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=第8章=

 タカと翔が各客室に殴り込みをかけている、丁度その頃……

「はーい。抵抗しなければ危害は加えませんから、大人しく壁側に集まって下さいねー。装飾品の類いは一通りご提出頂きます」

 厳ついマシンガン片手に、カルは広間の客達から金品を巻き上げていた。そのなんとも緊張感に欠ける雰囲気に、乗客達は戸惑いを隠せない。お互い顔を見合わせつつ、彼らは大人しく壁際へと集まった。襲撃を受けて恐怖でパニックになる、などということもない。そんなものは、この能天気な賊の登場で何処かへ引っ込んでしまったようだ。

「はいどうも。ご協力感謝します。あ、そちらのお嬢さん、申し訳無いけど、そのチョーカーも頂けるかなぁ? はい。有り難う」

 乗客達とカルとの間に、ゴロゴロと装飾品が並ぶ。

「んー。さすが皆さん、いいお品をお持ちで」

 ちらりとそれを検分して、カルは自然と笑みを浮かべた。

 そこへ、ばたばたといくつかの足音が響き、新たに数人の客が広間へと姿を現す。翔やタカに部屋から追い立てられた人々だろう。

「お。そちらの皆さんもどうぞ壁際へお集まり下さい。装飾品はこちらへどうぞー」

 ここでもまた、蒼白になっていた彼らの表情が戸惑いに変わった。壁際に集まっている乗客達と、思わず視線で会話する。

(なんだ、この能天気は?)

(知るか)

 広間に現れる客、現れる客、みんなが不思議そうな目でカルを見る。およそ空賊らしからぬ、ひらりとした裾の長い上着。吹きさらしの上空では邪魔でしかないだろう、白いソフト帽。気の弱い少年に見えなくもない、丸眼鏡の奥の眠そうな眼。年齢、性別不詳の温和な空気と、手にはなぜだかマシンガン。

 だが、そのマシンガンを持つ姿は、妙に堂に入っている。

「ひぃ、ふぅ、みぃ……んーと、あと二人でお揃いかな」

 カルが呟くのとほぼ同時、広間に四人、人が入ってきた。残り二人の乗客と、布袋を肩にかけた翔とタカである。

「お。きたきたー。タカ、この品物もよろしく」

「おう」

 カルの足下に転がる品々を、タカがひょいひょいと布袋に詰めていく。じゃらりじゃらりと音がするところをみると、どうやら随分と収穫があったようだ。

「おし、いくか」

 最後の一品を袋に無造作に放り込み、タカは立ち上がった。

「予定時間内だね。急ごう」

「ちょ、ちょっと」

 駆け出そうとした三人の後ろから、やや若い女性の声がかかった。三人は思わず立ち止まり、声の主を振り返る。同じ年頃の、勝気そうな青い眼をした少女が、腰に手を当てて立っていた。身なりからすれば、随分いいところのお嬢さんだ。

「なに」

 冷たく聞き返す翔を軽く睨んで、彼女は言葉を続けた。

「あなた達何者よ」

「空賊さん」

「そんなことはわかってるわよっ! どこの一味かって聞いてるの! それがわからなきゃ手配できないじゃない。『フライングドラゴン』? それとも『ラプト一家』? 名乗るくらいしなさいよ卑怯者」

 卑怯者、の言葉に、翔のこめかみが波打った。

「『フライングドラゴン』に『ラプト一家』? 冗談じゃない」

 翔の黒い眸が、不機嫌そうに細められる。それに気づいて、タカは彼女の腕を掴んだ。今は、こんなところで時間を無駄にしている場合じゃないのだ。

「おい翔、ほっとけ。いくぞ」

 口を開きかけて、翔は仕方なさそうに嘆息する。再度タカに促されて、翔は扉に向かって足早に歩き出した。

「ちょっと!」

「あのね、お嬢さん」

 詰め寄ろうと一歩を踏み出した少女に、カルは銃口を向けたまま困った様に首を傾げる。

「名乗る名前なんてないんだよ。『名無し(No Name)/(Nameless)』なんて呼ぶ人達はいるけどね」

「カル、さっさと行くよ!」

 戸口から翔の怒声が響いた。それじゃ、と軽く微笑んで、カルは戸口へと駆け去っていく。

「……“No Name”……?」

 呟いて、少女は去っていく空賊の背をただ呆然と見送った。

 疾風の様に現れて、手際よく仕事をこなし、そうしてまた風の様に去っていく。その出で立ち、若さ、仕事の精度、どれをとっても風変わりな空賊……“No Name”と名乗った彼ら……が、航路警備局のブラックリストの上位に名を連ねていることなど、少女には知る由もなかった。

   

 

 

 

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