ナノ合成エメラルド ???
(Nano Synthetic Emerald  ???)


2.80ct 9.2x7.1mm
   最新のハイテク技術によってつくられた ナノ合成エメラルド ” なるルースをネット上で見かけて、一体何物かと調べるために落札してみました。
  6.40ct 12.0x9.7mm
 バイロン熱水合成エメラルド
Biron Hydro-thermal
synthetic emerald
   2.80ct 9.2x7.1mm
   ナノ合成エメラルド ???
   Nono synthetic
   Emerald ???
2.08ct 8.2x8.2mm
セントヘレナ火山ガラス !!!
So-called Saint Helena
volcanic glass
3.34ct 8.8x8.3mm
コロンビア・ムソー鉱山産
Natural emerald
Muzo Mine, Colombia
比重 2.68-71 3.027 2.448 2.698
屈折率 1.569-573 1.623 1.508 1.570-580
 手持ちの熱水合成エメラルド、セントヘレナ火山ガラス(実は鉄,銅、コバルト添加のただのガラス)と、オイルもオプティコンの含浸処理もないコロンビア、ムソー鉱山産の最上級エメラルドと比較してみました。
 発色にかかわるクロム、ヴァナジウム、鉄、銅などの含有比率の違いにより、微妙な色合いの違いがありますが、しかし、いずれも美しいエメラルドに見えます。
 コロンビア産は天然のエメラルドに特有の内包物がありますから、宝石の専門家ならたちどころに識別が可能ですが、他の3点は殆ど内包物を含みません。
 却ってそのために天然のエメラルドではないと分かりますが、ではこれらの正体が何かといわれると、比重や屈折率などを精密に測定するしかありません。

 このナノ合成エメラルドなる代物、屈折率と比重とが、他のエメラルドやガラスより遥かに高い値です。
これはスワロスキーの鉛ガラスのエメラルド・イミテーション、”スワロ・グリーン” の比重 2.88、屈折率 1.608-602 と比べてもさらに大きな値です。
 トルマリン(比重 2.98-3.25、屈折率 1.614-666)並みの値ですが、パライバ産のエメラルド色とも異なり、内包物の少なさから、どう見ても天然の宝石ではあり得ません。
 最新の ” Gem-n- Eye” 社製の反射率ー屈折率換算計では何と、アンブリゴナイト(屈折率 3.00-10、比重 1.578-646)と表示されます。 もちろんこんな色のアンブリゴナイトはありません。

ナノ合成エメラルドの正体
外周に見える縞状の直線と、微細な球状の内包物  セラミック・ガラス (Glass Ceramic) 2.59 - 3.15ct  GIA photo 45x
  一体、何物なのか ? 何としても正体を突き止めねばなりません。
 エメラルドのようにチェルシー・フィルターで赤く見えませんから、クロムやヴァナジウム発色ではありません。 また紫外線にも反応しません。
 よくよく観察すると、照明の角度によって外周に天然の結晶の成長線のような縞模様が浮かび上がります。
 一方、中央下部に10倍のルーペでようやく分かるほどの微細な球状の内包物がありますが、これは天然の結晶には見られない特徴です。
 どう考えても天然の結晶ではなく、おそらく特殊なガラスであろうと見当をつけましたが、しかし高級な分析機器を持たない素人にとっては、詳しい素性を突き止める術はありません。
 さあ、困った。 一週間ほどかけてあれこれ資料に当たってみると、何と Gems & Gemology 2010 Summer の  Gem News International に ” Nanogems”  が紹介されていました。
 たった4年前の記事ですが、すっかり忘れていました。

 ナノジェムズとはロシアのモスクワに本社があり、タイに工場を持つ Formica LLC 社の宝飾品用途に開発されたセラミック・ガラスの商品名でした。
 セラミック・ガラスとはガラスに様々な金属等を添加して熱処理し、本来は非晶質であるガラスの一部に結晶質の構造を持たせたものです。
 添加する元素と熱処理の方法により様々な特徴を持ちますが、とりわけ負の熱膨張率を持つ特性から、耐熱ガラスとしてパイレックス等の商品名で調理器具や食器等に広範に使われています。
 フォルミカ LLC社では2010年のツーソン・ショーを機に宝石用途に販売を始めたようです。
 GIAの分析では比重が3.02-07 屈折率がコバルトを80ppm含む青いものが 1.621、ニッケルを7000ppm含む緑色が1.629 と測定しています。 
 即ちこの緑はニッケル発色なのでチェルシーフィルターに無反応でした。
 さらにレーザー分析にて Mg-Ti-Zn-Zr のアルミニウム珪酸複合体の組成を検出しています。
 ジルコニウムのような重い成分を含むために、比重と屈折率が比較的に高い値を示す理由が判明しました。 
 さらに拡大率が45倍の写真に見られる縞模様や微細な球状包有物、チェルシー・フィルタや紫外線への反応等から、今回入手したものが新しい宝石用途に開発されたセラミック・ガラスであることが確かめられました。
 ナノ技術による合成と、もっともらしい説明ですが、実はただのセラミック・ガラスでありました。

 しかし、セント・ヘレナ火山ガラスとの謳い文句のガラスもそうですが、千倍も高価なムソーのエメラルドと比較しても美しさでは全く引けをとらないというのが、宝石の面白さでもあり、恐ろしさでもあります。


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