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=第10章=

 本船の格納庫の扉が、ゆっくりと開く。尚は小型艇の操舵席に座り、革の手袋を両手にはめた。眉を顰めて、鬱陶しそうに一つため息をつく。

「なんでこの期に及んでコンドルかなぁ。アーヴェンとか言う奴、相当性格悪いとみた」

「那夜レベルの戦闘が試されるわけだね……しんど……」

 げんなりとした表情のカルは、小型艇の床から太いベルトを拾い上げた。伸縮性のあるベルトで身体を固定し、小型艇から弾き出されない様にするためだ。 

 締めたベルトの強度を確認し、カルは床に置かれたライフルを拾い上げた。マシンガンよりも一回り大きい対物用のライフルを、狙撃用の台座に載せる。

 カルと背中合わせの位置には、ほぼ同じ格好のタカがいた。彼女も大型のマシンガンを抱え上げ、狙撃用にしつらえた足場に足を踏ん張る。

「開口まで五秒、4、3、2、1……GO!」

 ガクンと大きな振動が伝わり、小型艇は格納庫から滑り落ちるように飛び出した。一瞬、自由落下の法則に従い、落下の方向の重力がかかる。その次の瞬間、小型艇はエンジンを噴かし、龍のように空を駆け上がった。

「……っ尚! もう少し丁寧に操縦しろ!」

「うるさいっ。そんな余裕ないっ。全速前進、一気に距離詰める!」

 ぐんっと小型艇が加速した。コンドルの戦闘艇が左右に散開する中、尚は更に小型艇の高度を上げた。上空の戦闘では、より上にいた方が有利なのだ。上から下は狙い撃ちし放題だが、下から上は狙いにくい。

 普通、マシンガンもロケット砲も、機体に取り付けられているのが常識だ。原則として、小型艇の前方にいる敵を対象にしているので、上空や後方にいれば被弾する確率が格段に下がる。

 逆に、彼女達のような“非常識”な戦闘方法をとっている場合、狙撃者が機体から乗り出して四方八方撃ちまくれるので、高度も前後も関係ない。

 つまり、一騎打ちなら断然彼女達の方が強いのだ。

 ……一騎打ち、なら。

 七機の内、四機が左右に展開し、彼らの小型艇に狙いを定める。それをみて、タカが叫んだ。

「囲まれたら終わるぞ。動き続けろ!」

「わかってるよ」

 険しい顔で、尚は操舵桿を右へ左へと動かす。機体を捩るように方向転換を加えながら、右へ左へ上へ下へと、目紛しく動き続ける。コンドルは同士討ちを恐れてか、それとも弾切れを恐れてか、なかなか撃ってこない。

 その間に、上空でもつれあう彼らの下方を、残りの三機がすり抜けていく。本船の追撃と小型艇の処理と、二手に別れられては都合が悪い。

「カル、抜かせるな!」

「ほいよ」

 口調とは裏腹の真剣な眼付きで、カルは照準を覗き込んだ。右へ左へと動き回る小型艇の中から的を狙うのは至難の業だ。背後ではタカのマシンガンの轟音が響き続けている。その中で、カルはすっと神経を尖らせた。

 尚の操縦が安定する、一瞬。

 カルのライフルから放たれた弾が、コンドルのエンジン付近をぶち抜いた。

 一機がバランスを崩し、左下方を飛行していた別の機体と接触して爆発炎上する。

「ラッキィ」

 残る一機は、突然の二機の炎上に動揺したのか、動きが鈍る。その一瞬をカルは見逃さない。カルのライフルに翼の付け根を貫かれ、残る一機はバランスを崩した。なんとか墜落を免れながらも、高度はぐんぐんと下がっていく。その機体が本船を追えないことを確認し、カルは別の獲物に狙いを移した。

 彼らの小型艇に群がっていたコンドルは、既に二機に減っていた。残りの二機は、タカのマシンガンの餌食になったのだろう。カルが狙いを定める間にも、一機が尾翼に被弾し、バランスを崩した。

 だが、その一機がなかなかしぶとく、容赦のない攻撃を仕掛けてくる。

「くっそ。さっさと墜ちろ! うぉ、あぶねっ」

 正面からマシンガンの掃射を受けて、タカは小型艇の中に身を隠した。小型艇の床に、一列に弾丸が打ち込まれる。その一部はタカの肩を擦り、カルの真横の壁にも弾痕を残した。

「ひゃぁっ。ちょ、ちょ……当たる、死ぬっ」

 打ち込まれる弾丸の数が半端でなく、尚の縦横無尽な操縦でも避けきれない。

 木片が弾け飛び、金属音が響き渡り、小型艇の壁面には弾が貫通した痕が無数にできる。障子に開けた穴のように、そこから青い空が垣間見えた。

 それでも、致命的な場所に当たらないのは、狙撃手の腕が悪いのか、尚の操縦が上手いのか……。

「今だ、後ろを取れ!」

 タカの声と同時に彼らの小型艇が旋回し、しぶといコンドルの後ろにつく。いつのまにかマシンガンに持ち替えたカルが、その背に向けて乱射する。

 − バララララララッ

 放たれた弾は、コンドルの背に掠りもせずに空に散った。

「あんの人操縦上手いなー」

「言ってる場合か!」

 残っていた一機を片付けて、タカが応援に加わる。タカとカル、二人が撃ちまくる弾幕を、ただ一機残ったコンドルの機体はひらりひらりと躱していく。尾翼に被弾していてこれだけの旋回能を維持するのは、カルが感心するのも納得の腕前である。

 だが、後ろをとられっぱなしで撃ってこないところをみると、コンドルも現状維持が限界なのかもしれない。

 それに気づいて、ふと、カルは構えていたマシンガンを下ろした。

「これ以上やっても無駄弾になるよ。取り敢えず、逃げに転じるってどうだろう」

 カルの提案に、尚が疲れた表情で頷いた。残りの燃料の問題もある。これ以上の戦闘には意味がない。尚はひらりと小型艇の進路を変えた。

 彼らの意図に気づいてか、コンドルも敢えて追ってはこない。

「悔しいんだろうなぁ」

「悔しいじゃねーよ! こいつだってこんなに傷だらけになって……あーっ。覚えてろよ、コンドル24号機!!」

 そんな捨て台詞を吐くタカを、尚は疲れた顔で振り返り、冷めた眼で一瞥した。

「24号機だったんだ。よく見てるねぇ」

 ベルトを外し、狙撃用に開けていたドアを閉じて、カルは床にすとんと腰を下ろす。重たいマシンガンを振り回した所為で、肩と腕が凄まじく痛かった。ぐるりと首を回して、伸びをする。

「カル、寛ぐなよ。ナビしろナビ」

「ん。じゃ、取り敢えずタカの手当してからね」

「取り敢えずかよ!」

 だって、大した怪我じゃないじゃん。と酷いことをいいながら、カルはてきぱきとタカの傷に包帯を巻いた。ぶつくさと文句を言っているタカの台詞は、全部右から左に聞き流す。

「燃料は?」

「足りる」

「ん。でもこの機体で“乱風の砦”はしんどいから……“鳥の巣”から本船に連絡して合流するかー」

 カルが海図片手に指示を出す。先刻の戦闘が嘘のように、小型艇は高度を落とし、海面すれすれを静かに飛んでいた。

「アーヴェンとかなんとかはぜーんぶ、後だな。取り敢えず寝てぇ」

 タカの呟きに、カルと尚は苦笑して頷く。

 腕試しの結果が合と出るのか否と出るのか、それはまったくわからない。まだ、那夜につながるという実感すら、彼らにはない。

 ただ、いつもより大きな仕事をこなした達成感と、戦闘を切り抜けた安堵感だけが、彼らを包み込んでいた。

   

 

 

 

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