【黄鶴楼】

〈形式〉七言律詩
〈韻〉(平)尤
〈作者名〉崔莇(サイコウ)

昔人已乗白雲去
此地空余黄鶴楼
黄鶴一去不復返
白雲千載空悠悠
晴川歴歴漢陽樹
芳草萋萋鸚鵡洲
日暮郷関何処是
煙波江上使人愁

昔人 已に白雲に乗りて 去り
此の地 空しく余す 黄鶴楼
黄鶴 一たび去って 復た返らず
白雲 千載 空しく悠悠
晴川 歴歴たり 漢陽の樹
芳草 萋萋たり 鸚鵡洲
日暮 郷関 何れの処か是なる
煙波 江上 人をして愁えしむ



【登金陵鳳凰台】

〈形式〉七言律詩
〈韻〉(平)尤
〈作者名〉李白(リハク)

鳳凰台上鳳凰遊
鳳去台空江自流
呉宮花草埋幽径
晋代衣冠成古丘
三山半落青天外
二水中分白鷺洲
総為浮雲能蔽日
長安不見使人愁

鳳凰台上 鳳凰遊ぶ
鳳去り 台空しうして 江 自ずから流る
呉宮の花草は 幽径を埋め
晋代の衣冠は 古丘と成る
三山半ば落つ 青天の外
二水 中分す 白鷺洲
総て 浮雲の 能く日を蔽うが為に
長安見えず 人をして愁えしむ



【登高】

〈形式〉七言律詩
〈韻〉(平)灰
〈作者名〉杜甫(トホ)

風急天高猿嘯哀
渚清沙白鳥飛廻
無辺落木蕭蕭下
不尽長江滾滾来
万里悲秋常作客
百年多病独登台
艱難苦恨繁霜鬢
潦倒新停濁酒杯

風急に 天高くして 猿嘯 哀し
渚清く 沙白くして 鳥飛び廻る
無辺の落木 蕭蕭として下り
不尽の長江 滾滾として来たる
万里悲秋 常に客と作り
百年 多病 独り台に登る
艱難 苦だ恨む 繁霜の鬢
潦倒 新たに停む 濁酒の杯



【蜀相】

〈形式〉七言律詩
〈韻〉(平)侵
〈作者名〉杜甫(トホ)

丞相祠堂何処尋
錦官城外柏森森
映階碧草自春色
隔葉黄贍空好音
三顧頻繁天下計
両朝開済老臣心
出師未捷身先死
長使英雄涙満襟

丞相の祠堂 何れの処にか尋ねん
錦官城外 柏 森森
階に映ずる碧草 自から春色
葉を隔つる黄贍 空しく好音
三顧 頻繁なり 天下の計
両朝 開済す 老臣の心
出師 未だ捷たざるに 身先ず死し
長えに 英雄をして 涙 襟に満たしむ



【客至】

〈形式〉七言律詩
〈韻〉(平)灰
〈作者名〉杜甫(トホ)

舎南舎北皆春水
但見群貎日日来
花径不曾縁客掃
蓬門今始為君開
盤萍市遠無兼味
樽酒家貧只旧砌
肯与隣翁相対飲
隔籬呼取尽余杯

舎南 舎北 皆な春水
但だ見る 群貎の日日に来るを
花径 曾て客に縁りて 掃わず
蓬門 今始めて君が為に 開く
盤萍 市遠くして 兼味無く
樽酒 家貧しくして 只だ旧砌のみ
肯て 隣翁と相対して 飲まんや
籬を隔てて 呼び取りて 余杯を尽くさしめん



【左遷至藍関示姪孫湘】

〈形式〉七言律詩
〈韻〉(平)先
〈作者名〉韓愈(カンユ)

一封朝奏九重天
夕貶潮州路八千
欲為聖明除弊事
肯将衰朽惜残年
雲横秦嶺家何在
雪擁藍関馬不前
知汝遠来応有意
好収吾骨瘴江辺

一封 朝に奏す 九重の天
夕べに潮州に貶せらる 路八千
聖明の為に 弊事を除かんと欲す
肯て 衰朽を将て 残年を惜しまんや
雲は秦嶺に横たわって 家何くにか在る
雪は藍関を擁して 馬前まず
知る 汝の遠く来たる 応に意有るべし
好し 吾が骨を収めよ 瘴江の辺に



【八月十五日夜禁中独直対月憶元九】

〈形式〉七言律詩
〈韻〉(平)侵
〈作者名〉白居易(ハクキョイ)

銀台金闕夕沈沈
独宿相思在翰林
三五夜中新月色
二千里外故人心
渚宮東面煙波冷
浴殿西頭鐘漏深
猶恐清光不同見
江陵卑湿足秋陰

銀台 金闕 夕沈沈
独宿 相思うて 翰林に在り
三五夜中 新月の色
二千里外 故人の心
渚宮の東面 煙波冷やかに
浴殿の西頭 鐘漏深し
なお恐る 清光 同じくは見ざらんことを
江陵は卑湿にして 秋陰足し



【香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁】

〈形式〉七言律詩
〈韻〉(平)寒
〈作者名〉白居易(ハクキョイ)

日高睡足猶慵起
小閣重衾不怕寒
遺愛寺鐘欹枕聴
香爐峰雪撥簾看
匡廬便是逃名地
司馬仍為送老官
心泰身寧是帰処
故郷何独在長安

日高く 睡足りて 猶お起くるに慵し
小閣に 衾を重ねて 寒さを怕れず
遺愛寺の鐘は 枕を欹てて聴き
香爐峰の雪は 簾を撥げて看る
匡廬は 便ち 是れ名を逃るるの地
司馬は 仍お 老いを送るの官たり
心泰く 身寧きは 是れ帰する処
故郷 何ぞ 独り長安にのみ在らんや



【題宣州開元寺水閣 閣下宛渓夾水居人】

〈形式〉七言律詩
〈韻〉(平)東
〈作者名〉杜牧(トボク)

六朝文物草連空
天澹雲閑今古同
鳥去鳥来山色裏
人歌人哭水声中
深秋簾幕千家雨
落日楼台一笛風
惆悵無因見范蠡
参差煙樹五湖東

六朝の文物 草 空に連なり
天澹く 雲閑かに 今古同じ
鳥去り 鳥来る 山色の裏
人歌い 人哭す 水声の中
深秋 簾幕 千家の雨
落日 楼台 一笛の風
惆悵す 范蠡を見るに因無きを
参差たる煙樹 五湖の東



【隋宮】

〈形式〉七言律詩
〈韻〉(平)麻
〈作者名〉李商隠(リショウイン)

紫泉宮殿鎖煙霞
欲取蕪城作帝家
玉璽不縁帰日角
錦帆応是到天涯
于今腐草無蛍火
終古垂楊有暮鴉
地下若逢陳後主
豈宜重問後庭花

紫泉の宮殿 煙霞に鎖し
蕪城を取って 帝家と作さんと欲す
玉璽 日角に帰するに縁らずんば
錦帆 応に是れ天涯に到るべし
今に于いて 腐草に蛍火無く
終古 垂楊に暮鴉有り
地下 若し 陳の後主に逢わば
豈に 宜しく重ねて 後庭花を 問うべけんや



【山園小梅】

〈形式〉七言律詩
〈韻〉(平)元
〈作者名〉林逋(リンポ)

其一

衆芳揺落独暄妍
占尽風情向小園
疎影横斜水清浅
暗香浮動月黄昏
霜禽欲下先偸眼
粉蝶如知合断魂
幸有微吟可相狎
不須檀板共金尊

衆芳 揺落して 独り暄妍
風情を 占め尽して 小園に向かう
疎影 横斜 水清浅
暗香 浮動 月黄昏
霜禽は 下らんと欲して先ず眼を偸み
粉蝶如し知らば 合に魂断ゆべし
幸いに 微吟の 相い狎るべきあり
須いず 檀板と 金尊と



【遊山西村】

〈形式〉七言律詩
〈韻〉(平)元
〈作者名〉陸游(リクユウ)

莫笑農家臘酒渾
豊年留客足鶏豚
山重水複疑無路
柳暗花明又一村
簫鼓追随春社近
衣冠簡朴古風存
従今若許閑乗月
壬杖無時夜叩門

笑う莫かれ 農家の 臘酒 渾れるを
豊年 客を留むるに 鶏豚足る
山重 水複 路無きかと疑い
柳暗 花明 又た一村
簫鼓 追随して 春社近く
衣冠 簡朴にして 古風存す
今従り若し 閑に 月に乗ずるを許さば
杖を壬いて 時と無く 夜 門を叩かん