ソーヌス・ファベール : コンチェルト・ドムス
Sonus Faber : Concerto Domus


            
キャビネットの前後と
上部、下部とを皮で
装丁した仕上げ 
エレクタ・アマトール (Electa Amator) Sonus Faber : Concerto Domus 
クレモナや上級のオマージュ・シリーズと同等のリング・ラジエーター等が使われている
クレモナ (Cremona) 
 
 ソーヌス・ファベ-ルとはイタリア語で”音の工房”の意味。
日本では英語読みでソーナスと呼ばれるが、イタリアのメーカーであればソーヌスが正しい。
 
 ソーヌス・ファベールが最初に日本市場に登場したのは1980年代末のこと。
バブルの終末期に日本のオーディオ・メーカーが相次いで発狂したのかとしか思えないようなスピーカーを一斉に売り出して、ほぼ全社が討ち死にしてしまった後のことだ。以後、日本のオーディオ・ビジネスは消滅した。
 彼らが何故そんなスピーカーを出したのかは未だに謎としか言えない。
いずれにせよ、あの時代、日本全体が狂気の最中にあったのは事実だ。
 どのメーカーが始めたのかは定かではないが、狂気のスピーカーとは、こんな代物だ ;
 一様に一台当たり59,800円と、それ相応に手間と物量とを投入したスピーカー・システムだが、その手間と金額とを、全てヤマハのNS-1000という、市場で定評のあったモニター・スピーカーをあざとくコピーし、しかし音はといえば、ヘヴィー・メタルを大音量で聴くためか、ガラスの破片で心臓を突き刺すような、凶暴極まりない音に仕立て上げたという、恐るべき代物だった。
 あろうことか、このデザインと音質と値付けとを全社が追随して出したのだからたまらない。
かくして秋葉原は、至る所でギャンギャン・キャンキャンと轟音が響き渡る地獄の巷の様相を呈することと相成った。
 余りの凄まじさに辟易して、すっかり秋葉原から足が遠のいてしまっていたが、どうしても部品が必要になり、しばらくして電気会館を訪れたところ、遥か彼方から春風のような爽やかなモーツァルトのヴァイオリン協奏曲が聴こえてきた。
 そこで鳴っていたのが、大理石の台と寄木細工のスタンドとキャビネットの、手工芸品のような斬新なデザインのスピーカーだった。
 デザインもさることながら、何よりも、このスピーカーの奏でる天上の音楽を思わせる、流麗にして優美な音色にはすっかり魅せられてしまった。  
 これこそは、スピーカーは楽器であると、固い信念を持つフランコ・セルブリンが1980年に創業したイタリア、ソーヌス・ファベール社のエレクタ・アマトールだった。
 スタンドも含めてペアで70万円余と,当時としては高価なスピーカーではありましたが、何よりも高級家具のような仕上げとデザイン、それに相応しい高雅な音質とで、着実に世界市場で、とりわけ日本のオーディオ市場で成功を収めたのだった。
 その後着実に開発を進め、ペアで100万円を超える高額にも拘らず空前のヒットとなったのがクレモナ、および、さらに上級モデルのガルネリ、アマティ、ストラディバリ・オマージュといった一連のイタリアの弦楽器の名器にに因むシリーズだった。
 これらはいずれもメープル等の上質の木材の薄板を30層以上重ねて、楽器のように湾曲した構造のキャビネットに仕上げたスピーカーであり、その美しさは世界のオーディオ・マニアの垂涎の的となった。
 音質そのものが、その外見に相応しい水準であるのは当然のことだが、使われているスピーカー・ユニットは全て、デンマークのメーカー、スキャン・スピーク社の傘下にある、ピアレス、ヴィファ社等のユニットが選ばれている。
 発売年度   H W  D  Weight
 Electa Amator   1988    37cm  22cm   35cm 15kg 
 Cremona   2000   105cm  22cm   41cm   36.5kg 
  Concerto Domus  2005    99cm   20.5cm  31cm  23.2kg
 
 とりわけ、音質、デザイン共に洗練され、実質的には最上機でもあったクレモナの人気は高く、発売後18年経った未だにオークションや中古市場にて、数十万円の高値でも忽ち売れてしまうほど。

 大ヒットしたとはいえ、流石に100万円では数が出ないから、ペアで20万円程度の小型から数十万円の中型シリーズがその後何世代か出た中で、2005年に発売されたコンチェルト・シリーズは注目に値するものだった。
 最上級機のコンチェルト・グランド・ピアノはほぼクレモナと同様の大きさ、仕上げ、ユニット構成を持ち、値段も66万円と妥当な水準だったが、これは殆ど売れなかったらしく、中古市場にはまず出てこない。 この値段であればクレモナを買ってしまおうということなのだろう。 最も売れたのは、ペアで20万円と、手軽な価格のコンチェルティーノ・ドムスだった。
 上級モデルのクレモナやさらに贅を尽くしたオマージュ・シリーズと同じユニットを使い、構造や仕上げもほぼ同じ楽器仕上げとデザインでソーヌス・ファベールの極上の音を楽しめるとあれば人気が出るのも当然。
 ソーヌス・ファベールに限らないが、スピーカーメーカーがほぼ同じスピーカーユニットを使ってキャビネットの大きさが異なる一連のシリーズを作った場合、20万円の最下位モデルであれ、100万年の上級機であれ、あるいは数百万円のフラッグシップ・モデルであれ、普通の音量で聴く場合には実は再生音にそれ程大きな違いはない。
 もちろん中低音ユニットの口径が大きく、あるいは複数個使ったもの当然ながら低音再生に余裕が出て、臨場感が増すのは違いないが、実は20㎝程度の中低音用と、高音ユニットがあれば大抵の音域と音量は十分に再生できるのだ。
 だが、どうせなら、クレモナのようなトールボーイ・スタイルをと辛抱強く待って、ようやく入手したのがコンチェルトドムスだった。 メープルではなく、ピアノ塗装仕上げだったが、何しろ3年に1回程度しか出回らない希少品とあれば贅沢は言えない。
 コンチェルト・ドムスシリーズの魅力は何と言っても、前述のように、クレモナやオマージュ・シリーズと同じユニットを採用したことだ。
楽器デザインのキャビネット材質や仕上げもピアノ塗装にバッフル全面を皮で装丁するなど手の込んだもの。
 

オーデイオ・ルーム
 
EV-Sentry500, Tannoy-ⅢLZ Monitor-Red, Sonus Faber Concerto, Piega C-3
の4組のスピーカーをAVアンプとSPセレクターで切り替えている。
ソースはDVDプレーヤーとLPレコード・プレーヤーとカセット・デッキ
Bolero、Monitor Audio Studio-5、Yamaha NS690、Cabasse Doris 
120インチのスクリーンと組み合わせたAVシステムも兼用
AVアンプとSPセレクターとで4組のスピーカを切り替えて鑑賞。
ソースはブルーレイとレーザー・ディスクとDVD/SACDプレイヤー

 写真は我がオーディオ・ルームの概要 ; 

 東西に5.46m、南北に4.26m、14畳とそれほど広くはないが、天井の高さが、北側4.4m、南側が2.4mと高く不定形なので適度な反響があり、音楽鑑賞には十分な容積と構造の部屋だ。
 この部屋にそれぞれ4組のスピーカーを繋いだ2組のシステムが収まっている。
 この他にそれぞれ2組と4組と2組のスピーカーを繋いだ合計17組のスピーカーを鳴らせる5つのシステムがある、詳細についてはいずれ紹介してゆく。
 何故、そんな馬鹿なことするのかと言われれば、返す言葉もない。
音楽を聴く事が楽しみの一つだったが、長年、じっくりと音楽を楽しめるような住宅事情ではなかったから、退職して北海道での生活を機に、オーデイオ・ヴィジュアルも兼ねたAVルームでようやくそれが叶った。
 オーディオ業界はほぼ壊滅状態となってしまったが、ネット・オークションが台頭してきて、どんな珍品でも、気長に待っていれば格安で入手できる有り難い世の中となった。
 ネット市場の難点は、実物を見たり聴いたりできないことだが、何を隠そう、僕はソニーでオーディオやビデオの海外市場のマーケテイングを長年担当していた。 デジタル技術がオーデイオ界に導入され始めた頃からだ。
 半世紀以上オーディオと付き合っているから、ことオーディオ製品に関しては、聴かなくとも外観デザインや造り、使われているスピーカーユニット等を一見しただけで、その素性が分かる。
 したがって、この10年余りの間、オークションにて試聴もせずに落札した13組のスピーカーに外れは1台もなかった。いずれも予想した通り、あるいは予想以上に素晴らしい音楽を奏でてくれている。
コンチェルト・ドムス

 写真のように、2005年製のコンチェルト・ドムスはTannoy ⅢLZ Monitor-Red, Electro Voice Sentry500という50年以上昔の、謂わばヴィンテージの二組のスピーカーと、同じく2005年製のスイスの Piega C3 という高性能のリボン・ツィーターを持つ新しいスピーカと対になる形で聴けるようにしている。
 コンチェルト・ドムスとピエガ C-3 とはデザインコンセプと大きさ、さらにユニット構成、性能と価格帯もそっくり、違うのはツィーターが片やリング・ラジエーター、他方はリボン・ツィーターと動作が異なるが、現代最高の高音ユニットということでは肩を並べる。 

コンチェルト・ドムスとピエガC-3の高音ユニットの特性
           
リング・ラジエーター
直径 2.5cm
リボン・ツィーター
2x4㎝
 
 Sonus Faber Concerto Domus   Piega C-3   

 リング・ラジエーターとはドーム・ツィーターの一種だが、振動板の形状が半球状ではなく、同心円状になっている。中央の突起は高音を拡散させるフェーズ・キャップと呼ばれる仕組み。
 このユニットは広域周波数が50KHzまでほぼ平坦に伸びていて、それ以降も100KHzまでなだらかに伸びているという信じられないほどの高性能を発揮する。 
 一般のアルミニウムや紙、繊維などの素材のドーム・ツィーターの広域の周波数特性が精々15KHz~20KHz程度と比べると驚異的な性能だ。
 したがって、世界の数百万円もするような超高級スピーカー・システムに数多く使われている。
 素材はごく普通の紙か繊維のようにしか見えないが、恐らく分割振動が起きにくい同心円状の構造と、同じく、駆動振動系が外周ではなく、同心円部の中心に置かれているためと考えられる。
 一方ピエガの広域はリボン型のツィーターだ。
 リボン型とは、振動板がミクロン単位の極薄のプラスティックの表面に金のヴォイスコイルを蒸着させ、強力な磁界の中で振動させるという構造の高音ユニットだ。
 超軽量の極薄のフィルムとヴォイス・コイルとが一体となった振動系により素晴らしい高域特性が得られるため、半世紀以上昔から理想の高域ユニットとして数多くのメーカーが採用してきたもので、現在も高級スピーカーの多くに採用されている。
 ピエガとはラテン語で ”Piegare : 襞を織る”の意味で、ピエガ社の社名となったようにピエガは会社の創立以来、この高域ユニットを使ったスピーカー・システムを発表してきている。
 極薄フィルムの振動板はそのままでは分割振動をおこすため、蛇腹状にリボンを襞状に織り込んで共振モードを分散させる技術が取り込まれるのは、ピエガ社に限っているわけではなく、他社のリボン・ユニットも同様の構造のはずだが、しかしピエガのユニットはこの対数表のグラフでは 30KHz 近辺にややピークがあるように見えるが、リニアな表では100kHz までほぼ平坦に伸びているという驚異の性能だ。
 現存するユニットでピエガのリボン・ツィーターを超えるのは、現在はドイツのプラズマ・イオンツィーターのみだ。これは150KHzまで広域が平坦に伸びているという物凄い性能を持っている。
 この仕組みは、高圧の電極間でアーク放電を起こし、そのアークを音声信号で変調させるという仕組みだ。
すなわち、ほぼ質量を持たないプラズマ・電弧の振動が空気を震わせて発音するという究極のユニットだが、余りにも特殊な構造で一般的なスピーカーには到底採用されることがない。
 と、いずれも驚異的な高性能の高域ユニットだが、しかし、ツィーターが受け持つ周波数帯域は2KHz~3KHz以上と、人間の聴感では、臨場感や音場感に影響を及ぼす倍音や高調波成分だけをカバーしているに過ぎない。 楽器や人の声の主要な周波数帯域はほぼ 1KHz 前後の低い帯域にあり、この帯域をカバーしているのは中低音ユニットだ。
 スピーカー・システムはしたがって、基本周波数帯域を担う中低音域と、音色や臨場感を担う広域とのバランスが取れて初めてその真価が問われることになる。
 とりわけ、ソーヌス・ファベールやピエガのような卓越した高域ユニットを使っているスピーカーにとっては、それにふさわしい中低域ユニットが不可欠となる。
 前述のように、ソーヌス・ファベールは全てのユニットがデンマークのスキャン・スピーク製だが、実はピエガも中低音ユニットは同じスキャン・スピークを使っている。
 この2社に限らず、世界の高級スピーカー・メーカーの多くにデンマークのスキャンスピークのユニットが採用されている。

 事実この二つのスピーカーは姿やデザインだけではなく、音もよく似ていて、瞬時切り替えでどちらが鳴っているのか、一瞬迷うほどだ。それどころか、じっくり聞いていても、どちらか分かりかねる程似ている。
 素晴らしく性能の良い高音ユニットをそれに見合った反応の良い同じメーカー製の中低音ユニットと組み合わせて、最適の音響音響効果を狙ったリュート型デザインの手の込んだキャビネットに収めたとあれば、似たような音になるのは当然なのだが、 これほど瓜二つの音を奏でるとは、自分の部屋でじっくりと聴いてみて初めて分かったことだ。
 同じシステムで切り替えて聴けるタンノイやエレクトロヴォイス、さらに別系統だが、同じ部屋にある4種のスピーカーもいずれ劣らぬ傑作ばかりだから、格段に違いがあるというわけではないが、しかし、コンチェルトとC-3の奏でる音は、あたかもコンサート会場にて聴いているような臨場感に溢れる何とも心地よい響きで部屋を満たしてくれる。
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