薔薇水晶(Rose Quartz)

 

天然の薔薇水晶 (Natural Rose Quartz) 合成水晶
(Synthetic)
スター薔薇水晶 (Star Roze Quartz)
17.66ct
19.0x14.8mm
9.74ct
16.8x14.2mm
13.25ct
17.4x13.5mm
10.42ct
15.8x11.9mm
725ct Ø47mm
Madagascar Brazil Brazil Russia Brazil

天然の薔薇水晶(Natural Rose quartz)
結晶(Crystal) 115ct 32x27x24mm 

ルース(Faceted stone) 13.25ct 17.66ct 9.74ct     
合成の薔薇水晶 (Synthetic rose quartz)
ルース(Faceted stone) 10.4ct 15.8x11.9mm 
 結晶(Crystal) 93ct 31x11x21mm
   240ct 60x20x20mm
Brazil/Madagascar Russia

 

スター薔薇水晶
5500ct 直径 約10cm
Manfred Wild Collection キャッツアイ型 17ct 15mm 
Brazil Madagascar Russia
 薔薇水晶の結晶
トルマリンと薔薇水晶 
Amsterdam Sauer Collection
薔薇水晶 10x7cm  John Barlow Collection 薔薇水晶 18x11cm 
Smisthonian Institution
Sapucaia, Minas Gerais, Brazil

6.5x4.2x2.5cm 10x7x6.5cm 6.2x5.2x5.3cm
福島県いわき市三和町合戸
Iwaki, Fukushima, Japan
岩手県遠野市上宮守寺沢山
Toono, Iwate, Japan
Chapadiña, Minas Gerais, Brazil
  薔薇色の水晶は大半が不透明な団塊として産し、結晶形を見せることは極めて稀です。
稀にあったとしても個々の水晶の大きさはせいぜい1cm程度の群晶に過ぎません。
 上段のブラジル、ミナス・ジェライス州の燐酸塩ペグマタイトから稀に発見される薔薇水晶の結晶群は、いずれも世界的な宝石商、コレクター、博物館のコレクションの逸品です。
 下段は最近ようやく入手した標本です。
日本ではかつて福島県でのペグマタイトで僅かに産したことがありました。
 岩手県遠野市の薔薇水晶の結晶は、この地にペグマタイト鉱床が存在していたことさえ知られていなかったので大きな驚きでした。
 寺沢山の所在は不明ですが、おそらく早池峰山に近い寺沢高原にある山と思われます。
 寺沢高原は日本で唯一宝石質のエルバイト・トルマリンを産した越喜来湾、崎浜のペグマタイトから50kmほど北西にありますから、薔薇水晶を産するペグマタイト脈が伸びていたと考えられます。
 ミナス・ジェライス、チャパディーニャ産の薔薇水晶は上部の2cmほどの水晶は煙水晶です。
小さな薔薇水晶の群晶が下部に見えます。


化学組成
(Composition)
結晶系
(Crystal system)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refaractive Index)
SiO2 三方晶系(Triclinic) 2.65 1.55
  

 何処の鉱物フェアであれ,大きく美しい結晶がふんだんに出品され,値段も手頃なため老若男女を問わず広汎な人気を集めているのが水晶です。
 ところが,唯一の例外が薔薇色の水晶です。
大きな結晶どころか小さな結晶も極めて稀。 たまに遭遇しても,余りの高値にためらっているうちに目ざとく見つけた他のコレクターに買い占められてしまう事の繰り返し。
 上記の薔薇水晶の結晶の写真は世界の名だたるコレクションですが,それでも最大10cm程度の大きさで,そのうえ個々の結晶は大きくてもせいぜい1cm足らずと,水晶としてはまことに貧弱なものです。
 数mを越える巨大な結晶も稀ではない水晶のなかで,何故薔薇水晶だけが稀で,その上大きな結晶が成長しないのか ? 
 未だに解明されていない鉱物界の不思議の一つです。

薔薇色の謎

 薔薇水晶の発色の原因が何なのか,永年に渡り諸説紛紛でしたが,1980年代に次の三つの研究結果が報告されています ;


1.珪素の一部を置換する四価のチタンイオンと,結晶格子間の三価のチタンイオン間の電荷移動(1985年)
2.珪素の一部を置換するアルミニウムイオンと燐イオンとをつなぐ酸素イオンによる不安定なカラーセンター(1983年)
3.デュモルチエ石インクル−ジョン(1987年)

と,相次いで出された研究報告でいずれも異なる原因が指摘されています。
 恐らくこれらの様々な発色要素が、単独あるいは複合で起きているのでしょう。
マダガスカル産の薔薇石英の研究ではインクルージョンとして含まれる微細なデュモルチエ石結晶が発色の原因とされています。 
 次に述べるように,ブラジル,ミナス・ジェライスの薔薇水晶は燐酸塩ペグマタイト地帯に限って発見されます。
さらに,近年ロシアで商業生産が行われるようになった合成の薔薇水晶は燐イオンで発色させています。

*  フランスのラルース社の宝石百科事典の記述によると直径0.01〜0.2ミクロン,長さ0.5〜10ミクロンの微細なルチル(金紅石)結晶が含まれるためとあります。

サイモフェーンを示す薔薇水晶

 半透明の薔薇水晶は,主にビーズやカボション加工されて手頃な値段の宝飾になります。
包有する微細な結晶のために光の散乱が起こり,やや透明度に欠ける白濁した感じになるものと考えられます。
 インクルージョンが結晶軸に沿って多く含まれる場合にはスターやキャッツアイ効果を示します。
 このような光学効果は水晶には珍しくありませんが,とりわけ薔薇色の水晶の場合には魅力ある宝石となります。
 冒頭の写真のように5500カラットのスター薔薇水晶の右下に小さく写っているのは1カラットのダイアモンドですから,その巨大さが際立っています。
 こんなに大きなものは特別ですが,直径2cm程度のスター水晶なら1個20ドルくらいと手頃な値段です。



薔薇水晶の産地








薔薇水晶の鉱山(Rose quartz mine)
Alto Feio,Paraiba Brazil

薔薇水晶の原石(Rose quartz rough)
 
Vorondorlo,  Madagascar
大きさと品質別とに仕分けされた薔薇水晶原石の堆積
(Rose quartz, sorted by size and quality)

Old Namibian mine, Namib Desert
          
 結晶形を示さない薔薇水晶はペグマタイト脈にトルマリン,緑柱石,レピドライト,長石の巨晶と共に数十トンの団塊として生成します。
 主にブラジル,ミナス・ジェライス州のPiabanya,パライバ州のAlto Feio,バイア州のRibeirao do LagoとMacaraniのペグマタイトです。その他ドイツのZwiesel,Bodenmais,チェコ・スロヴァキアのDolni BoryとPisek, ウラル山脈とフィンランドのペグマタイト,アメリカ・メイン州と南ダコタ州のカスターの産地が知られています。
 1922年にフランスの鉱物学者ラクロワ(Alfred Lacroix)がマダガスカルで薔薇水晶を報告しています。
マダガスカルは現在ではブラジルと並ぶ薔薇石英の産地です。

 結晶形を示す薔薇水晶が初めて発見されたのは1959年と比較的近年の事です。
ブラジル,ミナス・ジェライス州のアラスアイ(Araçuai)の東方100km程のペドラ・アズール(Pedra Azur)とジェキチニョーニャ(Jequitinhonha)の鉱山, そこから南へ220km程のゴヴェルナドール ヴァラダレス(Governador Valadares)の東50km程のサプカイア・ド・ノルチ(Sapucaia do Norte)のペグマタイト鉱山でした。
 とりわけサプカイア鉱山からは色が濃く,薔薇水晶としては異例の大きさの最大4cmもの結晶を産出しました。
 ジェキチニョーニャは1980年に鉱脈が枯渇し,サプカイア鉱山も1979年の大洪水で,水没し,共に閉山されましたが, その後1979年にサプカイア鉱山の南10km程のラランジェイラ(Laranjeira)鉱山で見事な薔薇水晶の鉱脈が発見されました。
 その後,ナミビア,南アフリカ,マダガスカルからも薔薇水晶の発見が報告されていますが,現在市場で見かけるのは殆どブラジルとマダガスカル産です。


合成薔薇水晶

   水晶の合成は1900年代初頭にイタリア,トリノ大学の鉱物学教授スペッチアが熱水法で長さ10mmの小さな結晶を作る事に成功しました。
 1930年から第二次大戦終了時までドイツとアメリカとでいずれもレーダー発振等軍事目的で開発研究が行われましたが,アメリカが熱水法による大量生産技術を確立しました。
 現在はアメリカ,ロシア,日本等が主な生産国で年間1000トン以上の合成水晶が生産されています。
  合成水晶はその殆どがエレクトロニクスの産業用途ですが,10〜20トン程度は紫,緑,青,オレンジ,黄色等が宝飾用途に生産されています。
 産業用の無色透明な結晶で規格外のものはカットされてネックレス等宝飾用途に用いられています。
ロシアの合成薔薇水晶
(Russian synthetic rose quarts)
結晶 93ct   ルース 10.4ct   結晶 240ct

 
産業用の合成水晶技術が確立された1940年代には早くも紫水晶の合成が行われ,続いて黄水晶,緑の水晶,青い水晶等の合成が行われました。
 薔薇色の水晶は1980年代半ばに日本が最初に合成に成功しました。
実験的にチタンを含むアルカリ溶液での水晶の合成を試みた際に3cm足らずの淡いピンクの水晶が出来たものです。
 色を濃くするためには鉄を含む溶液の中で1200℃の高温で処理する必要がありました。
 こうして出来た薔薇水晶の結晶生成条件と発色の仕組みとは天然の薔薇石英のそれと近いものです。

ロシアの宝石用の合成薔薇水晶

 様々な色の水晶合成に早くから取り組んでいたロシアでは1969年頃から薔薇水晶の合成の研究を始めていたようですが,大量生産の技術が確立されたのは1992年のことでした。
 他の水晶と同じ,熱水法によるものです。 
鉄にプラチナを貼ったオートクレーヴ炉中に弗化アンモニウム(NH4F)の水溶液と発色材として燐酸塩とを加え、220℃ − 300℃、300気圧の熱水中に水晶の種結晶をつるして薔薇水晶を成長させます。
成長が一日当り0.1〜0.2mmと遅く,長さが100mm,厚さ20mmの平板状結晶の成長に2ヶ月かかります。
 無色の水晶なら1ヶ月で250x25x35mmの結晶が成長しますから,10倍以上も余計に時間がかかり,エメラルド並です。 
 天然に薔薇水晶が極めて稀なのはこのような成長が遅い事がその原因ではないかと思われます。
 薔薇色の発色は燐イオンによるカラーセンターと推定されますが,その詳しい仕組みは現在研究が続けられています。 
 1998年時点での生産量は150x40x20mmの大きさの結晶が年間200kgですが,需要があれば500kgまで増やせる生産能力があります。
 
合成薔薇水晶の開発と生産とはモスクワ近郊にあるロシア材料合成研究所で行われています。
 また製品はアメリカの企業を通じて"Flamingo Quartz”として販売しています。
天然の薔薇水晶と比べると透明度が高く,モルガナイトやクンツアイトと見間違うほどの美しいものです。
 しかし合成ですから値段は他の合成水晶と同じ水準です。 
冒頭の10.4ctのルースと93ctの結晶は1993年のミュンヘン・ショーにてペアで50マルク(4000円)と信じられない程の手頃な値段でした。
 合成直後の試作品のプロモーション用の特別な値段かと思いましたが,その後入手した240ctの結晶も同じ水準でした。
ロシアの合成宝石はアレクサンドライトやエメラルドも含め,驚異的な低コストで出来るようです。