=第4章=
かつて賊といえば、陸路の盗賊、海上の海賊がその大半を占めていたといわれている。第二次賊討伐作戦の折、盗賊、海賊の多くは捕縛され、一度は根絶やしにされた。だが、法があれば法の網をくぐるものが現れるのが世の常。やがて、飛行技術の発達に伴って飛行船を操る「空賊」が現れ始め、潜水技術の発達は海に潜る船と新たな「海賊」を生み出した。
というのは、歴史の教科書の受け売りだが。
今カルの目の前にいるシュキナは、「潜水艇」を操る海賊の賊首であった。
「ところで、なんか噂してたんだって?」
懐から、前回の戦利品であるルビーの詰まった包みを取り出しながら、カルは戯宝館の店主・璃審に向き直った。古道具屋に似つかわしくないまだ若い彼は、眼鏡の奥の灰色の眸を細めて、嬉しそうにルビーを受け取る。
「ほー。こりゃまた、いいルビーだな。見ろよこの赤。んー、美しい」
宝石をもつ璃審は、またたびを貰った猫のようだ、とカルはいつも思う。放っておくといつまでもそうしている璃審をせっついて、カルはルビーの代わりに金貨と公用紙幣を受け取った。カウンターに積まれた公用紙幣を無造作にポケットに突っ込み、金貨は璃審の方へと押し戻す。
「こっちはサラン・ズーに預けておいて」
「あいよ」
璃審が金貨を箱に戻し、その上に空色の荷札を貼付け終わるのを待って、シュキナがゆっくりと口を開いた。
「その、噂なんだけどよ」
シュキナは、一旦言葉を切って声を落とした。璃審までが、珍しくルビーを脇へ押しやって真面目な顔をするので、カルも自然と居住まいを正す。
「どうやら……那夜の足取りが掴めるかも知れねぇぜ」
カルは目を見開く。数瞬遅れて、驚愕が彼女を襲った。
「な……に……」
思いもよらない言葉に、カルは言葉を失う。
これまで三年、どんなに探しても見つからなかった手がかりが、突然目の前に振ってきたのだ。ぐるぐると、走馬灯の様に色々な考えが頭を巡る。
諦めかけていた。それなのに。
失いかけていた「那夜捜索」への熱意が、ふつふつと心中に甦る。
「んなタイムリーな……いや、それは置いといて……だって……」
翔の夢といい、初めて得られるかもしれない手がかりといい、何かが動き出そうとしている、そんな想いがカルの胸を過る。
その中で、シュキナの言葉に引っかかりを感じ、カルは顔を上げた。
「えーと、ちょっと待って。足取りが掴める「かも知れない」ていうのは、どういう意味? それに、三年探して見つからなかったものが今更突然でてくるのはどういうわけ? あー、待った」
答えようと口を開きかけるシュキナを、両手で制してカルは続ける。
「えーと、あー、待ってね。それは……その話は、うちら皆で聞いた方がいい話な気がするんだけど……」
まだ少し混乱している様子のカルを、シュキナも璃審も黙って見つめている。ひとしきり額に手を当てて考えていたカルは、しばらくして一つ頷くと、もう一度シュキナに向けて顔を上げた。
「OK。シュキナ、もしできれば、今日こっちの船まできてくれないかな。そこで話をしてもらった方がいい気がする。那夜のこと、経緯、全部」
ふむ、と呟いて、シュキナは顎に手を当てた。
「そうしてやれよ。俺は、嬢ちゃん達なら大丈夫だと思うぜ」
璃審に促され、そうだな、とシュキナも頷く。
「よし、悪いが邪魔させてもらおう。だが、本当に船まで行っちまっていいのか? なんなら『海猫亭』で飯でも食いながらでも、いいんだぜ」
本来、たとえ古い馴染みとはいえ、家であり仕事場であり最も重要な拠点である船には、他人を乗り込ませないものだった。そこに上がるということに迷う様子のシュキナに、カルはきっぱりと言う。
「いや、『海猫亭』だと、誰か留守番に船に残して行かなきゃいけないもん。シュキナがよければ、船に」
再度そう言われて、シュキナは然りと頷いた。
「嬢ちゃん方の成功を祈ってるよ」
店の出口へと向かう大小の影に、璃審はそう声をかける。軽く振り向いてそれに応えて、二人は『戯宝館』を後にした。
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