=第4章=
− カンカンカンカンッ カンカンカンッ
うっすらとした意識の中で、リズミカルな金属音が響いていた。
「ん……」
渾身の力で瞼を開き身体を起こすと、体中が悲鳴を上げた。どうやら、机に突っ伏したまま眠ってしまったらしい。
「あー……」
声にならない声で呻いて、尚はぐんと伸びをした。ばきばきと、凝り固まった筋肉がほぐれる。
− カンカンカンッ カンカンッ
「……タカか」
眠りを妨げたかん高い音に、尚は眉を顰める。今が何時か知らないが、ろくに寝た気がしないので、まだ朝も早い時間には違いない。欠伸をかみ殺し、彼女は机に視線を落とす。机の上には、大小様々な紙片が散乱していた。点と線ばかり書かれた紙、殴り書きの文字が踊る紙、小さな手帳に、分厚い本、そして、擦れて最早判別できないインクの伸びた痕……。尚は眉間を指で揉みながら、そのうちの一枚を手にとった。
− 航路警備局 ヴェール港入港船一覧
シュキナから、行方不明の頭領・那夜と『グッドスピード』の手掛かり……正確には、手掛かりの手掛かり……を聞かされてから、四日目の朝が明けようとしている。尚は目を閉じ、天井を仰いだ。
連日の無線傍受で、まとまった睡眠が取れていない彼女の顔は、やややつれていた。
彼女の仕事は、航路警備局の通信傍受から、軍の機密情報、同業者同士の情報交換に巷の噂話まで、「無線」という目に見えない空飛ぶ情報を選り分け、暗号化されたツーとトンだけの世界を解読し、必要な情報を得る、というもの。
この船の中で、尚だけが解読できる無線暗号は数知れない。
どれだけ高度な暗号を使っていようと、それがツーとトンの符号で構成される限り、彼女に解けないものはない……といっても過言ではない。
そう、例えば丁度今、彼女の手元にあるような。
「航路警備局は三交代だけど、こっちは一人だっての。漸く眠れたのに……あのバカ……」
明け方、昼、午後、夜、そして深夜。航路警備局と港の間で交わされる一日五回の入港、出港船情報を、尚はひたすら傍受し続けていた。それ以外にも、同業者からの連絡で叩き起こされることしばし……。この三日間、充分にまとまった睡眠は取れていない。暗号化された全ての無線を解読する。その中にようやく求める情報を見つけたのは、昨日の夜半過ぎであった。
欠伸をかみ殺し、尚は汲み置きの水で顔を洗った。ぼうっとしていた頭の芯が、幾分すっきりする。手についた水を軽く払って、尚はあらためて机の上の紙片を取り上げた。
「……うん。頑張った。超エライ」
思わず、自画自賛の呟きが漏れた。そこにあるのは、『ヴェール海の女神号』の入港、出港日時。再度その日付を確認し、尚はふと笑みを漏らす。
「明後日か……まぁ、余裕だろう」
紙片を無造作にポケットに突っ込むと、尚は食堂へ向かうべく踵を返した。
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