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=第7章=


 食後の熱いお茶で人心地着いて、漸く宮が本題に触れた。

「それで、わざわざここにきてまで話す話ってのは何なわけ?」

 カルは宮の問いには応えず、黙ってシュキナに顔を向ける。五人の眼が一斉に自分に向けられたので、シュキナは口元に運びかけたカップを降ろした。

「実はな……那夜の足取りが掴めるかも知れねぇのさ」

 その一言で、向けられる視線がひと際鋭くなるのをシュキナは感じた。

「どういうこと?」

 訊ねる翔の目つきが、先程とは別人の様に鋭い。切れ長の眸に凄まれて、シュキナは言葉を選びながら、もう一度口を開いた。

「話すと長いんだが……お前さんらアーヴィンていう空賊を知ってるかい?」

 聞き慣れない名前に、五人はそれぞれ顔を見合わせ、そうして首を横に振った。ふむ、と呟いてシュキナは話を続ける。

「アーヴィンてのは那夜の古い知り合いでな。『グッドスピード』ができる以前からの知り合いだ。そいつがな、行方をくらます直前の那夜に会ってるんだそうだ。お前さんらは那夜が何しにいって戻らねぇのか知らない。だが、やつは知っているらしい」

 そこでシュキナは言葉を区切り、一口冷めたお茶を啜った。

「待った。そのアーヴェンてやつは、何だって今更那夜の話をしてきたんだ? 三年も黙ってて?」

 五人全員が思っていた疑問を、尚が口に出した。一斉に同意する彼女達に向かってシュキナは肩を竦める。

「アーヴェンは那夜と会ってすぐ、航路警備局に捕まってたんだよ。お前さんらは憶えてないか? 随分話題になったぞ。溜め込んだ財宝の在処と引き換えに縛り首を免れたってな。ただ、政府の犬になるのを断ったもんで、命は助かったがその後ずっと檻の中」

 あぁ、と宮とカルが揃って声を上げた。

「確か、ちょっと前にルースジェイル島から脱獄した空賊が云々て……あの人か」

「その脱獄を手伝ったのが俺らさ。まぁ、昔馴染みなんでな。……と、そういうわけでだ、やつはつい最近まで、那夜が行方不明なことすら知らなかったってわけよ」

 得心がいったようで、五人は黙って頷きシュキナに先を促した。

「アーヴェンはアーヴェンで、那夜を探してやりたいと思ってるらしい。だがな、いかんせん船もない、身体も弱ってる、今は食うのに精一杯だ。俺も片手間に探しちゃいるが……どうしたって自分の手下を食わせてやることの方が優先しちまう。『グッドスピード』も、那夜がいなくなってからの航路警備局の手入れでバラバラになっちまった。みんな食うのに精一杯で、色んなとこの賊の傘下にはいっちまってる。『グッドスピード』の流れを汲んでて、三年経った今も那夜を探してんのはお前さんらぐらいなもんだ。だからな、アーヴェンから那夜の話を聞いたとき、俺はお前さんらの話をやつにした……」

 そこでシュキナは言葉を切ると、ふと天井を見上げて難しい顔付きになった。シュキナの心中をうかがい知ることはできず、五人はただじっと話の続きを待っている。

「アーヴェンが言うには……」

 相変わらず天井を睨んだまま、シュキナはゆっくりと話を続けた。

「那夜の足取りを追うのは、相当困難だろうという。追ったところで那夜に辿り着ける保証もなければ、それに費やす時間も労力も、バカにならん。だが、お前さんらは、どんなに困難だと言われても、那夜に繋がる手掛かりがあれば絶対に諦めねぇだろ?」

「あたりまえでしょ」

 即答する翔に、他の四人も口々に同意する。その返答に、相変わらず天井を見上げたまま、シュキナは軽く目を瞑った。

「アーヴェン曰く。正直、お前さんらみたいな娘っこに那夜を追うだけの力量があるとも思えねぇ。だから、お前さんらには下手なことは言わず、このまま那夜のことは諦めるのがいいんじゃねーかと、やつは言いやがる」

「何それ!」

「冗談じゃねーよ。ここまで引っ張っといてそれはあんまりだぞ。それを決めんのはオレらだろっ」

 怒気を含んだ声を、シュキナは手を挙げて制した。漸く天井から視線を外し、彼は彼女達に向き直る。海より深い紺色の眸は、いつになく真剣なようにみえた。

「俺もそう思う。那夜を追うも諦めるも、決めるのはお前さんらだ。やつじゃない」

 はっきりと、シュキナは断言した。海賊というのは、とかくフェアであることにこだわるんだよな、とカルは頭の隅で漠然と考える。そんなカルにはお構い無しに、シュキナは話を続けた。

「こういうのは、フェアじゃなきゃいけねぇ。やつがどう思おうと、決めるのはお前さんらだ。だが、俺も詳しい話を聞いたわけじゃねぇ。情報を握っているのがアーヴェンである以上、まずはやつを納得させて話す気にさせなきゃならねぇ」

「どうすれば?」

 尚に短く問われ、シュキナは不敵な笑みを浮かべた。

「俺はな、アーヴェンからの条件を伝えにここにきたんだ。那夜を追うだけの実力が、お前らにあるかどうか……腕を試させてもらう、とな」

 五人の眼が狩人のそれになるのを、シュキナは心地よく感じた。冷静に獲物を見据える狩人の眼。

「それで、獲物は」

 宮の声が、低く響く。五人の顔を順繰りに眺め、シュキナは、ゆっくりとその名を口にした。

「『ヴェール海の女神号』」

 ヴェール海を通過する飛行船の中では最大級の客船、ヴェ−ル海の女神。

 その名を、彼女達はしっかりと胸に刻み込んだ。

 

 

=前編 了=

   

 

 

 

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