苦礬柘榴石(パイロープ・ガーネット:Pyrope Garnet)


パイロープ・ガーネット(Pyrope Garnet) 0.70 - 4.0ct

 

 
3.56ct

 R.I. : 1.732

 微量のマンガン発色
(Minor manganese)
 3.43ct  R.I. : 1.740  微量のクロム発色
(Minor chrome)

 1.61ct  R.I. : 1.732  鉄発色 (Minor iron)
 1.08ct  R.I. : 1.740  クロム発色
(Minor chrome)
いずれもパイロープ・ガーネット
(Pyrope color variations)
発色に係る金属
(Color cause agent)
ビクトリア朝のデザインのパイロープの宝飾品
(Victorian design pyrope brooch)


4.0ct 9x9mm 2.26ct 8.2mm  2.10ct 8mm 1.18ct 7.2x5.5mm  0.96ct 7x5mm スター・パイロープ (Star Pyrope)
1.41ct 7x6mm   4.19ct 10.3x7.0mm

産地不明 (Localaity unknown)
Tanzania Kenya



3.49ct 10x8mm 
Sri Lanka
3.14ct 9.5x7.3mm 
Tunduru Tanzania
 0.85ct       0.76ct 
ミラノ自然史博物館
ドーラ・マイラ山塊 イタリア・アルプス
(Dora Mira Massif, Italia)

 

化学組成
(C0mposition)
結晶系
(Crystal System)
モース硬度
(Hardness)
比重
(Density)
屈折率
(Refractive Index)
Mg3Al2(SiO4)3 等軸晶系
(Cubic)
7-7½  3.58-78   1.714-746 


 パイロープの名はギリシア語の ” ピロポス (pyropos)  : 火のような眼をした” に因み1800年にドイツの Werner により命名されました。それ以前は産地に因んでボヘミア・ガーネットとよばれていました。
 一般にパイロープ・ガーネットは不純物として含まれるクロムや鉄分によって火のような赤い色を示すものが古来より知られていて、とりわけボヘミア産が大量に出回ったため、ガーネットといえば葡萄酒色の濃紅色を思い浮かべる方が多い事でしょう。
 しかし、パイロープ・ガーネットはその成分の苦 (マグネシウム)、礬 (アルミニウム) と珪酸分とはいずれも発色成分ではありませんから、非常に稀ではありますが純粋な成分のものは無色です。 
 1980年代初頭にヨーロッパ・アルプス西部にて最大で98mol.%とほぼ純粋に近いパイロープが発見されましたが、余りにも小さく多くの亀裂があって、到底宝石用としてカット出来ませんでした。しかし1990年代末にイタリア・アルプスのドーラ・マイラ山塊から宝石質の淡いピンクのパイロープが報告されました。 
 その他世界各地から70〜77mol%のパイロープが報告されていますが、前述のヨーロッパ・アルプス産程の高純度のものはありません。
 近年、タンザニアとケニアからは,ときおり、鉄やクロムの含有量が低いピンクやパステル・オレンジのパイロープが同じような色合いのグロシュラー・ガーネットやマライア・ガーネット(パイロープ・スペッサータイン)の包みから発見されることがあります。
 近年、東アフリカ産のスターやキャッツ・アイを示すパイロープを時々ですが見かけます。いずれも他の鉱物の結晶をふくむために起こるので透明度が低く、強いペンライトを照射しないとはっきりとスターやキャッツアイが見えません。

 
ボヘミアのパイロープ (Bohemian pyrope)


チェコ北西部、ドイツとの国境沿いのパイロープ産地
(Pyrope locality near German boarder at Bohemian Hills)
パイロープ 平均0.25ct(2.5mm) 重機による採掘 (Pyrope mining)  Podsedice, Czech

 ボヘミアのパイロープ・ガーネットは古く中世の頃から採掘が行われていました。19世紀,ビクトリア朝時代には大変な人気を博して、最盛期には採掘や加工等に携わる人々が1万人を超える程の盛況を極めました。このため、当時作られた膨大な数の宝飾品はアンティーク市場では定番商品となっています。 一時は殆ど忘れ去られていましたが、近年は再び人気が盛り返して、往年のデザインを模倣した宝飾品も数多く市場で見かけられます。
 ボヘミアのガーネットは地下60kmを超えるマントル部分で生成したと考えられています。そして比較的新しい中新世(約2500万年前)の火山活動により噴出した蛇紋岩化した橄欖岩中に宝石質のパイロープの結晶が発見されます。スタレやメロニッツ近くのリンホルカ岩盤中にパイロープの一次鉱床があります。またその鉱脈が風化した漂砂鉱床がトリプリッツやポドセディツェ付近にあります。ポドセディツェの鉱床は70平方kmに広がっていて,現在唯一パイロープの採掘が行われていて、毎日5kg程の直径3mmを超える宝石用の結晶が採集されています。


 ボヘミアのパイロープは比重が1.748〜750とパイロープとしては上限に近いことと、1.5〜2.5%のクロムを含み典型的な "火の眼をした”深紅の色合いが特徴です。
 しかし結晶の大きさが平均3mm程度と小さくカットされたルースは平均で0.1ctと小さなものが大半です。

ダイアモンド鉱脈中のパイロープ
 (Pyrope in diamond ore)
Mengyin(蒙陰)ダイアモンド鉱山
中国 山東省

China
ダイアモンド結晶中の
パイロープ(赤)と
透輝石(緑)
(Pyrope and
Diopside
in Diamond)
Yakutia, Russia

蒙陰ダイアモンド鉱山からの
パイロープ 各 0.2ct

China
  前述のように、パイロープは超高温,超高圧の条件下で生成する鉱物です。そして同じ条件の地下深いマントル上部で生成するダイアモンド鉱床の母岩中に発見される事でも知られています。
 世界的なダイアモンド産地である南アフリカのダイアモンド鉱脈の母岩にも宝石質のパイロープが含まれていて、良くそれがカットされた、俗称”ケープ・ルビー"と呼ばれるパイロープがあります。ただし,これは南アフリカのダイアモンド鉱床産ではなく、マダガスカル産のパイロープです。南アの鉱山ではダイアモンドだけで充分利益が得られますから、大した商品価値のないパイロープをわざわざ選別するような手間はかけないのでしょう。
 しかし、ロシアのダイアモンド鉱脈も、また最近のカナダ北極圏のダイアモンド鉱床も,いずれもパイロープの発見が決め手となってダイアモンドの発見に至ったわけですから、やはりパイロープとダイアモンドとは切っても切れない縁で結ばれていると言えましょう。
 しかしながら、ダイアモンドと比べると商業的な価値ではまさに月とすっぽんと言えるほどパイロープは安価なため、ダイアモンド鉱山からのパイロープを市場で見かける機会はありません。上の写真のパイロープは中国のダイアモンド鉱脈に産したと考えられるパイロープです。一次鉱床のものではなく、鉱山から130km程伸びている漂砂鉱床中にダイアモンドと共に発見された結晶をカットしたものです。結晶は1cm以下と小さいためルースも平均0.2ctと小さなものです。

 

イタリア・アルプス ドーラ・マイラ山塊、Varaita渓谷のパイロープ (Italian pyrope from Dora Mira Massif)
ブロッサスコ村の観光案内図
中央の山はM.Viso(3841m)
左奥はフランス国境
ドーラ・マイラ山塊 雲母片岩の露出 雲母片岩 幅 8cm
左 フェンガイト(高圧変成を受けた雲母)に被われた結晶 4cm
右 一部透明な宝石質部分を含む結晶断面 右側の結晶 30g
       
 Merlo Pitch Collection
微かに結晶形と淡紅色を
示す結晶 45mm
カットされたルース 0.24〜0.50ct
ミラノ自然史博物館
(Museu Storia Natural, Milano, Itgalia)
Brossasco Dora Mira, Italia
 冒頭で述べましたが、極めて純度の高いパイロープが、フランス国境に近いイタリア・アルプス、ドーラ・マイラ山塊、ヴァライタ渓谷にあるブロッサスコ村付近で1980年代に発見されました。
 大半のサンプルの屈折率が1.718〜720とパイロープとしては下限に近く、組成の分析の結果は,パイロープ成分が87.8〜97.5 mol.%、アルマンダイン成分が1.8〜10.2 mol.%、グロシュラー成分が0.2〜2.6 mol.%と、こんな純粋なパイロープの発見はかつてありませんでした。
ドーラ・マイラ山塊は古生代(2.25〜5.7億年前)の基盤に中生代(0.65〜2.25億年前)の地層が乗る構造となっています。この中生代の地層は、中生代後期から新生代に及ぶアルプス造山運動によって高温・低圧の変成作用を受けた層に覆われています。
 パイロープは数mの厚さのフェンガイト(高圧変成作用を受けた雲母)片岩と石英岩とからなる岩脈に生成し、時に25cmにも達する結晶として発見されます。 ブロッサスコ村から北に15kmの範囲内の数ヶ所で細々と採掘が行われているようです。
 上記の左の二枚の写真は特に状態の良い結晶です。 2003年の東京国際ミネラルフェアにも特別出品されていた20cm程の結晶や,ブースで売られていた,結晶(3枚目の写真)はおぼろげな結晶形こそうかがえるものの、殆どが白い岩の塊の一部にかすかにピンクの部分が垣間見える、ただの石ころにしか見えませんでした。 透明な宝石質の部分などはごく限られた結晶の一部からほんの少し採れるのみです。 したがって年間100カラットほど得られるルースは最大でも2カラット程度で,普通は1カラットに達するものはごく僅かで、大半がイタリア国内のコレクターの手に渡るだけと言う稀少なものです。
 2003年の5月に現地を訪れてみました。とりわけドーラ・マイラのパイロープが目当てだったと言うわけではありません。 たまたまアリタリア航空で関空ー欧州往復3万9千円と格安のフライトがあったので、これまで訪れた事がなかったイタリア・アルプスを見てみようと思ったような次第です。
 実際にはミラノからスイスを経てフランスの中央山塊,オーヴェルニュ地方からフランス・アルプス経由でイタリア・アルプスに戻る,20日間,3300kmの大ジェオグラフィック・ツアーとなりました。フランス・アルプスからは直接ブロッサスコに入る、コレ・デッラニェッロ(C.le Dell'Agnello:子羊峠)なるかわいい名前の峠越えのルートがありますが、その名前とは裏腹に2760mという欧州で最も標高の高い峠でした。この年は欧州アルプスでは標高2000mを超える峠は5月初旬は積雪のため全て閉鎖されていましたから,南に300km程迂回して2000m以下の峠を捜し、ようやくブロッサスコ村に到着しました。
 スイスやフランスアルプスと比べると鄙びた佇まいの美しい土地で冬には至るところでスキー場として,夏にはキャンプや登山などで賑わう一帯です。
 目当てのパイロープは、ハンマーなど現地調達して捜してみましたが,もちろん見知らぬ山中を一日歩いたくらいでは鉱脈など見つかる筈もありませんでした。 しかしあちこちに露出した雲母片岩と石英岩の露頭から、なるほど,こんな地層にパイロープが生成するのだと、また地層や岩石がフランス,スイス,オーストリア等,他のアルプス地方とも共通する事が確認できただけでも収穫でありました。
その他のパイロープ
アントヒル・ガーネット
(Anthill Garnet)
0.70ct 5.6mm
Arizona, U.S.A.
日本のパイロープ 4cm
愛媛県 五良津山
Iratsu Mtn. Ehime, Japan
 
珍しいパイロープの結晶 1cm
(Rare pyrope crystal)
新彊ウイグル自治区

Xinjiang  Uyghur, China
融食を受けた結晶 28mm
Saõ Jose da Safira
Minas Gerais Brazil
世界各地で産するパイロープの中には一風替わった存在があります。 
 上の写真のアントヒル・ガーネットと呼ばれるのは、数ある宝石の中でも異色の存在と言って良いかもしれません。Ant Hill(蟻塚)の名の示すように、これは蟻が掘り出したパイロープです。長良川の鵜は訓練して漁を仕込みますが、こちらは,蟻塚作りの際に地中でぶつかった邪魔者のガーネットを蟻が捨てたものを,人間がありがたくいただくという、”人も歩けば宝石に当る”を地で行くお話しです。 もちろん蟻が運ぶくらいですからごく小さく、大きくてもせいぜい0.2カラット程度です。
 宝石の本等に,パイロープの産地としてアメリカのアリゾナ州等が挙げられているのは,この蟻塚ガーネットのことです。
 愛媛県五良津山は大きなアルマンダイン(鉄礬柘榴石)結晶の産地として知られています。 写真は、榴輝岩(オンファス輝石ー透閃石中に苦礬柘榴石を含む高圧変成岩)中に赤く散在する赤いパイロープを母岩ごと研磨したものです。
 パイロープは結晶形を見せる事は滅多にない、と鉱物の本に書かれています。したがってパイロープと明記された新彊ウイグル自治区産の写真の偏菱形24面体の完全な結晶を見たときは驚きました。 筑波山、真壁の花崗岩採石場のペグマタイト鉱床からはかつてそっくりですが、しかしアルマンダインの結晶を産しました。
 調べてみると写真の結晶は、屈折率も1.746とまさしくパイロープに合致する値を示しました。
ブラジルのサン・ジョゼ・ダ・サフィーラ産のパイロープもひどく融食されていますがかろうじて結晶形を保っています。
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