美しきもの見し人は


重力波検出の成功


       
LIGO Hanford, Washington, U.S.A.  ビーム・スプリッター  2か所で検出された重力波  LIGO Livingston, Louisiana, U.S.A 
 2016年2月11日にカルフォルニア工科大学、マサチューセッツ工科大学等を中心とする重力波検出の国際研究チーム ”LIGO : Laser Interferrometer Gravitational Wave Observtory (レーザー干渉計重力波観測天文台) が2015年9月14日の9時50分45秒に到来した重力波の検出に成功したと発表した。 
 この重力波は13億光年彼方でそれぞれ太陽の質量の29倍と36倍のブラック・ホールが衝突、合体し、太陽の62倍の質量のブラック・ホールが生成した際に発生した、太陽の質量3個分に相当する衝撃波であることが、検出された波形の分析により判明したものだ。
 13億光年の彼方からのすっかり減衰しきって地球に到着した重力波は空間を水素原子1個の1万分の1程歪ませたに過ぎないが、その極小の歪みが検出されたのだ。
 冒頭のビーム・スプリッターは検出装置の中心の心臓部ともいえる装置だ。
シリコンとグラス・ファイバーの糸の4重の防振装置で吊るされている。
 10年前は原子1個分の歪を検出するのがやっとで、半径5000万光年内にあるおとめ座銀河団からの重力波の捕捉が限度であったから、この間の技術の進歩には感嘆するのみ。
 だが、これは単に重力波を検出しただけの功績に留まらない。
後述するように、波形の詳細な解析により、決して目には見えないブラックホールの存在が初めて直接証明され、さらに衝突時に何が起こったかが手に取るように判明した、まさに重力波天文学の輝かしい幕開けとなる歴史的な快挙となったのだ。、
 1915年にアインシュタインが相対性理論を発表した際に予言されていた重力波の存在が、100年の時を経てようやく検出に成功したものであり、アインシュタインの理論の全てが正しいと証明されたことになる。
 重力波とは何か ? またその検出が如何に困難なものか、 そして世界各地でその計画がどのように進行しているかは、2008年に別途 ”宝石読本 : 結晶コレクターの素顔 : ジャゾット・コレクション” を参照ください。

コンピューター・グラフィクスによる重力波発生の様々なシミュレーション画像
       
ブラック・ホールの衝突、合体 超新星爆発 中性子星の衝突、合体


アメリカの "LIGO" チームによる重力波検出成功の経緯と、その業績

 2015年9月14日の観測は、実は2009年から5年間に及ぶ大改造が終わり、試験運転を始めて2日後に到来した重力波の検出に成功したという、劇的な逸話だ。

 このプロジェクトは1994年の、アーム長が僅か40mの試験装置, LIGO40に遡る。
その後、2000年にワシントン州ハンフォードにアーム長 2km の LIGO-W2Kが完成し、2002年にはル イジアナ州、リヴィングストンと合わせてアメリカの南東部と北西部の2か所にアーム長 4km のレーザー干渉計が設置された。
 しかし重力波の検出は出来ず、さらに2005年から2009年にかけて Advanced LIGO として大改造が行われ、11.4億光年の範囲で起こるであろう重力波発生をほぼ1日に一件は検出できるまでに性能を向上したが、それでも検出は出来ず、再再度の大改造を経て、遂に重力波の検出を成し遂げたものだ。
      この間、ドイツとイギリスのGEO600、フランス・イタリア連合のVIRGO,オーストラリアのAIGO,そして日本のKAGRAと、世界各地の重力波検出装置がしのぎを削って来た中で、アメリカ・チームが一番乗りを遂げたわけだ。
 競争していた各国チームは、先を越されたことには悔しい思いをしたのには違いないが、しかし、アメリカの成功に心から安堵し、賛辞を贈ったのではないだろうか。
 ともあれ殆ど不可能ではないかと思われた重力波の検出が可能であると実証された事実が何よりも重要だ。
 これまで20年以上かけて改良に改良を重ね、おそらく各国の装置の精度はほぼ同じ水準になっている。
 誰が一番乗りかということは些細なことであり、アメリカの成功は他のチーム装置でも検出の可能性を意味し、今後の重力波天文学の発展が決定づけられた業績として位置づけられるからだ。
 
 2000-2015 LIGO の進化の推移  

今回の重力波検出で分かったこと
重力波波形のシミュレーシン  衝突・合体時の波形の分析 
NHK・サイエンス・ゼロの資料
 2016年2月11日の重力波検出の発表後に、2週間も経ずしてネットやTV番組に詳細な情報が溢れたのは嬉しい驚きであった。
 とりわけNHKのサイエンス・ゼロでの解説は見事なもので感嘆するのみ。
重力波の検出から僅か5か月で詳細な分析の結果、成功の発表に至った理由が良く分かった ;

  今回の重力波検出成功の快挙は単にアインシュタインの理論が証明されたという事実に留まらず、将来の天文学や科学技術の発展等、様々な分野での可能性を切り開いた歴史的な快挙といえる。

今回の重力波検出によって判明した様々な事実 ;
 
 1     重力波の発生原因である超新星爆発、連星中性子性の合体とブラック・ホールの合体の際の衝撃波形は事前のスーパーコンピュータによるシミュレーションで予め予測されており、波形から今回の重力波がブラック・ホール合体時の衝撃波によるものと判明した。
 2     さらに2つのブラックホールの質量も同様に事前に計算された5000余りの事例計算による、太陽質量の29倍と36倍の合体の波形と一致した。
  距離についても、波形の大きさ(エネルギー)から13億年の彼方で起こった事例と判明。
さらに上右図の波形の分析から、直前の0.2秒間に4回転して光速度の半分程度の速さで衝突し、合体したことが判明した。
 合体後0.02秒で回転が止まり、重力波の放出が止まった。
この重力波が2つのブラック・ホールの衝突・合体による衝撃波であると証明されたことで、ブラック・ホールの存在が初めて証明された。
 6     最初にルイジアナ州のリヴィングストンで観測された重力波は0.007秒後に北東に3000㎞離れたワシントン州のハンフォードで僅かに遅れたほぼ同じ波形で観測された。
 この時間差と角度から、重力波はほぼ真南、南極方向からやって来た。
 7   太陽の29倍と36倍の質量を持つブラック・ホールが連星系として存在するという事実は、これまで殆ど想定されてなかったが、今回の検出により、天体物理学の新たな課題となった。
 8     今回の重力波の検出が LIGO の大改造の僅か2日後の試験運転中に成された事実は、これが単なる偶然ではなく、この水準まで装置の精度を上げれば何時でも重力波の観測が可能であり、今後の重力波観測による天文学の飛躍的な発展を示唆するものだ。
 と、実に様々な事実が明らかになり、まさに科学史上稀なる快挙と言えるだろう。

次々と検出されるブラックホール合体による重力波
     


 2016年2月16日に発表された2015年9月14日の検出に続いて、同年の10月12日、さらに12月26日と短期間にブラックホール連星の合体による重力波が検出されていたことが判明した(日経サイエンス 2016 9月号)
 10月12日の検出はイタリア・フランス連合の VIRGO と連携した分析でLVTと名付けられ、事象の有意さが1.7〆(シグマ)と低く、重力波との確証は得られないが、その他のデータ分析の結果からは、やはり重力波である可能性が大きい。
 LIGOの国際共同研究グループは4ヵ月間の観測結果から、ブラックホール連星の合体が一辺1ギガパーセク(32億6000万光年)の立方体の宇宙領域あたり毎年 9~240回起きていると推定している。
 今秋 LIGOは感度を向上して再稼働、重力波検出の領域を 1.5~2倍に広げてより高い頻度での検出を目指している。
 さらにイタリアーフランス連合の VIRGOも近くLIGO並みに感度を向上させて観測に入り、日本のKAGURA も2018年から同様の性能で観測が開始される予定であり、重力波天文学による宇宙の観測が世界各地で本格的に始まることが確実になった。

2017年8月17日 中性子星連星合体による重力波の検出

 
二つのブラックホール合体による重力波の検出は2017年1月4日に4度目、そして8月14日に5度目の検出が発表され、こうなるともはやニュースではなくなった。。

うみへび座銀河団の銀河NGC4993での中性子星連星合体による重力波の検出
     合体時のシミュレーションCG
     
光学望遠鏡での観測   アメリカのLIGO(Hanford,Livingston)と
イタリア,PISAのVIRGO
で観測された検出波
合体時の物質分布  時空の歪 


 中性子連星合体時の推移イメージCG図
   
 二つの中性子星合体寸前  合体して中性子星かブラックホールの誕生  合体時に放出された物質と電磁波
 
爆発時に飛び散った中性子星のかけらの中で重元素が合成され その時に解放された膨大なエネルギーにより可視光や赤外線での観測映像の映像図

 が、2017年8月17日に1億3000万年光年彼方の、南半球に広がるうみへび座銀河団にある銀河NGC4993から来た重力波の検出は再び大きな注目を浴びた。
 この重力波は、二つの中性子星連星が合体して起きた重力波の初めての検出であり、しかもそれがアメリカの二つの検出装置LIGOに加えて、新たにフランス・イタリア連合の重力波検出装置ヴィルゴ(VIRGO)でも検出されたためだ。
 ヴィルゴは日本ではバーゴと呼ばれていますが、これはフランス語、イタリア語共にヴィルゴと発音され、おとめ座のこと。
 1990年代末の開発当初、5000万年彼方のおとめ座銀河団の範囲内で起こる重力波を観測出来る能力を目指したので、VIRGO と命名された。
 しかしながら、この観測範囲内で重力波発生の可能性はせいぜい200年に一度と考えられ、検出の可能性は限りなく低かったため、2011年から大改造にかかり、レーザーの出力、装置を外部振動から遮断するサスペンションの材質の変更、レーザー反射用ミラーの改良等々を重ね、検出範囲を1000倍にまで拡大されました。この10年足らずで技術の水準が飛躍的に進歩した。
 そして、2017年8月にLIGOと共同観測に入って2週間で、重力波の同時観測に成功したものだ。
 8月17日の重力波観測は下記の二つの大きな意味がある ;

 1. アメリカの他に異なる大陸プレート上での重力波観測の成功は検出の確実性と発生源の位置の精度を格段に高める。

 2. 二つの中性子性の合体はブラックホールの場合とは異なり、ガンマ線や可視光等、電磁波で観測が可能なので、合体後の事態の推移の詳細な観測が出来る。

 超新星爆発や中性子星合体の時、重力波と異なり、星の内部からの光は直ちに星から出られない。 すなわち重力波検出が先行し、その後で電磁波が地球に到達する。中性子星合体時の光は5日間ほど観測が可能なので、重力波到達と同時に光学望遠鏡で観測すれば、合体時に何が起こったかを早い時期から観測できる。
 今回の重力波観測と同時に、ハッブル宇宙望遠鏡やガンマ線観測衛星を含む世界各地の100近い望遠鏡による、X線、ガンマ線、紫外線、可視光、赤外線等のあらゆる波長による観測を開始したため、今後その分析の成果が続々と発表され始めている。
 とりわけ、中性子性の合体により、金やプラチナ等の重い元素が作られるとする予想が分光分析の結果、確認された。
 合体から3か月後経った現在、これまで原因不明だったガン線バーストが衛星で観測され、分光分析の結果、地球の質量の一万個分相当の金やプラチナ、ウラン、ランタノイド属の希元素等の重元素が放散された等々、既に様々な成果が報告され始めている。

 LIGOとVIRGOは、現在さらなる性能向上(検出感度を2倍から8倍に)を目指して改造中。
加えて、現在カミオカンデと同じ、旧神岡鉱山地下に設置され、現在整備運転中の日本のKAGRAが2018年に本格観測開始される。
 日本のKAGRAは地下200mの深さに設置されているため、地上の装置と比べると地面振動が100分の1と少なく、より信頼性の高い観測が可能となる。
 ユーラシア大陸の東端にある KAGRA の本格稼働が始まることで、重力波の観測と発生源の正確な位置の絞り込みが可能になり、今後の重力波天文学の一層の発展が期待される。
 それは重力波にとどまらず、ダークマター、超弦理論等々、天文学と物理学の広範な分野での発見をもたらすに違いない。
 鉱物の縁で、フランス・イタリア連合のVIRGOを率いるジャゾット氏が8年前の仙台での重力波検出の国際会議に出席した際に会ったのを機に重力波検出についてかなり詳しく調べたが、まさか実際に成し遂げられるとは到底考えられなかった。
 このプロジェクトはまさにミッション・インポシブルとしか言いようのない途方もなく困難な事業であった。
 LIGO だけでも133の研究機関と1000人を超える世界の研究者が携わっているプロジェクトであり、その他の世界のプロジェクトを合わせると少なくとも数千人の研究者が、殆ど生涯を懸けて取り組んでいる壮大なプロジェクトだ。
 一介のやじ馬に過ぎない僕にとっても、このニュースは人生での一大出来事として他人事とは思えない。

これで、死ぬまでに見たい、知りたい天文学と物理学の5つの課題の一つが叶えられた。

後の4つは ;

はやぶさー2の帰還を見届ける
寿命が尽きかけているオリオン座の主星、ベテルギウスの超新星爆発を見られるか ?
ダークマターの正体が何か ?
ダークエネルギーの正体は何か ?


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