霰石(Aragonite)


 
 研磨されたペルー産の青い霰石とファセット・カットされたチェコ、ビリナ産の霰石


 

 
霰石(Aragonite)   宝石質の霰石結晶 2.6x1.6x1cm
真珠 : 貝が作った霰石結晶 
Tahiti Islands
1.35ct8.2x6.4mm 1.82ct Ø7.8mm 8.20ct 11.8mm 
Bilina, Czech Rep.

 

装飾用途に使われる霰石 "Victorite"
12ct 17x12mm 6.5x4.0x3.0cm 研磨されたラフ (Polished rough)  9x7x2cm
Moquegua, Peru

 

5x3.5cm 5x4x3cm 5x5x4cm 硫黄を伴う結晶 12cm
Ain Dem Tazouta, Sefrou, Morrocco  Minglanilla, Cuenca, Spain Molina de Aragon, Spain Sciliy, Italia


 宝飾用に研磨,加工されたブルーペクトライト  ドミニカ産のブルーペクトライト 20cm
Dominica

 

 
山珊瑚と呼ばれる霰石 6x4cm
Santa Eulalia, Mexico
魚卵状のPeastone 35mm
Carlovy Vary,
 Czech Republic
苦灰石上の犬牙状結晶 8cm  鉄の花(Flos Ferri) 11cm
Eisenerz, Erzberg, Austria 

 

  化学組成 結晶系 モース硬度 比重 屈折率 複屈折 
霰石 CaCO3 斜方晶系  3½ ‐ 4½   2.95−3.0   1.29-686   0.156 
方解石 CaCO3 三方晶系 3 2.71 1.486-640  0.200 

 

  霰石の和名は、この鉱物が鍾乳洞の水溜りの底にしばしば霰(あられ)のような球状の白い球で発見されるため。これは英語では洞窟の真珠(Cave Pearl)、豆石(Peastone)あるいはPisoliteとも呼ばれます。
 正式な英名のAragoniteは典型的な結晶の産地、実は一般に記述されているスペインのアラゴン地方ではなく、その南のカスティーリャ・ラ・マンチャ州の Molina de Aragón 村で発見され、地名に因み、1796年に命名されました。 ただし冒頭の結晶の写真のように」、アラゴン州の Minglanilla, Cuenca からも美しい結晶を産します。
 
方解石とは成分が全く同じですが、原子の配列が異なるため斜方晶系の結晶系となります。またモース硬度,比重,屈折率といずれも方解石より高い価を示します。
  スペインのアラゴン村産やモロッコ、シシリア島産の結晶は六方晶系のような六角柱の結晶ですが、これはクリソベリル等、斜方晶系の鉱物に良く見られる反復連晶で、柱状結晶が貫入三連晶によって擬六方結晶となっているものです。
 方解石ほどには多く産しませんが、前述の六角柱状の結晶の他に、微細な針状結晶が集まって繊維状や球状の集合の鍾乳石状になったもの等、多様な形態で発見されます。
 山珊瑚と呼ばれる鍾乳石状の結晶も良く見る形ですが、実は本当の珊瑚も動物の珊瑚虫が海水中のカルシウムと炭酸塩を合成して作った天然の霰石の結晶です。同様に貝殻も、また真珠も霰石の結晶から出来ています。霰石の多様な形は、広範な生成要因によるものです : 一般には高温の熱水鉱床の後期に出来る鉱物ですが、もっとも多いのは菱鉄鉱(FeCO3)や黄鉄鉱(FeS)が酸化された二次鉱物として生成する場合です。


世界の霰石の産状 


 スペインのアラゴンやラ・マンチャ地方では石膏分に富む粘土の堆積中に生成します。
同様の堆積土中の生成はイタリアのシチリア島産にも見られ、この場合には硫黄の結晶を伴います。 
 温泉や鍾乳洞の底の水溜り中に球状に沈殿したり、あるいは水中で貝や真珠,珊瑚の主成分となるなど,常温、常圧でも生成される鉱物です。

 霰石はモース硬度が低いために宝石として使われることはまずありません。 しかしながら、前述のように,実は真珠の本体は平板状の霰石の結晶ですから、もっとも一般的な宝石と言っても過言ではありません。 真珠についてはいずれまとめて紹介する予定です。

 冒頭の写真のチェコのBilina産の霰石は世界で唯一ファセット・カットが出来る透明な結晶の産地です。最長で10cmの透明な柱状結晶が火山岩の晶洞の中に発見されます。ファセット・カットされる透明なルースはしかし,灰色を帯びて余り美しいとは言えませんが、8.2 カラットのルースのように稀に透明度の高いものは、繊細なカットにより、複屈折の高さから、透過する光が分散し、ダイアモンドのような、虹色のファイアーを見せることがあります。
モース硬度が低く実用にもなりませんからコレクター用として稀に市場で見かけます。
 何故か東欧のチェコ周辺には霰石の世界的な産地が集中しています。
 長石のカルルスバッド双晶で名高いカルロヴィ・ヴァリは縞状、魚卵状の霰石の産地としても有名です。隣のスロヴァキアのマグネサイト(苦灰石)鉱山のPodrekanyは最長で20cmもある世界一の霰石の結晶群で有名です。同じくSpania Dronaでは青い透石膏の結晶と共に7cmもある柱状の白い霰石結晶を産しました。
 また隣のオーストリアのグラーツ(Graz)に近いErzbergの鉄鉱山からはラテン語で”鉄の花”と呼ばれる美しい樹枝状や犬牙状の結晶群を産しました。

ペルー産のビクトライト

 1992年のツーソン・フェアにペルー産の青い霰石が登場しました。 
 ペルー南部の標高3000〜4000mにある銅山に層を成して発見され,最大では1kgの塊が採れるようです。青い色はブルー・ペクトライトやトルコ石と同様に銅イオンによる発色です。ビクトライト(Victorite)の商業名は鉱山の持ち主の友人の名前だそうです。
たまたま発見された頃にツーソンで見かけて入手しましたが、その後は一度も見かけた記憶がありません。
 霰石の微細な針状結晶が繊維状に集合したものですが、比重が2.75、屈折率が1.52〜1.66と一般の霰石と比べるとやや低い価を示すのは不純物が多いことを示唆します。

 冒頭の写真の研磨されたラフは,鉱物フェアで良く見かける宝飾品のラリマーではないかと思われるかもしれません。
ラリマー(Larimar)は1974年にカリブ海にある,ドミニカで発見された青いソーダ珪灰石(ブルー・ペクトライト : NaCa2Si3O8(OH))の商業名です。
 1986年頃から宝石市場に姿を見せるようになり,現在では日本の鉱物・宝石フェアでもすっかりお馴染みとなっている鉱物です。 ドミニカのブルー・ペクトライトはおよそ3000万年昔に、石灰岩の層に貫入した玄武岩がすっかり風化して細かい粒状の蛇紋岩に変わっている中に発見されます。この産状は他の産地の宝石質ではないソーダ珪灰石と同じで、玄武岩の岩脈や晶洞中に熱水性の成因で出来たと考えられています。 

 ペルー産の青いビクトライトとは見た目もそっくりですが、ドミニカ産のラリマーとは
比重,屈折率ともにほぼ重なる価なので、肉眼で識別するのは困難です。 
唯一モース硬度がラリマーのほうが5〜6と高く硬いため、原石同士なら擦って傷がつく方が霰石のビクトライトと分かります。  
しかし宝石として研磨された場合には傷がつく硬度試験は出来ません。

 霰石とソーダ珪灰石とは化学組成は全く異なりますが、たまたま銅イオンを含み、共に熱水性の成因で微細な針状結晶が繊維状の層を成すという産状のために、肉眼では識別が困難なほどそっくりの外観を見せた興味深い例です.。

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