
物語の神の神託は、いつも唐突でございます。
あるゲートの時空の確定作業をしていたわたくしの心に、ふと、こんな考えが浮かびました。
「絵本……描きたい……」
次の瞬間、怒涛のごとくアイデアが降臨します。
もはやアイデアというより、目の前に絵本のページが……その中の光景が見えました! まさに神託。
これで描ける! よし、描くんだジョー!!(←違)
しかし、わたくしの画力では、脳内のイメージをきちんと紙の上に写し取ることができません。
試しにコピー用紙に線画で描いてみたのですが、あまりにもイメージを台無しにするその出来に、わたくしは一瞬で見切りをつけました。
そして、思いついたのです。
「よし、とりあえず、ことばの部分だけ書いておこう! 絵は……あー……ト書きっぽいものをつけて、ご覧になった方のイメージに任せるということで……!」
それじゃ 絵 本 じ ゃ ね ー じ ゃ ん
――というもっともなツッコミはさておき(……)、以下、神託の産物たる「絵本」(ではない)を展示いたしますね。
***の印は、場面が変わるところです。その部分にト書きがついている場合もあります。
題は『未来の子供たち』です。
***
未来の子供たち。
この子の名前は、テルテルルーム。
この子の名前は、ポルポルロッテ。
この子の名前は、ミルミルトール。
三人は、とても仲のいい友達で、
いつも一緒に学校へ行くのです。
学校への道は、全自動だから、
歩かなくても、眠ったままでも大丈夫。
Z
目に入るのは、高層ビル、高層ビル、高層ビル、
ニュースをやっている掲示板、
そして、人、人、人。
どこにも川はありません、なぜって、
水はみんな、浄水施設のパイプの中を
流れているから。
どこにも太陽はありません、なぜって、
街はすっぽり、安全ドームにおおわれていて
光は照明でまにあうから。
どこにも草木はありません、なぜって、
巨大な装置が、街じゅうのあちこちで
新鮮な空気を吐き出しているから。
川 太陽 草木
子供たちはそんなものを見たこともないし、
また、知りもしないのです。
なぜって、
人間が、この、ドームのなかの街に住むようになってから、
とても、とても、とても
ながい時が過ぎたから。
授業では、ロボットの先生が、
ひとりずつについて、教えてくれます。
給食には、いろんな色 味 形をした、
栄養のあるものが、いっぱい出ます。
休み時間は、みんなして、
サッカーのゲームやテニスのゲーム、
図書館へ行く子たちもいます。
「ねえ これ 何かしら」
「見てみよう」
*** 三人、古い古い映像を見る。川、太陽、草木。
「なんてきれいなんだろう
これは いったい何だろう」
「どうして 天井が
こんなにきれいな色をしているのかしら」
「こんなきれいなところがあるなんて
ここは いったいどこだろう」
「知りたいですか」
*** 現れたのは、一人の女性。
「あなたはいったい 誰ですか」
「わたしは 市長シルバーグリーン
その映像の正体を知りたいなら
わたしのあとに ついてきなさい」
*** シルバーグリーン、子供たちをドームの頂上の、秘密の展望台へ連れてゆく。どこまでも広がる灰色の空、黒い大地。
「昔 この世界は
さっき きみたちが見たように美しかったという
空は青く 鳥たちが幸せに歌い
海は青く あたたかい光に 美しくきらめいていたという
でも いつからか
こんな 変わりはてた姿になってしまった」
「いったい どうして こんなことに」
「そうです どうして こんなひどいことに」
「どうしてなのか その謎は
今となっては もう知る者はない」
「なんとかして もとに戻すことはできないの」
「それは わたしには分からない」
「ただ……」
*** シルバーグリーン、子供たちを見つめる。
「大昔から伝わる ひとつのおはなしがあって
それによると 世界をもとどおりにできる宝物が
広い広い 世界のどこかに
たったひとつ 残されているという」
*** 子供たち、それぞれの寝室。
三人の子供たち、家に帰っても、
考え事して、眠れません。
どんなにぎゅっと目を閉じても、
まぶたの裏に浮かぶのは、
あの美しい映像のこと、
おそろしくさびしい、外の世界のこと、
シルバーグリーンが話してくれた、
世界のどこかの宝物のこと。
*** 翌日。三人、市長の執務室を訪れる。
「ぼくたち 宝物を探しにいくよ」
「あの きれいなきれいな景色を わたしたちこの目で見てみたい」
「ぼくたち力を合わせれば きっと見つけられると思う」
「それなら わたしもいっしょに行こう」
*** 子供たちとシルバーグリーン、黒い大地を銀色の乗り物で走る。
こうして四人は旅に出ました、
あてのない旅、地図もない旅、
どこへ行っても、どこまで行っても、
目に入るのは灰色の空、黒い大地。
***
「あっ 街だ」
***
「暗いね」
「こわいね」
***
「谷だ」
「何もないね」
「何かきこえる」
「何かいる!」
*** 黒い影のような、様々なかたちの生き物たちが四人を取り囲む。
「ニンゲンだ ニンゲンだ」
「ニンゲンだ ニンゲンがいるぞ」
「どうして ニンゲンがここにいるんだ」
「そうだ 何しにやってきた」
「わしらをころしにやってきた」
「わしらのすみかをこわしにきた」
「やっつけろ やっつけろ」
「やっつけろ やっつけろ」
「違う」
「いいや わしら忘れない」
「大昔 ニンゲンわしらをころした」
「わしらのすんでた森をころした」
***
「そしてある日」
*** 激しい爆発の映像。
「ニンゲンたちはころしあい
そしてわしらをまきこんだ
熱い火がわしらを焼いた
熱い 熱い 熱い
ニンゲンきえた
わしらもきえた
森も 鳥も 獣も 魚も
何もかも――
いきのこった わしらは
この谷に かくれ
暗い世界で ほそぼそと
今日まで 命をながらえた」
「なのに 今またニンゲン来た」
「わしらのすみかをこわしにきた」
「わしらはニンゲンゆるさない」
「ゆるさない」
「ゆるさない」
「ゆるさない」
*** シルバーグリーンは、ぼろぼろになりながら、つかみかかる影たちから子供たちを守り、乗り物に押し込む。影に喰らいつかれ、彼女の右肩から先がもぎ取られる。しかし、そこから飛び出したのは黒いオイル、無数のコード、金属の骨格。乗り物は自動操縦で走り出す。シルバーグリーン、乗り物の床に横たわる。子供たちが取り囲む。
「シルバーグリーン!」
「テルテルルーム
ポルポルロッテ
ミルミルトール
わたしの話を聞いてほしい
わたしたちの街ができたとき
人間たちはわたしを市長に選んだ
人間は自分のことしか考えず
あやまちをおかすからと――」
***
かしこいロボット、シルバーグリーン、
市長の大きな椅子に座って、
とても、とても、とてもながいあいだ、
街を正しく治めてきた。
あの日のことを忘れた人間たちが、
再びあやまちをおかすことのないように、
とても、とても、とてもながいあいだ、
人間たちを、みちびいてきた。
***
「だが
もう わたしの役目は終わった
なぜなら
きみたちは 学んだから」
*** シルバーグリーンの胸部がスライドして開き、胡桃ほどの大きさの植物の種が現れる。
「これは……」
「世界をもとに戻すことができる
たったひとつの宝物
どれほどの年月がかかるか分からないけれど
きみたちの 子供たちの子供たちの子供たちの
ずっと先の子供たちの上に
いつか あの空が戻ってくる日がくる
いいね きみたちが知ったことを
決して 忘れてはいけないよ
きみたちの 子供たちの子供たちの子供たちの
ずっと先の子供たちの時代になっても
永遠に 忘れてはいけないよ」
「ぼくたちは決して忘れない
子供たちの上に もう二度と
この灰色の空が
やって来ないように――」
*** 壊れたシルバーグリーンを乗せて、子供たち、街に帰る。大人たちに事情を説明し、街の外に種を植える。その場所を見下ろす丘の上に、シルバーグリーンの墓として大きな碑を建てる。
*** ここから時間が早回しになる。種が芽吹き、樹となって、花をつけ、実をつける。種が落ち、そこからまた芽が出て、林が生まれ、森が生まれ――それを代々、見守る人々。
*** 人は次々と年老いて死に、その子供が見守る役目を受け継ぐ。時とともに碑は風化し、碑文は薄れる。森はどんどん巨大になってゆく。獣たち、鳥たち。
そして――
*** 現代の、郊外の住宅地。芝に覆われた丘。駆け上ってくる女の子。見下ろす街。車が走る。林もある。工場もある。鳥が飛ぶ。美しい青空。
「おとうさーん
おかあさーん」
「きれいな空ねえ!」
*** 笑顔で丘を降りてゆく家族。丘の頂上に、小さな小さな石碑。その後ろから覗く、黒い影。じっと家族を見つめる。
アノ ハイイロノソラ
ハイイロノウミ
ケッシテ
ワスレテハイケナイヨ――
【終】
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