作成日: 07/10/01  
修正日: 07/11/08  

暗闇から-episode2-

私がここに居る理由


「ご苦労様でした。氷室さん、朱さん。報告は聞きました。」
瞑子と炎雪が中に入ると、広い部屋の奥の方に座っていた人物が声を掛けてきた。
この広い部屋で扉から反対側の場所にいるのに、平然と聞こえるとは。
相変わらずムダに声が大きい。
「ごきげんよう、会長。戻りました。顔出すのが遅くなってすみません。」
すみませんと言う割にはうっすらと微笑まで浮かべて、瞑子は奥の方へ歩を進める。
扉の近くには白服の姿もあった。神門玲に祈紗枝だ。
会長の横には刃友の宮本静久、さらに奥にはノートパソコンで作業している帯刀もいる。全員ではないが主要メンバーは揃っていた。
「なんだ、あんたがケガするなんてめずらしーな」
玲が、右手を白い布で吊っている炎雪に声を掛ける。
炎雪は玲に肩をすくめて見せ、瞑子の方をちらりと伺う。
「こんな遅くまでお仕事?ご苦労様だわね」
歩みを止めて、瞑子が玲に応える。
炎雪の腕の怪我は、軽くはなかった。
あの後寮に戻り、医務室で手当をしてから報告のため、学園の会長室に来た。
いつもの制服に着替えていたがそのままでは具合が悪いだろうと瞑子が無理矢理吊ったものだ。
もちろん炎雪は嫌がっていたが瞑子はそんな抗議は無視した。
「いや、あんた達の報告が来たんで呼ばれた。まあ珍しいもん見れたけどな」
「トゲが刺さったのよ」
瞑子の言葉に首を捻る玲。
「トゲ??」
んなもんぐれーで…とぶつぶつ言いかけた玲を手招きして呼ぶ。
「トゲねえ…」
玲のその後ろからはもちろん紗枝がくっついて来る。
瞑子は制服のポケットをごそごそ探り、炎雪を傷つけたものを出して見せた。
「…トゲっつーか」
「ツノとか弾丸とかそういう感じね。」
さすがに普通のトゲではないのを確認して、納得する二人。
「氷室さん、毒とか他の被害はあります?」
トゲをしげしげ眺めつつ、紗枝が尋ねる。
「今のところは何にもないみたい。ね、炎雪?」
紗枝に返事をしつつ、炎雪にも問いかける瞑子に、彼女は軽く頷く。
「炎雪の治療の時に取ったやつを、帯刀さんの方へ回してあるわ」
何かあったらわかるでしょ、と簡単に続けた。
「なるほど。これすごく固いみたいだし、新しい素材にうってつけかも」
手に取ったトゲを瞑子に返しつつ、紗枝は頷く。
まだ未知数の敵の分析に、敵が残していったものを利用するのだ。
そして、うまくいけばそれを材料にして、敵に対抗できる武器を作ったりもする。
炎雪には必要ないが、玲や紗枝、静久やここにいないみのりなどは、敵に対抗するために特殊な武器を使う。もちろん瞑子も持っている。
所謂、伝説の武器や魔剣といった類のものだ。
(噂によると、会長の最終兵器なんかは神をも滅ぼせるという話だ。ほんとかどうかは知らないが)
伝説や物語をバカにしてはいけない、と思い知ったのもこの稼業についてからだ。
何しろ、敵と言われる存在が伝説のなかにしか出てこないような化け物や怪物、悪霊etc.なのだから。
この科学万能な太平の世の中なのに、である。
いにしえの昔から、妖怪や悪霊は存在してきた。らしい。
らしい、というのは大半の人はそんな見たこともないものを存在するとは認めないからだ。
何故人の目に触れないかというと、それを人知れず倒す人間や組織があり、同じようにこの世に連綿と続いて、ちゃんと機能しているから。
初めてそれを知った時の驚きと、関わりになった経緯を考えると今でも知恵熱とか出てきそうだが、それはまあ今は関係ないので省略することにする。
まさか自分の学校がそういう機能を持っていて、あまつさえ自分と刃友がその中にどっぷり浸かってしまっているとは……ありがたくて涙が出る。
軽く自己嫌悪に陥った思考を打ち切って、瞑子は妖怪退治の組織を代々続けてきた家系の、現在の当主の方へ向き直る。
ひつぎはにっこりと瞑子に向かって微笑んでみせる。
昔からタヌキだと思ってはいたが、頭の切れるタヌキほどやっかいなものはない。
「それで、その怪物の核は取り逃がしたのですね?」
「ええ。駅から学園の方角へ飛び去ってしまいました」
さすがタヌキ、もとい会長、いきなり痛いところを突いてくる。
怪物には魂というか、核みたいなものがあって、これを消滅させないといずれまた復活してしまうらしい。
今回は炎雪に怪我をさせてしまい、核も獲りそこなっていた。
特Aランクとしては恥ずかしい失敗かもしれない。
瞑子が参戦しなかったのがまずかったが、普段の炎雪なら、単独の敵に後れをとることはほぼないに等しい。
瞑子が闘う時は、敵が複数の場合が圧倒的に多かった。
二人一組で協力しあうのが普通だが、炎雪と瞑子の場合、普段は炎雪がメインで闘っていた。
その点は、炎雪が強く希望しているからなのだが。
ちなみに、天地学園の剣待生の制度は、実はこの妖怪退治組織を維持させるメンバー探しのために始めたらしい。
ランク付けとは関係なく、会長に見込まれたものが組織に呼ばれる。
学園ではそれほど仲が良くないように見える神門・祈組ともこちらではぶつかり合ったことはない。
もちろん、意見の違いから多少そうなることもたまにはあるが。
星獲りでの実践形式の剣は、妖怪退治にはうってつけだ。
二人一組で対峙するのも命がけのリスクをかなり減らせる。
それより何より、この平和な時代に、強さ、というか自分の価値を試せることが凄い。
文字通り、生命のやりとりをして生き残っていくのだ。
もはやゲームでも試合でも何でもない。自分自身の生き方になってしまう。
会長たちや白服連中、他の見所のある剣待生などはそういう感覚をもっていると、瞑子は密かに感じていた。
いや、そういう感覚を持っていないとこの稼業はやっていられないと確信している。
瞑子は、傍らの炎雪をちらりと見た。
野性的で、中国武術の達人ではあるが、普通の平和な時代には生きていけないタイプの人間だ。
もちろん瞑子は炎雪のことがかなり気に入っているので、こんな事になっていなくても傍にいるだろうとは思うのだが。
それにしてもこの稼業にいる炎雪は生き生きしている。
自分もたぶん、そうだろう。
自分が何よりも嫌う、退屈な日常生活からかけ離れたこの世界。
たとえどこかに「死」という恐ろしい結果が待ち受けているとしても、間違いなく選んでしまうだろう。
最悪の結果を避けるために、己の技を磨き、刃友と力を合わせ、時には仲間とよべる人たちと衝突しつつ乗り越えていく。
段々馴染んでいっている自分が恐ろしい、と思う瞬間でもあった。

-episode3に続く-