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算数 2 МАТЕМАТИКА 2
 МАТЕМАТИКА 2 КЛАСС, Учебник для четырёхлетней начальной школы, под редакцией Ю.М.Колягина, 2ое издание, Москва 《Просвещение》1988

ソビエト時代を偲ばせる内容
 ソ連時代の算数の教科書ってだけで面白そう。というわけで、「いかにも」な部分を探してみようと思う。

 例題を二つ:

 ピオネールたちは森と庭に鳥の巣箱を8つ設置しました。そのうち森に設置されたのは6つです。庭に設置した巣箱はいくつですか?
式:8−6=2
答え:2つ
(22ページ)

 夏休みに、ワーニャ君は7週間はピオネールキャンプに、残りの時間は田舎のおばあさんの家に行きました。ワーニャ君がおばあさんの家にいた期間は、キャンプにいた時よりも2週間短いです。
 夏休みはのべ何週間ですか?
(150ページ)

 ピオネールはソ連時代の少年組織で、10〜14歳の子供が加入したといわれる。こうやって森に巣箱を設置したり、夏休みになるとキャンプに行ったり、他のページだと隊列を組んで行進の練習をしたり、コルホーズで農作業をしたり、いろいろやるらしい。

 それにしても、上の二問目を計算しても分かるように、、ロシアの学校は夏休みが12週間、つまり三ヶ月もあることになる。長いことだ。

 一方、ピオネール入団前の、小学1〜3年の子供たちはオクチャブリャータと言われた。

 この教科書は小学2年生用だから、使っている子供たちは大方オクチャブリャータだったわけだ。たとえばオクチャブリャータはこのような問題に出てくる:

 オクチャブリャータたちはエゾマツを6本とシラカバを5本植えました。植えたエゾマツの数は、シラカバより何本多いですか?
(12ページ)
 子供たちの生活にとって身近なものを取り入れるのは、こういう本ではごく当たり前のこと(にしても、かなりアウトドア派である)。99ページにある映写機の挿絵など、スクリーンに映っているのはチェブラーシカとワニのゲーナである。チェブラーシカとワニのゲーナは、ソ連時代からある人形アニメで、この頃にはとっくに人気だったはずである。日本でドラえもんやピカチュウが教科書に出るように、こちらでもチェブラーシカが掲載されるのだ。

 おもしろ問題のページにはサンタクロース(しかも赤い)の絵がある。あれ、赤いサンタってアメリカが初めじゃなかったっけと思う。コカコーラ社が宣伝用に赤いサンタを広告にあしらったら、そのうち世界中のサンタクロースが赤くなったという逸話がある。一方でロシアのサンタクロース(「マロースおじさん」)は青じゃなかったっけ。まあいいや。

 しかし、同じ「おもしろ問題」のページでも、別のを開くと、次のようなぎょっとするものもある。

 ソ連憲法記念日までに、子供たちは一つのアルバムに切手を15枚貼り、もう片方のアルバムには5枚だけ少なく貼りました...
(24ページ)
 これ以外にも軍人の挿絵の背景に大きく「2月23日」(1917年のこの日、労働者のデモがあった)と書いてあったり、「絵はがき」の絵二枚には、片方はソ連の旗と「11月7日」(11月革命)の文字、もう片方には赤衛軍と一緒に「偉大なる十月革命万歳」とか書いてある。

 けれども、この本が出た年というのは1988年で、ゴルバチョフが改革を進めていた真っ最中。二年後にはソビエトが崩壊した。子供たちも、こんなソ連ぽいプロパガンダものに慣れっこで、適当に受け流していたに違いない。そう思うとこれらの記述が妙に切なく見えてくる。

雪国 〜さすがソ連&ロシア、と言わせる部分〜
 文章題を覗くと、アイスホッケーをやってるチームが出てきたりする。アイスホッケーは人気のスポーツらしいから当然である。日本だったら野球にしたところだ。

 しかし雪国らしい問題はこれだけではない。

 校庭では、雪かきをする子供が5人います...
(67ページ)
 こういうところにはっとさせられる。考えてみれば当然で、雪が降れば雪かきをしなければならない。こういうのを子供たちがやるというのは、もちろん効率性というのもあるが、日本の小学生が教室の掃除をするみたいな、教育の一環かもしれない。(日本でも地方によっては雪かきがあるかも。)

 それだけではない。

 ある問題では、スキー用具の値段を数えたりする。たとえばスキー板が5ルーブル、ステッキが2ルーブルする。足すと7ルーブルだ。そしてこういうスキーを使って、小学生たちは「スキー散策」лыжная прогулкаに出かけるらしいことまで分かる。

 全長70メートルの小道があります。その両端から、二人の少年がスキーにのってお互いに中心を目指します。すると二人がぶつかった地点で、片方の男の子は22メートル進んでいました。もう片方の男の子は何メートル進んだでしょう?
(106ページ)
 ロシアの学校は9月に始まるというから、教科書でこの部分を習うころには、すっかり冬にさしかかっているだろう。おそらく、100ページ前後に雪やスキーが多く登場するのも、季節感を出すための工夫と思われる。
登場する動物たち 〜ロシアの民話と同じ顔ぶれ〜
 うさぎが三羽いて、後から二羽来ました…という類の問題はもちろんある。こうした問題に登場する動物を1ページから最後まで探してみると、次のような顔ぶれになる:

кролик 野うさぎ/зайчонок 子うさぎ
цыплёнок 鳥のひな
лиса キツネ
медведь クマ
волк オオカミ
воробей スズメ
рыба さかな
синица シジュウカラ
снегирь ウソ(鳥)
овечка 雌の羊
белка リス
сосновик ハシブトイスカ(鳥)
гусь マガン、ガン、ガチョウ
утка 鴨、アヒル
курица めんどり
 この内、うさぎ・きつね・くま・オオカミあたりはロシアのおとぎばなしにもしばしば登場する生き物である。ロシア人には馴染みの動物なのだろうか。ちなみに、本テーマとは関係ないが、この動物の名前のロシア語を辞書で調べると結構面白い。たとえばлиса[リサー]には「キツネ」のほかに「ずるい人」という第二の意味がある。そして更に面白いことに、ロシアの童話だとキツネはしばしば意地悪な役割で登場する。この辺は当サイトの別コーナーで研究してみたいと思う。

 その他を見ると、シジュウカラやハシブトシウカのようなかなり詳しい鳥の名前がある。しかし考えてみれば、日本人がウグイスやタンチョウヅルをよく知っているのと、同等かもしれない。

野菜、果物、その他植物の名前 〜ロシア人は何を食べているのか〜
 上と同様に、練習題に登場する植物や食べ物を探すと:

ягод ベリー
яблоко リンゴ
груша ナシ
помидор トマト
картофелин ジャガイモ
огурец キュウリ
арбуз スイカ
тыква カボチャ
капуста キャベツ
дыня メロン、マクワウリ
слива スモモ
рябина ナナカマド
апельсин オレンジ
смородина スグリ
 ベリーやリンゴ、ジャガイモを見る限りは、ロシア人のステレオタイプ的イメージにかなり重なる。しかしキュウリやスイカ、メロンなどはかなり意外ではないか。
ソ連の教室を想像する
 学校生活を感じさせるロシア語の単語も見つかる。

 小物でいうなら、「ノート」や「鉛筆」みたいな文房具。ロシアの子供が使うノートはどれも体裁が似ているようで、大抵はシンプルな単色の表紙で、真ん中にТЕТРАДЬ「ノート」と、ずばりそのまま印刷してある。「ノート」とある下に、自分の名前と学年、学校名を書く欄が作ってある。中身を開くと、一行ごとに三本の線が引いてある。さらに一行全体に/////と斜めの線がかぶさっている。この線に合わせて、ロシア語の筆記体を練習するわけである。日本で一般的なB5版ほどには大きくはないようだ。

 ところで。

 ロシア語の勉強を始めると、最初に覚える単語はなぜか勉強関係のものばかりである。筆者は大学入学以前にロシア語を独学していたとき、使っていた参考書で、「学生」「大学」を筆頭に、「鉛筆」「ペン」「書き取り」「教科書」「予習復習」みたいな単語がやたら出ていたのが印象的だった。当時は、その本の特徴なのだと思っていた。しかし大学に入学して、ロシア語学科が指定した教材を使っているときも、なぜかこの手の単語が頻出する。考えられる理由は、どちらの教材も古いために、内容がソ連的だということ。ソ連時代は教育熱心だったというから、ロシア語の教材に登場する単語も真面目で、描かれる人物も勉強が好きで模範的な学生なのかもしれない。

 文房具以外にに興味深いのは、классная библиотечка「学級文庫」とаквариум「水槽」という単語である。「学級文庫」が教室の隅にあるというのは日本の小学校と同じだし、аквариум「水槽」は学校のミニ動植物園コーナー(уголок природы)にあるものらしい。

本題?ロシアの算数と日本の算数
 そもそも算数や数学というのは、世界共通の記号を使って、世界共通の理論を学ぶもののはず。

 だから、言葉が通じない国の人どうしでも、数学者どうしなら、数式で筆談すれば心を通わせられるという、ちょっと信じにくい話まである。

 ところが、ロシア人の書く数式はどうも日本人のと違うらしい。

1)数字の書き方
日本は四角いマスに納めるような形で書くのに対し、ロシアでは斜めに傾けて書く欧米式。図の上が欧米式、下が日本式。

ただしロシアの算数のノートは方眼紙のようである。 それはこの本に書いてある「手本」から分かる。たとえば筆算のやり方を教えるには、どうやって数字を並べて書くとかを児童に指導しなければならない。そのとき、教科書に示してある手本は、全てマス目に書いてある。

2)記号
掛け算は×ではなく・で表記している。この記号は日本では高校生以上で使用するものである。

 例)3・4=12
割り算は÷ではなく:で表記している。日本では普通、これを比の記号としてしか教えない。しかし考えてみれば比も割り算も同じことであるから、割り算に:を使う方式は合理的といえる。

 例)6:2=3

3)筆算
日本では21+32を筆算で行うとき
 21
+32
というように書く。このとき、+の記号は下の行(つまり足す数)に合わせて書く。しかしロシアでは足される数と足す数の中間の高さに書く。図を参照のこと:

☆教え方の違い

1)これは小学二年生向けであるが、掛け算は簡単なものだけで、日本のように九九の表を暗記するにまでは至っていない。

 しかし高学年(具体的には12〜15歳)になった場合を比べてみると、ロシアの方が高度なことを教えていると思われる。

2)計算問題には、不等号を入れさせる問題が非常に多い。

 例えば、 5+7*10 という問題は、 5+7が12であるから10より大きくなる。従って、*には>を入れるのが解答である。

 なお、この問題は定番化している。普通の足し算や引き算にならんで、この手の問題が載っている。定番なものだから、「不等号を入れなさい」という指示文は書く必要はなく、ただ「=><」という印が、ついているだけである。この印を見れば、小学生は「あ、等号か不等号を入れる問題だな」と理解して計算にとりかかるわけである。

 考えてみれば、=と>と<(つまり等号と不等号)を同列に扱っているわけだから、極めて合理的である。

3)また、自分で文章題を作らせる問題の数もかなり目立つ。例えば、「二回の演算で解答できる問題を作りなさい」「絵に描いてある果物に関連した問題を作りなさい」など。

4)さらに、"Устно."「口頭で答えなさい」という指示が書かれているものもある。

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