緑柱石(Beryl)

 

4.モルガナイト(Morganite)
   

世界のモルガナイト(Morganites) 1.57 - 23.25ct


23.25ct 26.4x15.4mm 7.51ct 12.5x10.6mm 7.40ct 13.2x11.0mm 6.62ct 15.6x7.2mm 5.23ct 13.8x9.7mm
Brazil

10.60ct 21.8x11.5mm  
Mozambique
1.72ct 11.1x6.6mm 1.57ct 9.4x6.3mm 1.72ct 10.1x7.8mm
Brazil
 
 淡いピンク或いは橙色を帯びたパステルカラーの緑柱石はモルガナイトと呼ばれます。
余りにも淡い色合いなので、宝石店では稀にしか見かけませんが、稀に濃いピンクで見事なものがあります。 
 下記の写真のように世界各地で美しい結晶を産しますが、宝石質の大半がブラジル産です。
 モザサンビーク産のカイトの形にカットされたモルガナイトは内部に大きな亀裂が見えますが、実は1cm近い溝になっています。 
  恐らく雲母の結晶が入っていて、それがすっぽり抜けて空隙になっているものをカットしたものでしょう。
 とても宝飾品には使えませんが、珍しいモザンビーク産です。

近年発見されたモルガナイト

31.8ct 
Tsarafara, Shaftany Valley, 
Central Madagascar
3.34-4.19ct
Ambositra、Finarantsoa
South-Central Madagascar
3.60-146.8ct
Shakiso、Southern Ethiopia
 稀にしか発見されないモルガナイトですが、近年アフリカ各地で宝石質の結晶が発見され、カットされたモルガナイトの情報が入っています。
 2002年にマダガスカル中南部、フィナランツォア地方のアンボシトラのペグマタイトから3kgほどの破砕された結晶から数百カラットのルースがカットされました。
 採集された結晶はオレンジ色でしたが2−3時間太陽に曝された後では濃い薔薇水晶のようなピンクに変わったとのことです。
 中央マダガスカル、シャフタニー渓谷のツァラファラでは2006年に風化したペグマタイト鉱床から数十グラムの結晶が発見され、橙色を帯びたピンクのすばらしく透明なルースがカットされました。
 2010年にはエチオピア南部のシャキソの町の近くにペグマタイト鉱脈が発見され、トルマリンやエメラルドと共にモルガナイトの結晶が200〜300kgも採掘されました。 
 大半は彫刻やカボション級の品質ですが、ファセット級の透明度の高い橙色を帯びたピンクの部分からは年間1000カラット程度の最大では100カラットを超える大きなルースがカットされています。

 

235ct          131ct
Bananal Mine, Minas Gerais, Brazil
モルガナイトの香水瓶 加熱処理でアクアマリンに変わった
モルガナイト  2.0ct 10.1x7.8mm

Barra de Saliña Mine,
Minas Gerais, Brazil
  モルガナイトは1911年,マダガスカルで発見されたピンクあるいはオレンジを帯びた緑柱石の呼び名です。
 オレンジ色は不安定で、日光や白熱光下では数時間から1ヶ月ほどで褪色してピンクに変わります。
 写真のブラジル、ミナス・ジェライス州、バナナウ鉱山の131ctのルースはカット当初は235ctのルースと同じ色合いでしたが、一ヵ月後にはピンクに変わってしまった例です。
  ブラジル、ミナス・ジェライス州のバラ・デ・サリーニャ鉱山産のモルガナイトは加熱処理で濃い青に変貌することが知られています。 恐らく不純物として含まれる鉄の濃度が高いためでしょう。
 そのため、モルガナイトしては魅力に欠けるので、加熱処理でブルー・ベリルに変身したものです。
 この濃い青は安定していて、20年以上経った今でも褪色が見られません。

 アメリカ、カリフォルニア州,サンディエゴのペグマタイトでも同じ頃 ピンクの緑柱石が発見されました。
 モルガナイトの名は、アメリカの資本家,J.P.モルガンに因んで,ティファニー宝石店の宝石顧問であったクンツ博士が命名しました。 
 J.P. モルガンは大実業家でありましたが,指折りの美術品の収集家でもありニューヨークのメトロポリタン美術館に寄贈され品々は、美術館の展示の中核となっています。
 美術品の他にも,豊富な財産を背景に、書籍や陶磁器,考古学,等々広範な収集を生涯を通じて行い、歴史上,最大のコレクターの一人と言われています。
 J.P. モルガンの収集は宝石にも及び、その膨大なコレクションは、メトロポリタン美術館と同じセントラルパークに面したアメリカ自然史博物館に寄贈され、その宝石ホールの根幹を成すコレクションとして,今日世界でも屈指の宝石コレクションが展示されています。
 アメリカには,ワシントンのスミソニアン博物館の自然史博物館をはじめ、ヒューストンの自然史博物館の Sam's Collection、ロス・アンジェルス郡博物館の自然史博物館の Hixon Collection 等、いずれも富豪達の収集品の寄贈による世界でも屈指の宝石ホールが各地にあります。
 
モルガナイトの産地
  モルガナイトはペグマタイト鉱床に産します。 
主な産地はブラジルのミナスジェライス州やカリフォルニアのサン・ディエゴ、パキスタン、アフリカのモザンビークやマダガスカルに宝石級の結晶を産します。 
  ウラル山脈ではセシウムを 3%とリチウムを 1%余り含む種類が発見され、ロシアではトルマリンの研究で名高い鉱物学者、Victor Worobjow (ヴィクトール ヴァラヴョフ) に因みヴァラヴョフ石と呼ばれます。
 セシウムを含むモルガナイトが最初に発見されたのはイタリアのエルバ島のペグマタイトですが、その後シベリアのネルチンスクやマダガスカル等世界各地で相次いで発見されたために、かつてはモルガナイトがセシウム・ベリルと呼ばれたことがありました。
 結晶は他の緑柱石とは異なり、柱状ではなくゴッシェナイトと同じく六角の平板状の結晶として産することが多いのですが、完全な平板結晶が採れる事は皆無と言って良く、普通は四分の一程度の断片でも採れれば上出来です。
 殆どの結晶はかなりのインクルージョンを含むため宝石用のルースが採れる歩留まりは大変少なく、冒頭の写真の香水瓶のように美しい工芸品に彫刻される事があります。
 モルガナイトは宝石としては比較的に稀な部類です。
 宝石店で見かける機会が少ない宝石ですが、その理由は大半が加熱処理によってアクアマリンに変身して市場に出まわるためです。
 またモルガナイトとして出まわる場合も、知名度が低く人気が盛り上がらないためでしょう、稀少で美しい割には価格が安く、博物館級の色が濃い最上品でもカラット当たり120ドル程度、ごく普通の物なら10ドルくらいからと手頃な値段です。

 

世界のモルガナイト結晶
直径 25cm 重さ 10kg
Virgem da Lapa  Minas Gerais
パリ大学 高等鉱山学校博物館
Mozambique 7x5cm White Queen 鉱山 4x5cm
Pala, California
Pakistan  48x32mm

 

ヴァラヴョフ石と表示された
モルガナイト結晶 9cm
シベリア ネルチンスク
Naturkunde Museum Berlin
セシウム・ベリルと表示された
モルガナイト結晶 11.6cm
Maharitra Madagascar
ミラノ自然史博物館
モルガナイト 15mm
San Pietro in Campo
イタリア エルバ島
素晴らしく透明なモルガナイト結晶
6.6cm Conselheiro Pena
Minas Gerais Brazil
Wayne Thompson Collection

 

アクアマリンの核を覆って
結晶したモルガナイト
 52x38mm
Virgem da Lapa, Minas Gerais, Brazil
モルガナイトの核の周囲に結晶した
アクアマリン 径 18.5cm
Bananal Mine Minas Gerais, Brazil
 束沸石とトルトベイト石とを
伴うモルガナイト
 40x40mm 
Pakistan
バッジ石(Bazzite)
Pibia,Italia Alps
 左のモルガナイトの結晶は中心部のアクアマリンの核の部分が透けて見えます。
付着している灰色の束沸石の中には5mm程の緑の透明な緑柱石の結晶があります。
一つの標本に3種類の緑柱石が存在する標本です。
 ブラジル、バナナウ鉱山の結晶は逆にモルガナイトの核にアクアマリンが成長した例です。
 パキスタン産のモルガナイトは非常に珍しいトルトベイト石 (Thortveitite (Sc,Y)Si2O7 を伴っています。
 トルトベイト石は1910年にノルウェイのペグマタイトで発見された希元素鉱物で酸化スカンジウムを53.5%と酸化イットリウムを最大10%含みます。
 大きなトルトベイト石の他にもモルガナイトの中や白い束沸石にも無数の結晶がついていて、スカンジウムが濃い熱水の中でこれらの結晶が成長したことを物語ります。
 ひょっとすると、このモルガナイトにもかなりのスカンジウムが含まれてバッジ石となっている可能性があります。
 バッジ石 (Bazzite) は緑柱石のベリリウム分がスカンジウムと置き換えられた変種でヨーロッパ・アルプスのスイスとイタリア国境付近とカザフスタンのペグマタイトに産出します。


スカンジウム(Sc) : 原子番号が21番、メンデレーエフがエカホウ素として予言していた元素で1879年にスウェーデンの分析学者ニルソンによって発見され、スカンジナビアに因んで命名された。同じIIIA系列の元素にイットリウム(Y)と、ランタノイドとアクチノイド系列の希土類元素群が続く。 地殻濃度は16ppmと比較的高く、地中に広く存在するが、金属としては主にトルトベイト石から抽出される。
 1グラム1万円と非常に高価な金属です。

 

モルガナイトの発色

  モルガナイトの色は淡いピンクで、その発色は主にニ価のマンガンイオンによるとされてきましたが、ロシアの科学者 (Platonov 1989, Solntsev and Bukin 1997) の研究により実はレッド・ベリルと同じく三価のマンガンに因る発色であると解明されました。
 モルガナイトはペグマタイト成因のために、放射性のカリウム40の放射線によって三価のマンガンがイオン化されて二価になり、ピンクの発色になるということです。
 化学成分や結晶構造の近いペツォッタイトも同じ仕組みでピンクの発色となります。
モザンビーク産には濃いピンクのモルガナイトがあり、この発色は三価のマンガン・イオンに因ると解明されました。
 さらにオレンジを帯びるモルガナイトもあり、恐らくその場合は酸素と鉄イオンとの電荷移動によるものと思われます。 しかしオレンジは不安定で、加熱処理やあるいは強い光に晒された場合に褪色してピンクへと移行します。
 
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