01. elegy/悲しみの詩



「ねえ、あんた」

 声をかけられて、男はようやく我に返った。

 ずっと無意識に弄り回していたコムリンクをベルトに戻してそちらを見ると、黒髪の少年がいた。

 男と同じ民族的特徴を備えた顔立ち。

 唇に薄くグロスを塗り、幼い顔に似合わない計算ずくの笑みを浮かべて、彼を見上げている。

「誰かを待ってるの」

 裏通りの、安いバー。

 時折ちらつく照明に照らされた店内の空気には、まるで壁に浮き出た染みのように、今夜の雨でも洗い落とせない物悲しさが漂っていた。 

 恋人との逢瀬にも、若いギャングどもの馬鹿騒ぎにも相応しくない。

 何かを喪った者が、その空虚感に惹かれて集まる。そんな店。

 表で、潰れた店の破れたひさしを雨避けに、売れない路上ミュージシャンが擦れた声で歌っている。

 雨音と混じった歌声が舗装のひび割れに流れ込み、この街のあらゆるろくでもない記憶とともに、側溝を泡立ちながら流れていく。

 少年は、男の隣のスツールに座って飲み物を注文し、相手の横顔をちらちらと窺った。

 この辺では滅多にお目にかかれないような、極上の美男子だ。身につけているものも、控えめだが趣味がいい。

 いいところのお坊ちゃんにしては用心棒を連れていないから、マフィアの上級幹部といったところかな、と少年は見当をつけていた。

 そうでなければ、こんな若い優男が、ここらあたりを1人でうろついて、誰にも手出しをされずに済むはずがないからだ。

 男は、この店の品揃えの中では一等ましな酒を手の中に包み、その褐色の表面を見つめていた。

 やがて、男は呟くように言った。

「その人は来ない」

 ねえ、僕じゃ、その人の代わりにはなれない?

 それが、はじめての客をおとすときの少年の決まり文句だった。

 今夜もそう言おうとして、少年は、得意の文句が喉の奥に貼り付いてしまったのを感じた。

 酒の表面のさざなみを見つめている、少年と同じ黒い目は、まるで底知れない淵のようだった。

 かすかに笑っているように見えるのは、照明の具合だろうか。

 自分自身を嘲っているような――哀れんでいるような、そんな笑みだった。

 少年は、唾を飲み込み、囁いた。

「僕じゃ……その人の代わりにはなれない?」

 結果は分かっていても、仕掛けてみようと思ったのは、この男に本気で惹かれたから。

 身体の奥底をざわめかせるような、奇妙な魅力を男は持っていた。

 それは、蛾を惹きつける炎のような――中毒者を惹きつける麻薬のような――暗く、危険で、抗いがたい何か。

 黒い目がゆっくりとこちらを向き、見つめてくる。

 少年は、魅入られたように見つめ返した。

 やがて、男はふと笑った。

 少年は、奇術師のトリックに騙された人のように、ぱちぱちと目を瞬かせた。

 男の放つ雰囲気が、変わっている。

 一瞬前に目の前にいた男と同じ人間だとは思えないほどに、柔らかく、優しげだ。

「誰も、さ」

 男は言った。

 少年は、思わず尋ねた。

「どんな人なの?」

「金髪で……目の色は、青とみどりで」

 一口、酒を含んで、小さく肩をすくめる。

「ぶっきらぼうで、射撃が上手くて、ケンカが強くて……甘いものが大好き」

「甘いもの……」

 その人物の姿は、少年の脳裏にうまく結像してくれなかった。

「あと、小さい」

「小さいんだ……」

 あらぬことを想像し、複雑な表情になる少年だ。

 しかし、すぐに、真顔になった。

「ノンケなんでしょ、その人」

「ああ」

「それなのに、好きになっちゃったんだね」

 路上ミュージシャンは先ほどからずっと、誰も聞いていない愛の詩を上ずった声で叫び続けている。

「無理だと思いながら、好きになっちゃったんだ」

 哀しい。

 少年は、不意に泣き出しそうになった。

 客の気を惹くための芝居ではなく、心の底が揺さぶられるような感覚があった。

 何だろう、今夜は、いつもと違う。

 雨の中のこの店も、来ない相手を待つ目の前の男も、誰も聞かない歌を歌う路上ミュージシャンも、そして自分も。

 皆、なんて哀しいんだろう――

「僕も、あんたのことが、好きになっちゃったかも知れない」

 無理だと思いながら、好きになっちゃったんだ。

 分かってる。分かってるよ、分かってるんだ――

 哀しい。

「駄目だよ」

 案の定、男は笑いながら言った。

「君、まだ15かそこらだろう? 僕のバディは厳しいんだ。君は説教くらいで済むだろうけど、僕は殺されるよ」

「バディ……」

 少年の目が、怯えた獣のように見開かれた。

「あんた、治安官なの!」

 男は頷いた。

 それまでずっと黙ってグラスを拭いていたバーテンの背中が強張った。

 少年は、男を見つめたままスツールから滑り降りて、小さく首を振りながら後ずさった。

 そして、不意に身を翻すと、激しい雨の中に駆け出していった。

 男はしばらくその後ろ姿を見送っていたが、やがて、手の中の苦い酒を一気に飲み下した。

 路上ミュージシャンの歌はまだ続いている。

「……哀しいな」

 呟いて、札をカウンターに置き、彼は静かに店を出ていった。



                      FIN





02. emporte /我を忘れて

03. dolce /甘く柔らかに

04. scherzando /たわむれるように

05. atempause /息つく間・短い休止





06. whisper /ささやき声



 奪ってしまえよ。

 そんな囁き声が、聴こえる。

 おまえは、もう、充分に待ったはずだろう――?



「……はぁ!?」

 右耳を押さえて振り向いた君は、隠そうともせずに不機嫌な表情を浮かべてる。

「何だ。今、何か言ったかっ?」

「……おはよう、愛してる、って言ったんだよ」

「ほー」

 君の手がさりげなく挙がって、ホルスターに収まった《マチルダ》に添えられる。

「バカ正直な野郎だな。死なずに済むチャンスをやろうと思ったのによ」

「どうして怒るんだい? 僕はただ、挨拶をしただけなのに」

 分かってるよ。

 君は、僕の悪ふざけだけじゃなく、いつも僕に後ろを取られることが気に入らないんだよね。

「同僚に挨拶すんのに、耳元で囁く必要がどこにある……!? あと『愛してる』は断じて挨拶じゃねぇ!」

「そうかな」

「そうだっ!」

 ごしごしと耳を――僕が吐息を吹き込んだ耳をこすって、君は喚く。

 真っ赤になった顔が可愛い。  



 さっさとモノにしてやれよ。

 そんな囁き声が、聴こえる。

 おまえはこいつに、もっと可愛い顔をさせてやりたいんだろう――?



「君と僕とは、ただの同僚じゃないだろ?」

「いーや、100%どこまでも果てしなく完全に、ただの同僚だ」

「違うじゃないか、僕のバディ……」

 甘い声とともに近付こうとすると、さっと抜かれた《マチルダ》が僕の心臓をポイントする。

 相変わらず正確な狙いだね。

 でも――それは僕が回避しなかったからだよ、ギア。

 君は、気付いているのかな?

「それ以上寄ると、朝っぱらからモルグの連中を煩わせる破目になっちまうぜ?」

「本気で撃つつもりじゃないだろう?」

「いいや、撃つさ」

 君の瞳がだんだん冷たくなってくる。

 ああ……ぞくぞくするよ。

「今、装填されてるのは衝撃弾だからな。遠慮はしねえぜ。――お前が倒れたら、ひたすら殴って止めを刺してやる」

「――撲殺!?」

「俺の日頃のストレスの深さを思い知れってんだ」

 うんざりとしたように呟いて、君は《マチルダ》を下ろす。

「酷いなぁ。僕の愛情を、ストレスだなんて……」

「……俺は今、この地上に存在するあらゆるストーカーをまとめて滅ぼしたい気分だ……」

 怨念の漂う声音で呻いて、君は鬱陶しそうに僕を見つめる。

「どうして、この俺に、そこまで執着するんだ?」

「……どうして?」

 君のことばを、ゆっくりと繰り返す。

 瞬間、君の瞳に一瞬よぎった不安げな表情を、僕は見逃さない。

 そう、君には、まだ受け止める勇気はないはずさ。

 やわらかなサテンのクッションに潜ませた刃のように、厚い冗談の層にくるんだ、僕の本当の心を。

 それはパンドラの函。

 全てを気紛れな悪ふざけにしておけば、さらりと受け流すことができる。

 笑い飛ばすこともできる。

 でも、1度、その蓋を開けてしまえば。

 もう、2度と、引き返すことはできない――

 

「知りたいのかい、ギア」



《マチルダ》の照準が再び僕の身体を捉えるよりも早く、指先を伸ばして、その銃身を跳ね除ける。

 君が繰り出した拳――その手首を掴んで、ねじ上げる。

「うぉ……ッ」

 軽く足払いをかけると、重心を失った君の身体がぐらりと揺れて。

 掴み上げた腕を軸に、僕の腕の中に飛び込んでくる。

 僕たちは揃って固い床に転がった。

 衝撃に君の身体が強張る。

 僕は、欲望が昂ぶるのを抑え切れない。



 さあ、おまえの獲物だ。

 そんな囁き声が、聴こえる。

 思うがままに組み伏せて、引き裂き、蹂躙し尽くして、それから――



「それはね……」



 君の耳元で、低く囁く。



「ギアは……小さくて、すっごく可愛いからだよ〜っ☆」

「――死ねええええぇぇぇぇぇぇッ!!!」

 

 ドカァッ!!



 君のパンチをまともに食らって、僕は吹っ飛んだ。



 ……そう、君にはまだ、本当の答えを知る勇気はないはずさ。



 僕でさえ、まだ、それを告げる勇気が持てずにいるんだから。

 1度、この感情を解き放ったら、もう引き返すことはできないと分かってる。

 その時、僕は、きっと、君を壊してしまうだろうから――



 壊してやればいいだろう?

 そんな囁き声が、聴こえる。

『欲した物は、悉く奪い尽くすよう』

 おまえは、そう教えられてきたはずだろう――?



「違うよ……」

「はぁぁぁ!? 何が違うんだコラ! 現行犯逮捕だぁぁぁぁ!」

「え? い、いや、違……」

「うるせーコノヤロー! 潔く殴られて棒になりやがれコラァァァ!」

「ああぁぁぁぁ!?」

 

 いつか、君に、本当の想いを。



 その日まで、魔性の囁き声は、僕の中から消えない―― 



                      FIN





07. abgesang /最後の言葉



 自分の頬に、そっと指先を当てる。

 生身の指ではなくても、埋め込まれたセンサーによって感触の違いは分かった。

 皮膚とは異なる、ざらりとした、乾いた感触。

 保護パッドを当てた傷口がかすかに痛んで、ギアは眉をしかめた。

「くっそ。何だ……?」

 寮の自室。

 内装が殺風景なわりに乱雑に見えるのは、床にトレーニング機器の類があれこれと置いてあるからだ。

 ベッドの上にあぐらをかいてそんな床を睨みつけ、がしがしと頭をかく。

「何だってんだ、まったく」

 気に食わない。

 気にしなければいい。

 それでも気にして、こうして考えに耽ってしまう自分が、気に食わない。

(あの野郎)

 あいつが、最後に言った言葉。

 どういう意味なのか、分からなかった。

 尋ねても、きっとあいつはへらへら笑ってごまかして、答えはしないだろう。

 第一、尋ねる気もなかった。

 それでは、まんまとあいつの作戦に嵌まってしまったことになるような気がして。

(くそ)

 今この瞬間だって、充分にむかつく状態だというのに。

 ――気になる。

 あいつの最後の言葉に、意識が絡め取られている。

(あの野郎)

 俺をここまで悩ませるとは、いい度胸だな。



      *        *       *



「……おーい」

 3時間前。

 ひとつの事件に片がついた直後の、慌ただしい中にも安堵感の混じったざわめく空気の中で。

「え、何、何?」

 それまでじっと空を見つめていたあいつは、俺に呼びかけられて、スイッチでも入ったのかと思うような笑顔で振り返ってきた。

 俺は頬を歪めた。

 保護パッドを貼り付けた傷――犯人と格闘になったとき、ナイフで切られた――が引きつれ、ぴりりと疼いた。

「ちょっと屈め、カース」

「え?」

「いいから」

 言うと、あいつは不思議そうな顔で指示に従った。

「こ、こう?」

「もうちょいだ。……よし、ストップ。いいか? そのまま、動くんじゃねーぞ――」

 ゴスッ

「い……っ!?」

 顔面に俺のパンチをまともに食らって、カースの野郎は派手に路上に転がった。

「い、痛たたたたた……! いきなり何するんだよ〜ギア〜!?」

「うっせえっ!」

 握りしめていた指をほどく。

 もちろん、本気の一撃じゃねぇ。

 俺の本気のパンチなんか喰らわせたら、人間の頭蓋骨なんか、床に落ちた卵の殻みてぇに潰れちまうからな。

 頬を押さえて情けない声をあげてきたあいつを、俺は睨みつけた。

「……てめぇが! いっつまでもウジウジウジウジと、情けねぇツラしてやがるから、気合い入れてやったんだよ!」

 怒鳴りつけてやると、カースは、じっと俺を見返してきた。

 奇妙な表情。

 そこにあるものが何なのか、俺には、分からなかった――

「……そう、かな?」

「そーだっ!」

 もう一度、拳を握りしめる。

 今度は、さっきよりもずっと強く。

「いいか。……あれは――」



 カースは表から、俺は裏から。

 カースが犯人に声をかけて油断させているあいだに、俺が接近し、確保する。

 完璧な呼吸。完璧な作戦だった。

 途中までは。

 誰も掴めていなかった事実――1人だと思っていた犯人が、実は2人いた、ということに、気付くまでは。

 人質をとった主犯に忍び寄る俺……その背後から、もう1人が近付いてきていることに俺が気付くのと、カースの野郎が叫んだのは、ほぼ同時だった。



『ギア!』



 あの瞬間――

 カースの警告がなければ、俺はやられていただろうか?

 いや、俺だって気付いていたんだ。

 ……こんなこと、今さら言っても、どうしようもないけどな。

 とにかくその瞬間、俺の存在に気付いた主犯はキレた。

 人質の喉に押し付けていたナイフが横向きに引かれて、ぴっ、と血の雫が飛び――

 突進したカースが繰り出したナイフが、人質の頭を掠めて、主犯の喉を冗談のように貫き、頚椎を切断する。

 俺に見えたのはそこまでで、あとは、飛び掛ってきたもう1人との格闘になった。

 即座にナイフをひねり潰してボッコボコに殴りまくり、突入してきた仲間たちに引き渡してやったけどな。

『人質は無事か!?』

 駆け寄ると、血溜まりの中でぐったりしている人質をカースが助け起こしているところだった。

 一瞬、身体が冷えた。

『おい!? まさか』

『大丈夫』

 あいつは、赤と白のまだらになった顔でにっこり笑ってきた。

『喉の傷は浅いよ。床の血は、敵の――』

 その瞬間、あいつの表情が硬直した。

 同時に俺も、頬の濡れた感触に気付いた。

 浅い傷。犯人との格闘の最中は夢中で気付かなかったが、振り回されたナイフが掠っていたんだ。

『ギア……』

 呟くように、カースが言って。

『――傷病者、発見!』

『チアノーゼが見られる。輸血の用意は!?』

『いや、傷の程度は軽い……止血パッド!』 

 どやどやっと駆けつけてきた救急隊がその場を占拠し、ショックで気を失った人質の搬送作業にかかる。

 

 思い返すたびに、苦い感覚が喉の奥にせり上がる。

 ひでえ目に遭わせちまった。

 あんな傷をつけて、怖い目に遭わせちまって……。

 カースが警告を発したのが間違いだった?

 俺がもっと早くに、もう1人に気付いていればよかった?

 ――そう、そうだ、その通りだ――



「人質にケガさせちまったのは……俺たち、の、ミスだ。
 だから、なっ。
 てめぇだけ悪いってわけじゃねえ!
 だから、てめぇだけヘコむなっ」



 カースは、しばらく、ぽかんとしていた。

 ――ンなに、じっと俺を見つめるんじゃねーよ……。

 自分でも、ちょっとクサい台詞だと思ってんだ。

 ぴりっ、と新たな痛みが走ったのは、頬に血が昇ったから、だろうか?



すると。

 不意に、ふっ、とカースのくちびるが緩んだ。

「……あっはははははははは!」

「!?」

 急に笑い出したカースを、俺は、ゴキブリが人間に変身したとでもいうような目で見つめた。

 何だ、こいつ?

 戦闘の緊張がキレて、おかしくなったのか?

「な……何がおかしいんだよっ!?」

「いや……っ、違う、違うよ」

 くくくくく、と身を捩りながら、目尻の涙を拭う。

「違うんだ」

「はぁ!? ――ったく、何だっつーんだよっ!? てめぇが辛気臭ぇツラしてっから、俺が気を利かせてやったっつーのに、ぬわぁぁぁにを笑って……」

「……ね、ギア」

 すっとあいつの手が伸びてきて、保護パッドの上から、真新しい傷に触れる。

「まだ、痛い?」

「あぁ? ……別にっ。触ったくれぇじゃ何ともねえよ。つか、触んな」

「これでも?」

 ぐに

「――ッ! 殺すぞ!? 傷口が開く!」

「痛い?」

「い、痛くねーよッ!」

 ちょっと涙出かけたけどな、今のは……!

 だが、こいつの前で、弱い顔なんぞ見せられるかってんだ!

「――そっかぁ☆」

 ぱっ、と手を離して。

 あいつは、ぽん、ぽん、と俺の頭を軽く叩いた。

「なら、良かった!」

「…………はぁ?」

 俺は、思い切り――頬はなるべく動かさないように気を遣いながら――顔をしかめ、カースを睨む。

「……てめ、頭、大丈夫か? さっきから、ワケわかんねーぞ……」

「いいんだよ」

 不意に視線を外して、カースは呟いた。

 薄く笑っているようだったが、そうじゃないのかもしれなかった。

「分からなくていいよ。――今は、ね。
 ……早く、ここまでおいで、ギア」

「何?」

「待ってるから」



      *        *       *



「…………待ってる、だと?」

 どたん、とベッドにひっくり返り、頭の後ろで手を組んで、吐き捨てる。

「どこでだよ……。つくづく、ワケ分かんねぇっ」





 分からなくていいよ。――今は、ね。



 早く、ここまでおいで、ギア。



 僕は、ずっと、待ってるから――



                      FIN





08. absolute /完全無欠の





09. monologue /一人芝居/独白

 分かってるよ

 僕には時間がないんだってこと



 生まれ落ちたときに僕の上に記された運命が

 いつか、僕と君とを引き離すときが来るだろう



 君と別れなくてはならない日

 きっと僕は壊れてしまうね



 それは優しい安全装置

 君と離れて正気でいるなんて



 ぞっとする





 ――離れたくないよ、ギア

 君だけが僕の大切なものなのに



 切り取って飾ろうか

 ピンで留めておこうか 



 鎖に繋いで

 籠に閉じ込めて

 水槽に入れて

 花瓶に活けて

 永遠に

 側に置いておきたいな――





 ああ、駄目だ



 また、僕は駄目になる――



 そして、きっといつか



 君を駄目にしてしまうんだろうね





 呪われるがいい、僕の身に流れる血よ

 僕に愛しい人を傷つけさせるなら

 黒い砂にでも変わってしまうがいい



 呪われるがいい、僕の身に刻まれた名よ

 僕を愛しい人から引き離すなら

 地獄の炎に焼かれて消え去ってしまうがいい



 逃れられない



 我は   の家に属する者――

    

『その扉を開く者、暗き淵の辺に佇まん。』



                      FIN





10. soundscape /音の風景





●こちらのお題は……『恋したくなるお題 配布』さまから、お借りしたものだよ……。

 管理人の「ひなた」さま……どうも、ありがとうございました……。





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