ブルー・サファイアの色と品質
(Color & quality of blue sapphire)


様々な色合いと品質の天然と合成サファイア 0.19〜5.51ct


ペグマタイト、変成岩起原のサファイア (Sapphires of pegmatite and metamorphic origine )
2.034ct 7.75x7.31mm
Kashmir
5.51ct 9.6x9.0mm
Srilanka
4.74ct 10.5x7.9x6.3mm
Mogok, Burma
2.99ct 8.1x7.0mm 2.56ct 10.0x6.3mm
Andradannanbo, Madagascar


アルカリ玄武岩起源のサファイア(Sapphires of Alkaline Basalt origine)
1.65ct 7.4x6.8mm 0.92ct 6.7x4.6mm 2.20ct 9.4x7.2mm
中国、山東省(Shandong, China)
1.52ct 8.0x6.1mm
Chanthaburi, Thailand
Pailin, Cambodia

1.06ct 7.8x5.5mm 1.26ct 7.2x5.5mm 0.19ct(Ø3.7mm) - 0.37ct 5.0x3.5mm 1.12ct 7.0x6.0mm
Madagascar
Australia


火炎溶融法合成サファイアと拡散処理サファイア
Synthetic and Diffusion treated Sapphires
火炎溶融法合成サファイア(Flame Fusion Synthetic Sapphire) 拡散処理サファイア
(Diffusion Sapphire)
4.37ct 10x8mm 3.44ct 10x8mm 2.49ct 10x8mm 1.78ct 7.8x7.0mm

サファイアの青の発色の仕組み

 宝石質のコランダムのなかで濃い赤のルビー以外の全てはサファイアと呼ばれ多彩な色合いがあります。
  が、青いサファイアは全ての青い色の宝石を代表する宝石と言っても過言ではありません。
  しかし同じ青いサファイアでも産地による色合いや品質は似ているようで、微妙に異なります。
 ここではサファイアの青い色と品質の違いとを産地別に検討してみました。

 サファイアの青の発色は不純物として含まれる鉄と、同じくその10分の1程含まれるチタンイオン間の電荷移動によることが1976年に解明されました。
  もう少し詳しく説明すると、サファイアの結晶格子中には成分のアルミニウムを一部置き換えて不純物として二価の鉄イオンと四価のチタンイオンとが近接した軌道上に存在しています。
  このサファイアに光が当たると、そのエネルギーを受けて二価の鉄イオンから電子がチタンの軌道に飛び移り両イオンとも三価になります。
   この時光は黄色から赤の帯域に相当する光のエネルギーを奪われるので通り抜けた光には青の帯域の光だけが残され、サファイアは青く見えると言うわけです。
  さらに1987年にサファイアには二価の鉄イオンと三価の鉄イオン間で電子を交換する電荷移動の仕組みでも同様の青の発色が起こることが解明されました。
  アルカリ玄武岩起源のサファイアの発色の多くはこの仕組みですが、不純物の鉄の濃度が高く、ほとんどの光が吸収されるために黒に近い暗青色が大半です。
  オーストラリア産のインク・ブラックと呼ばれる青はこの仕組みによるものです。
おそらく他の産地のサファイアにも多かれ少なかれ、二つの発色の仕組みが重なって起こっていると考えられます。
  それが産地によって微妙に色合いが異なる原因なのでしょう。

カシミールのサファイア (Kashmir Sapphire)


2.034ct 7.75x7.31mm
Kashmir
カシミール・サファイアに特有の
柱状のパルガサイトインクルージョン
Pargasite inclusion  45x
液体状インクルージョン
Liquid bubble inclusion  90x
  ブルー・サファイアといえば常に引き合いに出されるのがカシミールのサファイアです。
詳細は別途、宝石ホールの ”カシミール・サファイア” の展示をご覧ください

 カシミール・サファイアとは19世紀末にインド最西北部、ヒマラヤ山脈に連なるザンスカー山脈の頂に近い標高4500m地点で発見され、20年余り採掘(雪のない夏の3ケ月間のみ)されただけで枯渇してしまったサファイアです。
 最上のカシミールサファイアに特有の素晴らしく澄んだ、ビロードのような光沢はコーン・フラワー(矢車菊)ブルーと称され、最上のブルー・サファイアと評価されています。
 産出が途絶えて既に一世紀以上が経ち、もはや幻のサファイアと言っても過言ではありません。
が、年に何度かではありますが、古い在庫や宝飾品が市場に姿を現すことがあります。
 指輪にセットされた2.034カラットのサファイアは、そのような経緯で出会ったものです。 
小さいながら、紛れもなく、最上のカシミール・サファイアの色と微細な液体状インクルージョンによるビロードのような光沢を備えています。
 このサファイアの分析をした専門家によると、過去に見た中でも最も美しいカシミール・サファイアであるとのことです。
 下記の分析データ及び、別途エネルギー分散型蛍光X線分析による成分分析でも主成分のアルミニウムとごく微量の鉄分しか検出されないほど純度が高いサファイアであることが確認されています。
 微量の鉄とともに青の発色を担っているチタンも検出限度以下でデータに現れません。
それほどに純度が高いことがこのサファイアの深々と澄んだ青い色合いを演出していると考えられます。

カシミール・サファイアの値段

   100年以上昔に鉱脈が枯渇してしまったため、市場に出るのは全てがコレクターの放出品か、アンティークの宝飾品の再利用となります。
 このような希少な宝石となると、ダイアモンドの4Cで知られるような、一定の相場基準というものはありません。
 実はダイアモンドの場合でも、ファンシー・カラーと呼ばれる特別な色合いや10カラットを超える最上級品質のものには4Cの基準に基づく価格表はありません。 希少品の場合はすべてオークションにて需要と供給の兼ね合いで価格が決まります。
 日本では時たま、銀座の和光でカシミール・サファイアの宝飾品を見かけます。 
2000年には4カラットの指輪が1800万円でした。 2005年にほぼ同じ品質の4カラットの指輪が2200万円でした。 和光の、ダイアモンドで飾り立てた宝飾品の値段ですからあくまでも参考です。
 ただし、このクラスの宝飾品となると、飾りのダイアモンドはおまけのようなもので、ほぼカシミール・サファイアのルースがカラット当たり500万円程度の評価をされています。
 2004年6月にニューヨークのサザビーのオークションにて14.4カラットのカシミール・サファイアが日本円にして2600万円で落札されました。
 カラット当たり166万円と破格の安値ですが、石そのものの色や品質がどの程度のものか分かりませんから、あくまでも参考です。 カシミール産のサファイアとは言え全てが最上級の品質とは限りません。
 さらにオークションではどうしても欲しいという客が競り合わなければ意外な安値で落札されることもあり、逆に青天井で値が吊り上がることもあります。
 和光も恐らく海外のオークションで入手したものと思われますが、この10年余り、カシミールに次ぐビルマのモゴク産サファイアもほぼ枯渇し、一方で富裕な中国人が数少ない最上級のブルー・サファイアを資産として買い漁っているため、大半が中国市場に吸収され、今日では上等なサファイアは日本市場には滅多に姿を現しません。

サファイアの産地別、産状別、加熱処理の有無等を識別する分析データ
2.034カラットのカシミール産サファイア分析結果
フーリエ変換赤外変換光度計分析
(Fourier Transfer Infrared Spectrometer)
紫外可視分光光度計分析
(Ultraviolet and visible Spectrophotometer)
紫外ー可視分光分析による産状別特性
赤 : 非加熱を示す吸収特性 2.034カラットのカシミール産サファイアの吸収特性     青 : カシミール産サファイア
     赤 : 広域変成起原のサファイア
    緑 :  アルカリ玄武岩起原のサファイア
 青 :  加熱処理されたサファイアの吸収特性


非玄武岩起原サファイアの産地別の紫外線ー可視光分光吸収特性
(Ultraviolet−Visible Spectrophotometer Spectrum Analysis of sapphires of different localities : GIA analysis)
   
カシミール産サファイアの吸収特性 左のサファイアの加熱後の特性   モゴク産サファイアの吸収特性 スリランカ産サファイアの吸収特性 加熱されたスリランカ産
サファイアの吸収特性 
Kashmir Heat treated Kashmir   Mogok Srilanka Heat Treated Srilanka 
 同じ非玄武岩起原サファイアであっても、カシミール、モゴク、スリランカ産のサファイアでは微妙に色合いが異なります。
 肉眼では、とりわけモゴク産とスリランカ産では識別が難しいのですが、分光計による吸収特性の違いで産地を識別することが可能です。 
 とりわけ三価の鉄イオン(Fe+3)による、374nm, 388nm, 450nm の吸収特性の違いがカシミールとモゴク、スリランカのサファイアを識別する重要な要素です ;
 カシミール産は450nmの吸収が弱く、374nm, 388nmの吸収特性もスリランカ、モゴク産とは異なります。
モゴク産とスリランカ産も 374nm, 388nmの吸収特性には明らかに差があります。 モゴク産の狭い、急峻なV字型の特性を見せるのに対して、スリランカ産は深く、幅広い大きなV字型の吸収特性を示します。
 参考までに示した加熱処理されたスリランカ産サファイアの分光特性は非加熱のものとは異なり、識別が可能です。
 市場では極めて評価の高いカシミール・サファイアですが、全てのカシミール産が美しいわけではありません。
中には色むらがあったり、暗い色合いのものもあり、改善のために加熱処理されることがあります。 
 ところが加熱によって、暗い色合いは改善されるものの、上の分析データの2番目と5番目の図のように、元の産地のデータとは全く異なる吸収特性となり、産地の特定が不可能になってしまいます。
         モゴクのサファイア (Mogok Sapphire)

大理石中のサファイア結晶
10x6.6x6.6cm
モゴク産の普通のサファイア原石
5〜10mm
カシミール産に匹敵する最上級のサファイア
  65.8ct            20.97ct          4.72ct 10.5x7.9x6.3mm 

4.72ct 10.5x7.9x6.3mm 典型的なモゴク産を示す紫外―可視分光吸収特性 非加熱サファイアの特徴を示すフーリエ変換型赤外分光光度特性
  カシミールのサファイア鉱脈が枯渇して以来、ビルマのモゴク産のサファイアが最も美しいサファイアとして宝石市場に君臨してきました。
  1980年代の初めから終わりにかけてサザビーやクリスティーズのオークションに出品された写真のような60カラットを超えるモゴク産の最上級サファイアは150万〜280万ドルもの値が付けられました。
  1970年代当初と比べると10倍近い値上がりとなり、実にカラット当たり4万ドル以上の値段でDカラーの最上級の同じ大きさのダイアモンドと同等の評価がされたことになります。
 もちろんそうした評価を受けるような大きく美しいサファイアは滅多にはありませんし、オークションでは競り合えば値段は天井知らずに高騰しますから、必ずしも市場の一般的な相場を常に反映するわけではありません。
  しかしながらサファイアが極めて高く評価されたという意味では、これらのオークションは歴史に残る出来事となったのも事実です。
 残念ながら、今日ではモゴクではごくありふれた品質のサファイアは依然として採れますが、かつてのような最上級品は近年では全くと言ってよいほどに市場で見かける機会が無くなりました。
 4.72カラットのサファイアは数十年前に指輪に加工されたモゴク産の最上級の色合いのサファイアです。
拡大して見るとテーブル面の一部に微細な水滴等のインクルージョンがありますが、これほど大きく、美しい色合いのサファイアは今日ではほとんど枯渇してしまって、入手は困難です。
 長年の経験ある宝石商から、当初スリランカ産として提示されました。
が、中央宝石研究所で分析した、それぞれ紫外線ー可視光と赤外線の吸収特性から、拡散処理も加熱処理もない、紛れもないモゴク産のサファイアであると判明したものです。
 前述のGIAによる別のモゴク産のサファイアの吸収特性と余りにも似ているのには驚かされました。 
分析データがサファイアの産地の識別にこれほど威力を示すものと、改めて認識を深めた次第です。

Baw Mar 産サファイア

 モゴクでは町の周囲およそ10qの範囲内に無数のルビー、サファイア、スピネルの鉱山が集中しています。
ルビーとスピネルは依然として採掘されていますが、ブルー・サファイアの上質のものはこの10年あまり、トンと市場に姿を現しません。
 代わって2013年頃から、モゴクの西20q程のBaw Marに新たに発見された鉱山で、重機を使ったサファイアの大掛かりな採掘が行われています。 
 この地は、モゴクと同じ地質の土地で、サファイアは風化した片麻岩層に閃長岩の貫入による成因なのですが、発色の原因となる不純物の鉄を多く含むため、タイやオーストラリアの玄武岩起原のサファイアを思わせる暗い青のサファイアが大半です。
 ビルマ産とは言え、かつてのモゴク産とは相当品質が異なります。


マダガスカルのサファイア (Malagasy Sapphire)

スカルン起原のサファイア (Sapphire of Skarn Origine)
2.99ct 8.1 x7.0mm 非加熱 2.56ct 10.0x6.3mm 0.85ct, 0.72ct 6.7x5.0mm 結晶 0.48 - 0.96ct
Andranondambo

玄武岩起原のサファイア (Sapphire of Basaltic origine)
左上(inset) 8.25, 3.26ct   1.12ct 7.0x6.0mm 
1.04 - 2.98ct 
Ambondromifehy, Madagascar

 今日、ビルマに代わって最も高い評価を受けているのが1995年ごろにマダガスカル南部のアンドラノンダンボ周辺で発見されたサファイア産地です。
  カシミールやビルマ、スリランカ同様、非玄武岩起源のスカルン鉱床からのサファイアの最上級品はカシミール産に匹敵する澄んだ深い青と透明度で注目を集めています。
  平均で1カラット程度の小さなルースが大半なためでしょう、カシミール産のサファイアと比べると価格的には5分の1以下の低い評価で、モゴク産と比べると格安の相場となっています。
  もし比較的に大きなルースに出会ったならためらわずに入手すべきでしょう。
 写真の0.85ctのルースは美しい色ですが、1個数千円、0.72ctのルースは結晶面に沿ってカラーゾーンがあるごく普通のサファイアですが、これも1個3000円と、いずれも天然のサファイア・ルースとしては破格の値段です。
  2.99カラットと 2.56カラットのルースは、マダガスカル産サファイアの最上級品質の大きなルースです。 
品質もスリランカやビルマ産の最上級品に匹敵しますが、購入した当時は発見から既に10年がすぎて、アンドラノンダンボ産サファイアの品質の評価は確定されていたのですが、どういうわけか値段だけは未だカラット当り数万円と、同等の品質のビルマやスリランカ産と比べると桁違いに安く、気軽に入手できました。
 その後このクラスの青いサファイアの値段は高騰の一途をたどり、逆に供給は減る一方で、市場で見かけることすら稀になっています。

 マダガスカルでは1990年代後半以降各地でルビーやサファイア鉱床の発見が相次ぎ、現在では質、量共に、世界有数の産地となっています。
 ただしアンドラノンダンボ以外の他の産地は玄武岩起源のために、沈んだ青や、多色の色合いです。

スリランカのサファイア(Srilankan Sapphire)


5.51ct 9x9.6mm 1.03ct 7.45x5.2mm 1.00ct 7.15x5.2mm 結晶 30mm 27mm

 スリランカのサファイアは一般に色が淡いため、カシミールやビルマ程の高い評価を受けていません。
しかしタイやオーストラリアの玄武岩起源のサファイアと比べると透明度の高い爽やかな青は美しいものです。
  写真の中二つのルースはいずれも色斑やカラーゾーンがあり、宝石として高く評価される品質ではありません。
  しかしサファイアに限りませんが天然の宝石の殆どはこのような品質なのです。
全く色むらがなく一様に濃い色合いの宝石が自然の条件で大きく成長することはむしろ稀なる出来事です。
  完璧を求める日本ではそうした稀な宝石しか認めないと言う風潮が強く、必然的に非常に高価な宝石だけが取引の中心となり、そのために宝石が一般に普及しないと言う悪循環に陥っているのが実情です。
 しかしこうした色むらやカラーゾーンこそ、自然のなせる業であり、それなりの美しさと魅力に溢れています。
  30年以上昔のことですが、初めてツーソンに出かけた時は、限られた予算の中で出来るだけ多くの種類の珍しい宝石を集めることが最優先でしたから、ルビー、サファイア、エメラルドの類の宝石は、ただ横目で眺めるのみ、ショー・スペシャルや半ば処分品の、カラット20ドル程度の品ならためらわずに入手できると言うのが実情でした。
  したがって5.51ctの逸品のようなサファイアに目が向けられるようになったのは、あらかた目ぼしい種類の宝石コレクションが一段落したごく最近のことです。 
  この5.51ctのサファイアですが、最上級のサファイアとはこういうものと、一目で納得させられました。
色むらもインクルージョンも皆無に近く、透明感のある深い青ですから、本来なら合成や拡散処理、さらに加熱処理か非加熱か、等々疑い始めればきりがありませんが、それら俗事を全て忘れさせられる程の毅然とした美しさに満ちています。
  したがって検査機関のレポートも何も確かめずに入手したものです。
もちろん本来の市場価格と比べてはるかに格安だったわけですが、それでも隣の1.03ctと比べると1000倍もの格差があります。
  美しさの差を数字で表すことなど不可能ですが、敢えて言えば1000倍どころか1000分の1も違いはありません。
  しかし片や何時でも何処にでもあるものと、一方では、おそらくツーソンに出かけたところで必ずしも出会うことがあるとは限らないほどの逸品となれば、その僅かな差に天と地ほどの価格差が付くのも止むを得ません。
 宝石という趣味の世界の奥深さを改めて実感させられる出会いでありました。


タイ、カンボジアとオーストラリアのサファイア (Thailand, Cambodia and Australian Sapphire)


2.75ct 1.52ct 8.0x6.1mm サファイア原石 
3〜8mm
Chanthaburi, Thailand
1.65ct 7.4x6.8mm 0.92ct 6.7x4.6mm
Thailand Pailin, Cambodia

1.06ct 7.8x5.5mm 1.26ct 7.2x5.5mm 0.37ct 0.22ct  0.37ct 0.19ct(Ø3.7mm) サファイア原石 3 - 5mm
Australia
Australia

 タイとオーストラリアのサファイアとはいずれも玄武岩起源で産状や色合いが良く似ています。
タイは南部のチャンタブリと国境を挟んでカンボジアのパイリンとが同じ地質にあり、サファイアとルビーの重要な産地でした。
  特にタイ側では重機を用いた大規模な採掘の結果1990年代初頭には鉱脈はほぼ枯渇してしまいました。
代わってオーストラリア産のインクブラックと呼ばれる余りにも黒ずんだ色合いで宝石としての価値がなかった原石を加熱処理により色を薄める技術の導入がタイで開発され、採掘された原石の全量がタイで処理されて出荷されています。
  オーストラリアはサファイア原石の生産量では一時は世界の50%以上を占めましたが、原油価格の高騰など生産コストの上昇により、現在では採掘は停止されています。
 タイではその他にスリランカ産のギウダと呼ばれる白濁した原石の加熱処理や、マダガスカルやタンザニア等アフリカ産のサファイア原石の加熱処理、研磨、宝飾品への加工等、世界で最大の色石の加工の中心地となっています。
 と言った事情で、タイ産のサファイアそのものはタイ原産と輸入加工品との区別がなく流通しているため、それと識別するのは困難です。玄武岩起源とは言え、写真のように上級品は十分魅力があります。
  こうした普及品の宝飾品では敢えて宝石の原産地を云々することはまずありませんが、市場で見かけるサファイアの大半はアフリカ、オーストラリア産のサファイア原石がタイで加工されたものと考えられます。
  0.18〜0.34カラットの小さなオーストラリア産のサファイアルースは、ツーソンで最初に買ったサファイアで、オーストラリア産としては最高の品質と熱心に勧められたショー・スペシヤルで30ドルのパッケージでした。
 インクブラックとは言え、魅力的な色のサファイアです。

モンタナのサファイア (Montana Sapphire)

 アメリカ西北部のモンタナ州各地の砂金採掘場でサファイアが発見されたのは1860年代に遡ります。
 しかしモンタナ産のサファイアはヨーゴ峡谷産の濃い青の原石以外はいずれも淡色で小さくしかも平板状の結晶が多く、宝石よりは精密機器の材料として一時は大量に採掘されました。  アメリカでの採掘はコストが高く、タイやスリランカ産との価格競争に負けて、多くの鉱山は採掘と閉鎖とを繰り返してきました。
 近年、淡色の原石を加熱処理で美しく発色させる技術が発達したため、多彩なパステル・カラーのモンタナ・サファイアが注目され、数多くの鉱山が復活、再開発されています。
 インクルージョンが少なく透明度の高い、アジアのサファイアとは一味異なるモンタナ・サファイアは最上級の矢車草の青でもカラット当たり1000ドル、普通のサファイアなら100〜300ドルと手ごろな値段です。
1.47ct サファイア原石 5〜10mm
Montana, U.S.A.


合成サファイアと処理サファイア (Synthetic, Diffusion & Coated Sapphire)
3.44ct 10x8mm       2.48ct 9.9x7.9mm
火炎溶融法合成サファイア
(Flame fusion synthetic sapphire)
1.77ct 8x6mm
コバルト拡散処理サファイア
(Diffusion treated sapphire)
コーティング着色サファイア
1.88ct 8x6.4mm
Coated sapphire
 合成サファイア

 紛い物ではない真正の合成宝石の嚆矢となったのは合成ルビーで1882年にスイスで作られたものでした。
これは天然の屑ルビーを溶かして再結晶させたもので、「ジュネーヴルビー」の名称でカラット当たり100マルク、100〜150フランでかなりの量が出回ったと言われます。
  しかし1904年にフランスの化学者ヴェルヌイユが火炎溶融法による高品質の合成ルビーの大量生産方法を発明したことで値段はカラット当たり0.3フランに暴落してしまいました。
 火炎溶融法による合成ルビーは圧倒的な人気を得て生産は拡大し、1909年当時スイス、フランス、ドイツでの年間生産量は550万カラットに達しました。
  当時、青の発色の仕組みが分からず試行錯誤の末にルビーに遅れること6年、1910年にようやくサファイアの合成方法が確立されました。
 1913年にはルビーが1000万カラット、サファイアの年間生産量も600万カラットに急拡大しました。
これら生産量の大半は宝石用途であったと考えられます。
  したがって100年ほど昔のヨーロッパの宝飾品のアンティークに美しいルビーやサファイアが用いられていた場合には合成品の可能性を検討する必要があります。
 現在、火炎溶融法によるルビーやサファイアの生産は全世界で年間数千トン(250億カラット)に達していますが、その殆どは産業用で宝飾用途は極めて少ないと考えられます。
  その理由は火炎溶融法によるルビーやサファイアは生産量が余りにも多すぎて価格が暴落し、生産コストが1カラット当たり10円にもならないほどに安くなってしまったためです。
 品質や美しさでは天然の最上級品を凌ぐにもかかわらずガラス並みの値段ではどんなに美しかろうと誰も見向きもしないと言う事態になってしまったのです。
 写真の3.44カラットのサファイアは20年ほど昔、カシミールサファイアを思わせる最高品質の合成サファイアというカタログの説明につられて入手したものです。
  当時はインターネットなどなく、写真もないカタログで大きさと色と等級の説明のみを信じて買うしか方法がありませんでした。
  大枚15ドルも払って届いた最高級の合成サファイアに期待を抱いて開けてみたら、何と殆ど真っ黒なサファイアだったので大いに失望して20年間片隅に押し込められたままでした。
  次の2.48カラットのオーヴァルカットの明るい空色のサファイアは、ツーソンで5ドルくらいで入手したもの。サファイアはスリランカ産のような明るい空色が最も好ましいと思っていましたが、天然のこのクラスは到底手が届きませんので、参考までに同等の合成品を買ったような次第です。
 永らく忘れていた合成品を久しぶりに取り出してじっくり眺める気になったのは前述のスリランカやカシミールの天然の最上級品を入手してからのことでした。
  真っ黒ではないか、と失望した合成サファイアが、実は紛れもなく天然の最上級品にそっくりだとようやくにして気が付いた次第です。
 本来、天然の最高級品と同じ色合いになるように作られたものですからそっくりなのも当然のことです。
したがって丁寧に加工した宝飾品に合成品が使われたなら外見から天然との区別は不可能でしょう。
  しかし合成品ではどんなに材料を精製し、発色材を精妙に調合しても天然の最上級品が持つ味わい深い存在感を再現できるとは限りません。
  天然の宝石の場合には測定限界以下で含まれる不純物や結晶内の微細な包有物や気泡、水泡等によってそれぞれの石に固有の色合いが醸し出されます。
 天然のカシミールサファイアの深く澄んだ青や天然のスリランカの最上品の深々とした青の色合いは、やはり合成品とは微妙に異なります。
  その微妙な違いをどう許容するかの判断で実に千倍から1万倍もの価格差が生じるわけです。

拡散処理サファイア

 1.77カラットのコバルト拡散処理のサファイアはやはりツーソンでカラット当たり50ドルで入手したものです。
拡散処理とは、無色、あるいは色の薄いサファイアをコバルト化合物中で加熱処理を行い、サファイアの内部にコバルトを浸透させることで、ブルー・サファイアの色合いを実現させる技術です。
  タイやオーストラリア等、玄武岩起源のサファイアの最上級品を思わせる美しい色合いですから、手ごろな価格の宝飾品に使われることがあります。 もちろん宝石としての価値はありません。
 したがってまともな宝石商は拡散処理サファイアを扱うことはありません。

コーティング処理サファイア

  最後のハート型の1.88カラットのサファイアは青い塗料をコーティングした紛い物です。
 インクルージョンの多い天然サファイアにコーティングしてあるもので、一見、天然のカシミールサファイアに似た明るく美しい色合いですが、コーティングされた塗料はいずれ剥がれますから、
使っているうちに、まさに化けの皮が剥がれます。 もちろん宝石としての価値はなく、一部の悪徳業者が扱うのみです。
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