=第3章=
小屋の中は、思いのほか広かった。どうやら穿った洞窟の一番外側に小屋がついているようで、奥には更にいくつかの扉が見える。外の明かりが入らないのが玉に傷だが、それも大量の燭台とランタンで照らされればさほど気にならなかった。
「……本当にただの娘だな……」
不意に横からかかった声に、翔と宮、そしてタカが身構えた。よく見れば、尚とカルも各々懐に手を入れ、武器を握っている様子。一瞬で意識が戦闘態勢に切り替わる。その研ぎすまされた警戒の視線に晒されて、声の主はすっと目を細めた。
「なるほど。那夜が育てただけのことはある」
そう呟いたのは、白に近い灰色の髪をした、酷く不健康な印象の男だった。冷たい顔立ちに、色素の薄い眸が鋭く輝く。
「コンドル相手にあれだけの弾幕を張れるとは、正直思わなかった。実力は那夜の足下にも及ばんが、遠距離射撃対応のマシンガンに対物ライフルとは……、装備が生半可な賊とは大違いだな」
「……道具は最良最善のものを。うちの頭領の口癖なんでね」
警戒した視線はそのままに、宮はそう言って構えを解いた。先日のコンドルとの戦闘をまるで見てきたように語るのが、気にかかる。一方の灰色の男は、口の端を軽く持ち上げて嫌味な笑みを浮かべた。
「道具がなければ、コンドル一機にも勝てなさそうだったがな」
五人の表情が揃って怒りに変わる。そのコンドルを呼んだのはどこのどいつだ、と、のど元まででかかった言葉は、軽くあげられたシュキナの手によって遮られた。シュキナの紺色の眸が、すまなそうに細められる。それで溜飲が下がるわけではないが、五人はひとまず上げかけた拳を下ろした。
「道具の力と言われればそれまでだけど、その道具を揃える資金力と、適材適所に配して使いこなす能力は、実力のうちだと思……いますよ」
船酔いがやや落ち着いてきたのか、カルは生気の戻った双眸で灰色の男を軽く睨む。こんなやつに敬語を使うことない、と言いかけた誰かの言葉は、カルの囁きによって押しとどめられた。
「この人……蒼穹の白鷲だ。うちと同時期に討伐された、『アクィラ』の長」
えぇっ、と、タカの小さな声が漏れる。四人とも一瞬目を見開き、驚きの顔を見せた。各々顔に、思いもしなかった、と書いてある。
「なんだ。知ってたのか。アーヴェンの名に聞き覚えがないっていうし、ルースジェイル島から脱獄した云々……でまとめやがるから、知らないのかと思ったぜ」
「二つ名の方しか知らなかったんだもん。『アクィラ』討伐の時はうちもごたごたしてたし……」
言い訳がましく口ごもるカルに、灰色の男は肩を竦めて言う。
「それだけ下っ端だったというだけだろう」
その淡白な口調に、翔の片眉がぴくりと上がった。
「三年も塀の中にいると、根性ひん曲がるのねー。それとも性格悪いのは元から?」
冷ややかに嫌味を投げつける翔は、剣呑な空気を隠そうともしない。アーヴェンの冷えきった視線が翔に向く。そんな、一人と五人の間に横たわった溝の中で、シュキナは困ったように嘆息した。
「その辺にしてくれ、頼むから。まぁ、なんだ。コンドル相手に立ち回りして、取り敢えず無事帰ってきたんだ。その上、戦利品は既に璃審が買取値を報告してくれてる。これで納得だろ?」
向けられた紺色の眸に、灰色の男は不機嫌そうな表情を浮かべ、それでも確かにひとつ頷いた。
五人の顔が、ぱっと明るくなる。この灰色の男、那夜の行方の手掛かりを握る男――アーヴェン――。彼が頷くということは、それは……
「つまり……合格ってこと?」
確認するように向けられた翔の言葉に、シュキナは力強く頷き返した。
「やったっ!」
「わぉ」
五人が五人、喜びに湧く。さっきまでの剣呑な空気はどこへやらだ。単純というか、素直というか……。その様子をしばし微笑ましげに眺めていたシュキナは、ふっと息を吐き、表情を引き締めた。
「さて、まだ終じゃねぇからな。椅子に座んな。……アーヴェン、約束通り、お前が知ってるこた全部話してもらうぜ」
シュキナの視線を受けて、アーヴェンは黙って手近な椅子を引き寄せた。しかめ面で腰を下ろしたアーヴェンの向かいに、五人も各々腰を下ろす。一旦奥に引っ込んだシュキナが無造作にマグを盆に載せて戻ってくると、アーヴェンはゆっくりと口を開いた。
低い声が、とつとつと語り始める。時々考えるように言葉を選びながら、『グッドスピード』頭領・那夜が追い求めた「モノ」を、アーヴェンは語る。
それは、三年前のある夜に遡る……
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