+

 

+

 

 

=第6章=


 その日の空は、一枚の青ガラスの様に、何処までも晴れ渡っていた。

 風を切って進む飛行船の小さな小さな影が、眼下の海に染みを作っている。

 上空は目の覚めるような空の青。眼下は何処までも深い海の青。

 まさに絶好の仕事日和。

「晴れたねぇ。見晴らし良好」

 飛行船の船底部に作られた、人一人座るのがやっとの狭い見張り場で、カルは双眼鏡を片手にくつろいでいた。手元のマグホルダーには、気に入りの白いマグに入った翔お手製のブレンドティー。前後左右と足下の床、あわせて五カ所に作られた窓から見えるのは、パノラマに近い最高の眺め。珍しく白い中折れ帽を被ったカルは、普段の白く長い上着と相まって、リゾートの雰囲気を醸し出している。

 勿論それは、足下に無造作に置かれたマシンガンに目を瞑れば、の話だが……。

「まさに、襲撃日和だねぇ」

 さらりと不穏なことを呟いて、カルはマグのお茶を一口啜った。

『カル、そろそろ』

 伝声管越しに、操舵室から尚の声が届く。うぃ、と短く返事をして、カルは僅かに姿勢を正した。双眼鏡を握ったまま、広い眼下にくまなく視線を巡らせる。その緑がかった黒い双眸が一隻の飛行船を捉えるまで、長くはかからなかった。

「いたいたいた。目標発見〜。予定通り、真っ正面の下方に目標影、『ヴェール海の女神号』確認。乗り込み準備OK?」

『OK。用心棒の小型艇は二機のはずだから、始末お願い』

「了解〜」

 船底近くの格納庫から、翔の指示が飛ぶ。その間に、彼らの飛行船は急速に『ヴェール海の女神号』へと接近していく。空を漂う白い点が「飛行船」として肉眼で認識できるようになる頃、カルは前方の飛行船から躍り出る小さな点をみつけた。

「んー。久々だから腕が鳴るね」

 カルはコキコキと指の関節を鳴らし、おまけに首の関節も鳴らす。そうして彼女は徐に、足下のマシンガンへと手を伸ばした。重量感のあるマシンガンを膝の間の台座に載せる。上着の襟を合わせて冷気に備え、銃口を出すための小さな窓を開ける頃には、『ヴェール海の女神号』から飛び出してきた小型艇は彼らの船の目前にまで迫っていた。

「もらった」

 ぼそりと呟いて、カルの指が引き金を引く。バラララッと小気味の良い音が辺りに響き、小型艇の片方がバランスを崩した。だが、崩れた姿勢はすぐに立て直される。

「お。なかなかやるねぇ」

 − バララッ バララララッ

 カルの撃つマシンガンを器用に避けながら、小型艇は少しずつ距離を詰めてくる。ちょろちょろとつかず離れず蛇行飛行を繰り返す小型艇に、カルは余裕の笑顔を浮かべた。

「ふふ〜ん。無駄弾撃たせようって? その手には乗らないよ。……ここだっ」

 カルのマシンガンが唸りをあげ、尾翼に被弾した小型艇は、錐揉み状態で落下していく。その小型艇から白と赤のパラシュートが脱出するのを見届けて、カルは残る一機に視線を戻した。

「さーてと」

『カル、遊んでないでさっさとしなっ!』

『この船だって被弾すんだぞ! もっと労れ!』

 伝声管を伝わって、方々から怒声が届く。

「うーぃ」

 伝声管に向けてではなく、独り言のように呟いて、カルは照準を覗き込んだ。次の瞬間、カルのマシンガンが炸裂する。横に流れて弾を交わそうとする小型艇の「読み」よりも、カルの狙いの方が正確だった。エンジンに被弾した小型艇が、黒煙をあげながら落ちていく。

「はーい、いっちょあがり。次行こー」

 緊張感の抜けたカルの声が、伝声管を駆け抜けた。

   

 

 

 

+

 

+

 

=BACK=

=NEXT=

=MENU=

第一部
123456

第二部
12345678910

第三部
12345

Copyright © 2007 Kaoru TATEWAKI. All rights reserved.