。そのまま引きずられるものだから、まるで猫のようだ。

「にゃぁぁ〜っ」

 じたばたと手足を動かす度に、黄緑色と橙の薄布があちこち揺れる。金銀の小さな鈴が縫い取られた衣装は、その度にチリンチリンと軽やかに鳴った。
 空賊稼業の戦利品から、市場での買い物行脚による収集品まで。翔の手持ちの衣装は数知れない。手配書に「少年」と書かれていることを逆手に取って、外出着は必要以上に女の子らしくまとめる彼らだが、衣装の九割以上が翔の私物だ。
 普段行かない皇国の衣装がこれだけ揃うことといい、その箪笥の中は奥が深い、とカルはいつも感心する。
 眼帯という、隠しようのない特徴をもつタカも、翔の手にかかればその辺の少女たちに上手く紛れてしまう。その手腕は、実はなかなかのものなのだ。

(これでもう少し、タカの言動が女の子らしければなぁ……)

 視線の先では、串に刺さった肉を片手に、更なる肉を求めるタカがいる。お世辞にも、女の子らしいとは言いがたい。

「なぁ、あっちに羊肉があるぞ!」

「こらタカ。あんまりはしゃぐと被り布が取れるから!」

 眼帯という目立つ特徴を、タカは薄布を被るようにまとうことでなんとか隠している。皇国の少数民族の出で立ちだ。
 どう見ても皇国的ではない外見をしているが、金鈴華を見るために観光で来た物好き、くらいに思われれば丁度いい。そう思って、翔は敢えて、タカに少数民族の衣装を選んでいた。
 複雑な文様が織り込まれた布を頭からかぶり、銀細工の付いたピンで何カ所も留めてある。下は動きやすいように妥協して、正式ではないズボン姿。これもまた、観光客らしく見えるようにという、翔の配慮だ。
 もっとも、着せ替え人形同然のタカに、その心配りは伝わっていなかったが。

「翔、そうかりかりすんなよ。はぐれたって大丈夫だって」

「タカとカルは皇国初めてでしょ。いいから大人しくしてなさい」

「はーい」

「お。あの肉やべぇ。超旨そう」

 言った傍から、タカがふらふらと道を逸れる。

「ターカーっ」

「なぁ宮、あそこに羊があんだよ。ちょっと買いに行こうぜ!」

「あ? お、おう」

 腕を掴まれ、半ば引きずられるようにして宮はタカの後に続く。

「すぐ戻ってきなさいよ!」

 翔の声は背後の賑わいに飲み込まれ、すぐに遠のいていった。

 

「なぁ……」

 買ったばかりの肉に食いつきつつ、タカは小難しい顔で宮を振り返った。暫く悩んだ末に、意を決したように先を続ける。

「翔さ、なんか機嫌悪くねぇ?」

「ああ。ん」

 やっぱり、その話か。
 そんな思いで、宮は軽い返事を返した。

「ん、て、やっぱそうなのか!? うおー」

 叫んで頭を抱えるタカに、宮は少しだけ面倒くさそうに顔をしかめる。

「なぁ、それってやっぱ、オレのせい?」

 ひとしきり呻いた後に、タカはようやく顔を上げた。気落ちしたようなしょんぼりしたような、濡れたねずみのようにしょげた顔だ。

「何でそう思うわけ?」

「だって、あいつ皇国の少数民族出身だろ? なんか、皇国の一括統治で小競り合いがあった時に、あいつの一族もなんかあったんじゃねぇかな、って」

「ま、そうだね」

 宮は多くは語らず、ただ事実だけに相槌を打つ。その返答に、またひとしきりタカの独り反省が続いた。

「マジで? うわー。やっぱオレまずったわー。何で言ってくんねーんだよっ」

 うーとか、あーとか、呻くタカに、宮はいっそ淡白な言葉を返す。

「うちが話すことじゃないし? 必要があれば翔が自分で言うっしょ。第一、タカが気にすることじゃないんじゃん」

「そーゆー訳に、いかねぇだろ」

「翔は、花見祭り行くのに反対したっけ?」

「……いや」

 タカの覚えている限り、翔は一言も反論をしていない。一月近い飛行の間も、引き返そうとかやっぱりやめようとか、そんな言葉は一度も訊かなかった。

「しょ? だからいいんだって。翔は翔なりに考えてんよ」

「でもさぁ」

「ま、かく言ううちも、心配して聞いたら一蹴されたし。あんま悩むなって」

 ぽんぽんと宮に肩を叩かれて、タカは手元に視線を落とす。皿の上には、冷め始めた羊肉がぼんやりとのっかっている。

「新しいの買って、翔に持ってってやろ」

 それがタカなりの気遣いだと気づいて、宮は思わず微笑んだ。

 

 

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