奈良・天川村のレインボー・アンドラダイト・ガーネット
(Rainbow Andradite Garnet from Tenkawa Village, Yoshino, Nara, Japan)


1.7cm の結晶と様々な面に現れるレインボー(1.7cm crystals with rainbows)
写真提供 : BEE はちみつ屋さん


研磨されたレインボー・ガーネット(Polished rainbow garnets
8.90ct 12.0x10.5x4.6mm 9.81ct 12.7x10.9x5.0mm 4.91ct 11.8x7.4x4.1mm
奈良県 吉野 天川村(tenkawa village, Yoshino, Nara, Japan)
  虹の煌きが良く見えるように宝飾用の結晶の殆どは、小さな面が多く集まったチェッカー・ボードと呼ばれるカットが施されます。
 写真の左の二つは同じルースですが、角度を少し変えただけで色合いや表情が変化します。
 
幻のレインボー・ガーネットの日本での発見

 メキシコのソノーラにかつて産したのみのレインボー・ガーネットが日本で発見されたといううわさが飛び交い始めたのが2004年半ば頃、そして2004年末ごろから続々とオークションや鉱物サイト上に姿を現したのは紛れもなく虹色に輝くレインボー・ガーネットそのものでした。
 産地は、奈良県吉野郡の天川村、川迫(こうせ)鉱山、あるいは鉱山跡から東南5kmの行者還(ぎょうじゃかえり)岳に至る登山道等々、様々な情報が入り乱れ、正確な場所は明らかにされていません。
 いずれにせよ天川村の周囲であることは間違いありません。
産地情報
 あらためて調べたところ、原産地情報は概ね以下のような真相が正しいようです : まず川迫鉱山ですが、かなり昔に小規模な採掘が行われた鉱山で,現在は痕跡程度が残されているだけです。 同様に、五大松鉱山、白倉谷鉱山と、近隣にもかつて操業していた鉱山が存在したことが判明しました。採掘していたのは磁鉄鉱だったようです。
 いずれの鉱山もスカルン鉱床で副産物として水晶や灰鉄輝石(Hedenbergite)、珪灰鉄鉱(Ilmenite)等と共に灰鉄柘榴石(アンドラダイト)を産しました。
 この一帯を訪れた鉱物愛好家のグループによる探索によって、2004年4月ごろに上述の鉱山跡やその周囲でアンドラダイト・ガーネットと、レインボー・ガーネットが発見されていたようです(リンクしている”Mineral Hunters”のホームページに詳細な情報があります)
 メキシコのソノーラ産に匹敵するようなレインボー・ガーネットが発見されたのは9月のことでした。 鉱物コレクターの杉森さんと住岡さんの二人の方が転石を発見し、追跡して1m余りの深さに埋もれていたレインボー・ガーネット脈の露頭を発見しました。
     
天川村の地質情報

 奈良県吉野一帯は糸魚川ー静岡構造線を東西に横切って、関東山地ー秩父ー紀伊半島ー四国ー九州へと延長800kmの中央構造線の南側に平行する三波川変成帯と、さらにその南側の秩父帯(古生層)との境目に位置します。
 三波川変成帯の地層は付加体と呼ばれる地質構造から成っていると考えられています。
 付加体とは、3億年ほど昔、赤道付近や日本近海までの広範な海洋底は海溝の岩石や堆積物がプレートに乗って北上してきた後、1億5千万年昔の白亜紀の頃にユーラシアプレートと衝突し、沈み込んで変成岩となり、後から衝突した岩塊に押し上げられて上昇し、日本列島の一部となった地質構造です。 
 さらに白亜紀後期の7千万年昔に泥岩、珪岩、石灰岩等からなる地質に花崗閃緑岩が貫入して広範なスカルン鉱床が形成されました。
 天川村の周囲一帯は中生代ジュラ紀から白亜紀後期に取り込まれた秩父帯と呼ばれる石灰岩層から成っています。 
 この一帯の地層には、さらに1700万年ほど前から何度かに渡り熱水の貫入による変成作用が起こったことが確認されています。
 今回発見されたレインボー・ガーネットはこうした過去の地殻変動の結果生成されたと考えられます。
 
レインボー・ガーネットとは ?

 ガーネット結晶の表層部が熱水による融食作用を繰り返し受けたために薄膜構造となり、虹色の干渉光を示すことから名づけられたものです。 
 最初の発見は1943年にアメリカ、ネヴァダ州のAdelaide鉱区の灰鉄柘榴石ですが、宝石質ではありませんでした。 次にメキシコ、ソノーラ州の方解石鉱山近くで1954年に発見されたガーネットは、当初は低品質のオパールとされて放置されていました。1985年のツーソン宝石ショーにカットされたごく少数のルースが1990年代初め頃まで流通しただけでその後市場から姿を消してしまいました。 
 日本でも秩父の大滝鉱山で1cm程度の結晶が報告されたことがあります。いずれも石灰岩質の地層が変成作用を受けたスカルン鉱床特産の灰鉄柘榴石に特有の現象です。
 今回発見された灰鉄柘榴石は市場ではスーパー・レインボー・ガーネットの呼称で流通しています。
 確かに冒頭の写真のように思わず唸ってしまうほどの見事な虹色の干渉色を見せる標本はスーパーと呼ぶに相応しいものです。 アメリカのニュー・メキシコ州と、ネヴァダ州からも新たにレインボー効果を示す宝石質のアンドラダイト・ガーネットが発見されたようです。いずれ産地やそれぞれのガーネットについての詳細なレポートが登場すると期待されます。
レインボーガーネットの鉱床(Outcrop of rainbow garnet)


天川村のレインボー・ガーネットの特徴
レインボーガーネット(Rainbow garnet)
42x39mm         29x21mm
普通の灰鉄柘榴石 4cm
(Andradite garnet)
 川迫鉱山(Kose mine )
レインボーガーネット
(Rainbow garnet)

Sonora, Mexico
表面の拡大写真
(Magnified photo)
天川村(Tenkawa Village, Nara, Japan)

 今回天川村で発見されたものは、メキシコ・ソノーラでかつて発見された宝石質のレインボー・ガーネットに匹敵する、あるいは凌駕するといって差し支えありません。これほどの結晶が新たに日本で発見された事実はまさに快挙と言うべきでしょう。

 全ての標本が宝石質というわけではありませんが、カボション・カットされたルースも少数ですが出回り始めています。昔から名高い天川村産のレインボーを示さない普通の灰鉄柘榴石と同様に、今回発見されたレインボー・ガーネットもかなり透明度の高い結晶です。

 虹色の干渉色は、鏡のように滑らかな結晶表面だけではなく、劈開面の深層部からも半透明な結晶を通して立体的に浮かび上がって見えます。干渉色の鮮やかさと美しさでは、メキシコ・ソノーラ産を凌ぐ見事な結晶が多く見られます。しかしながら普通の灰鉄柘榴石と比べると、レインボーを示す結晶標本には非常に脆く、ぼろぼろと崩れて来るものが多数あります。もともと灰鉄柘榴石は他の柘榴石族と比べてモース硬度が 6 1/2とやや低く、即ち結晶の結合が弱いのが特徴ですが、さらにレインボーを示す結晶は熱水による融食作用の影響で風化が進んでいるためでしょう、脆くなっているのだと考えられます。
 このため、実用的な宝石として使えるものはごく限られています。

 このレインボー・ガーネットについては Gems &Gemology誌 2006 winter に11ページに及ぶ詳細なレポートが掲載されました。
 事前に入ってきた分析の結果では天川村産のアンドラダイトはほぼ純粋なアンドラダイト・ガーネットであることが判明しています。 また虹色の効果は複雑な干渉によるものと考えられています。
 これに対してネヴァダ州やかつてメキシコのソノーラで発見されたレインボー・ガーネットは正確にはグロシュラー・ガーネットとの固容体であるグランダイト(グロシュラー・アンドラダイト)ガーネットであり、虹色の効果は散乱によるものと考えられています。 
 冒頭の写真はリンクしている”はちみつ屋さん”のご好意で写真を使わせていただきました。 素晴らしい標本を40点余り入手され、それらの100枚を超える見事な写真を見ることが出来ます。 私も何個かの結晶標本を入手して100枚以上の写真を試しましたが、到底、はちみつ屋さんのそれとは比べ物になりません。 機材はSANYOのXactiで2cmのマクロで撮影されたとのことです。
この場を借りてご好意に感謝の意を表する次第です。
 またレインボー・ガーネットの露頭の写真は発見者の杉森さんに提供いただいた写真です。
Top Gemhall