=第2章=
「折角手配書に男って書かれてるのよ? 利用しない手はないじゃない」というのは、もっぱら翔の言葉である。彼女達はこうみえて、若い身空で立派な賞金首なのだ。似顔絵は巷に出回っているので、さすがに外を堂々と闊歩するわけにはいかないのだった。例えそれが、馴染みのヴェール・ロックであったとしてもだ。
ただ、幸か不幸か……彼女達は幸運なことだと思っているけれど……手配書の彼女達は、歴とした少年として描かれていた。十七、八の少年五人の空賊団。その実体が『グッドスピード』の残党であることも、十七、八の「少女」五人であることも、ごく一部の人間しか知らない。
そんなわけで、船を降りる時には思い切り女の子らしくするというのが、彼女達の暗黙のルールとなっていた。もっとも、翔の言うところの女の子らしい服装とやらを着るのも着せるのも、楽しんでいるのは翔だけという気がしないでもないのだが……。一応、翔の言い分に筋が通っている為に、四人は大人しく翔の着せ代え人形となっていた。
「………あのさぁ……いやいいんだけど……」
翔のクローゼットを覗きながら、尚は軽く溜め息をついた。全部屋共通の小さな作り付けクローゼットの中には、ところ狭しと洋服がかかっている。どれも、風の強い飛行船の上ではとても着られない服ばかりだ。エメラルド・アルシペル諸島、ドゥーズ諸島、ヒル・マイナ・ヒルノノありとあらゆる場所の民族衣装や伝統的な衣装が掛けられたクローゼットは、他の四人のどのクローゼットより色鮮やかに違いなかった。
その中から、翔は踝丈のふんわりとした白いスカートと鮮やかな緑のシャツを引っ張りだす。
「はい。これカルね。そっちにある焦茶の革ベルトも使って。で、尚はこれで、宮はこれかなー。こっちとどっちがいい?」
シャツとスカートをあっちこち眺め回してから、カルは大人しくそれに着替える。尚は渋い顔をしながら手渡されたゆったりとした水色のワンピースを頭からかぶり、その下に、翔の指定ではない麻の白いズボンを勝手に履く。そうして仕上げに、水色のワンピースのウエストを共布のベルトで締めた。
「……スカートじゃない方」
翔の示した二つのスカートを横目で睨んで、宮は力なく抵抗してみせる。
「どっちもスカートなんだけど?」
悪戯っぽい翔の笑みに、宮は観念して丈の長い方のスカートを掴む。心底嫌ならもう少し強く出るのだが、みんなの好みとボーダーラインを判っている翔は、それはアウトだ! というセレクトはしないので、外出着の選択で白熱バトルになることは不思議となかった。
もちろん、ここに落ち着くまでには数々のバトルがあったわけだが……。
宮が膝下丈の麻のスカートを履き、襟刳りの四角い濃いブルーのシャツを着終えると、尚とカルも丁度着替え終わったところだった。カルはやや丈の長い緑色のシャツの上から、焦げ茶の布ベルトを締めている。ぱっと見れば、二人ともヴェール・ロックのちょっとオシャレなお嬢さんといったところだ。一部を除いて。
「カル、帽子が変」
宮と尚に同時に指摘され、カルははたと自分の頭を押えた。黒いつばありの帽子は、どう見ても下の服装とあっていなかった。
そもそもつば付きの帽子といい、風にはためく上着といい、カルの普段着はおよそ空賊のそれには見えない。けれどそのおかしな風体も見なれて久しいので、みんな普段は帽子など気にもとめないのだ。だが、外出となれば話は別である。目立たない為の女装、もとい女の子らしい格好なのに、カルのその帽子は悪目立ちしていた。
「あー、そうだよね。ちょっと待って、別なのとって来る」
言いおいて、カルは隣の自室に駆けて行く。一体どれ程の帽子をもっているのかしらないが、翔のクローゼットといい勝負なのは確かだった。
「お待たせ」
ほとんど間を開けずに、カルは焦げ茶のカスケットを被って戻ってきた。それもどうよ、とは心の中だけで呟いて、尚は外廊下から縄梯子を下ろす。
「そいじゃ、いってきます」
軽々と欄干を乗り越えて、宮と尚が縄梯子を降りていく。その後を、よいしょっと、と情けない声をだしながら、カルが続いた。
「気を付けてね」
彼等が森に消えていくのを見送り、翔は空を見上げる。
ヴェ−ル・ロックの空は、早くも陽が傾き始めていた。
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