=第7章=
「カル、時間は?」
『予定範囲内。今から外廊下向かうよ』
じゃぁ、と短く言って、カルの声は途切れた。それを確認し、翔は扉の外へ声を張り上げる。
「タカ、乗り込み準備は?」
「オッケ。あ、尚にもうちょい高度下げろって!」
「OK。尚? 聞こえる? もうちょっと高度下げてって」
『らじゃ』
『ヴェール海の女神号』は、窓越しに乗客の顔が判別できる程に近づいていた。金属で覆われた飛行船の外層は白銀に輝き、センスのいい緑と淡いピンクのラインが描かれている。丸く抜かれた各部屋の窓には、驚き、戸惑い、不安……様々な表情の乗客達。
『ヴェール海の女神号』の左舷に、彼女達の飛行船がほぼ並ぶ。そのタイミングを見計らって、タカは肩に担いだ大きなボーガンを放った。ロープのついた矢が弧を描き、『ヴェール海の女神号』左舷前方に突き刺さる。矢がしっかり刺さっていることを確認し、タカは隣の宮に頷いてみせた。
「よし。んじゃお先」
宮はゴーグルを顔にあてがい、ひらりと欄干を乗り越える。そして彼女は、目も眩むような高さをものともせず、ロープに滑車を取り付けると、その先を自分の腰につけたフックへと接続した。そのままトンと足場を蹴れば、一直線に『ヴェール海の女神号』へと滑空できるという寸法だ。
「いつ見ても、凄い荒技だよね……遠慮したいなぁ……」
軽やかに宙へ飛び出した宮が、『ヴェール海の女神号』の窓ガラスを蹴破って侵入する様を見守っていた翔は、横からかけられた言葉に目線だけで振り返った。
「まぁ、那夜直伝の一番荒っぽい方法だからね。今回はハッチが側面の下の方にある飛行船相手だから、これしかやりようがなかったの。ちゃんとついてきな」
「うーぃ……」
カルの返事を待たずに、翔が足場を蹴って滑空して行く。その後ろに、おっかなびっくりのカルが続いた。
なんだかんだ言っても空賊の端くれ。一応、怪我をすることもなく『ヴェール海の女神号』へと到達する。
「ちゃんと来れたやん」
「……こういう時くらい帽子外せばいいのに……」
「カル、邪魔だ、どけっ」
先についていた宮と翔、そして後からきたタカ、それぞれに突っ込まれ、カルは右往左往している。それを尻目に、三人は手慣れた様子で、さくさくと戦闘の準備を整える。
「OK、まずは操舵室! 航路警備局が出張ってくる前に片付けるよ!」
「おう」
「カルは先に広間いってな」
「了解ー」
四者四様の武器を片手に、彼女達は部屋を駆け出していった。
◇ ◆ ◇ ◆
「空賊だっ。航路警備局はまだかっ!」
「操舵室に乗り込ませるなっ」
『ヴェール海の女神号』の操舵室では、乗組員達の怒号が飛び交っていた。
「扉の前にバリケードを……っわ……」
必死な彼らの抵抗も空しく、轟音とともに操舵室の扉が四散した。巻き上がった破片の奥から、三つの影が躍り出る。
携帯用のランチャーを担いだ、小柄な少年。額に巻いた青いバンダナが目を引く、細身の少年。そして、いかにも賊らしく、片目を眼帯で覆った、金茶の髪の少年……。
『ヴェール海の女神号』の乗組員達の目には、彼女達の姿はそう映っていたに違いない。ぴしぱしと無駄のない動きで手刀を繰り出し、片っ端から乗組員達を沈めていく。その様は、確かに喧嘩慣れした巷の少年のようだった。彼女達が動きを止め、にこりと笑顔を向けでもすれば、彼女達が少年ではないことは一目瞭然なのだが……当然彼女達はそんなことはしない。
「さて、ここで大人しくしていてもらおうか」
最後の一人、操舵桿を握るまだ若い男にナイフを突きつけ、翔はタカに軽く目配せをする。タカが腰のバックから取り出したロープで男を縛り上げると、彼女達は漸く一息を吐いた。
「じゃ、あとここよろしく」
「はいよ」
まだ、航路警備局の近づいてくる気配はない。そのことに、少し胸を撫で下ろす。タカと翔は当初の計画通り、宮に操舵室を任せてその場をあとにした。
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