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朝刊に加山又造の訃報が載っていた。
彼はわたしより老人であった。
指を出して彼の歳から、わたしの歳を引いてみる。
まだ引き算は出来る。年齢差も少しはある。
ヨシ、と呟く。

ちなみに、わたしは 1935年4月1日以来、今日で25993日目を迎えた。百まで生きても36500日余りだから、ずいぶん永い間この地球に滞在したことになる。
あてのない旅である。地球に来る前は何処にいたのか。地球の次には何処へ行くのか。
ハテ、と呟く。

血圧が高い。中性脂肪は通常人の2倍ある。だんだんおなかが膨れて来る。妊娠かなと心配になる。産婦人科に行くには勇気がいる。主治医の歯医者で相談したが、相手にしてくれない。
ヤブメ、と呟く。

入れ歯は不便である。歯医者に何時までも土木工事見たいなことをしないで、遺伝子操作で65歳になったら乳歯が生える研究をされたらどうですか、ノーベル賞ものですよとそそのかしているが、彼女は頑として聴かず、ドリルを回しつずける。
ヒーッ、と呟く。

65歳にして乳歯を欲しがるのは、他意があるわけではない。まして今更野心などあるわけがない。夜中に洗面所のコップの中で不気味に彼から見つめられるのはかなわない。わたしの1部であり、わたしではない無機物。遺伝子の乳歯に関わる記述のなかの2才という部分の次に「コロン65才」と書き加えればいいはずだが。
ナントカシテーッ、と呟く。

少々自慢しますが、小泉君やブッシュ君より、わたしは高齢である。彼らが息子のように思えてくる。頼りない。実に頼りない。特にブッシュ氏の演壇の前での演技は見るに耐えない。あれではアメリカ市民でも猿芝居に見える。新聞を見るたびに説教してやりたくなる。
シッカリシロ、と呟く。

葬式の予約 (詳細はこちらで) を薦めれれている。親切なことに割引して月賦で出来るそうである。心から感謝の気持ちを込めて、
アリガトウ、と呟く。

最後にわたしのプロフィルを1点付け加えた。些か自虐的であり、サービス過剰な気もしないではない。実際は腹がもう少し出て、尻がもう少したれて、足がもう少し短い。ヨンさまには比べるべくも無いが、いささか情けない姿態である。しかし、自画像を描くには便利がいい。レンブラントも晩年は自画像を数多く描いている。深いしわの額、こけた頬、たるんだ首、鶏の足のような手足、醜悪で気味が悪いが、絵のモチーフとしては面白い。
マケオシミーッ、と呟く。

わたしはこの顔と、この姿態を見せびらかして、わが町のセントラルパークを散歩する。散歩をしている淑女たちは振り返らないが、洒落たリボンをつけた犬たちは大抵振り返る。わたしは気にも留めない様子で颯爽と胸を張って散歩する。右足を出したとき、一緒に右手を出してはいけない。右手と左手は交互に出さなければならない。短い足を交互に出し、
イチニ、と呟く。

いつも黄色のニュービートルズの止まっている家の前を過ぎ、5番街のスタンドでニューヨークタイムスの早版を買い、青いバラが咲いたお宅の前を右に曲がって、ダコタハウスの近くでヨークシャーテリアを散歩に連れた老婦人に挨拶をし、小さなパン屋でバゲットを買い、いつものように鎖でつながれて悲しそうな顔をした黒いドーベルマンに口笛で励まし、自転車に乗った少年に笑顔で挨拶を返し、落葉松の林のざわめきを聴きながら、ときには白秋を口ずさみ



落葉松 (からまつ)    北原白秋
からまつの林を過ぎて、
からまつをしみじみと見る。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。
からまつの林を過ぎて
ゆゑ知らず歩みひそめつ
からまつはさびしかりけり
からまつとささやきにけり
からまつの林を出でて、
からまつの林に入りぬ。
からまつの林に入りて、
また細く道はつずけり。
からまつの林を出でて
浅間嶺にけぶり立つ見つ
浅間嶺にけぶり立つ見つ
からまつのまたそのうへに
からまつの林の奥も
わが通る道はありけり
霧雨のかかる道なり
山風のかよふ道なり
からまつの林の雨は
さびしけどいよよしずけし
かんこ鳥鳴けるのみなる
からまつのぬるるのみなる
からまつの林の道は
われのみか、ひともかよひぬ
ほそぼそと通ふ道なり
さびさびといそぐ道なり
世の中よ、あわれなりけり
常なれどうれしかりけり
山川に山がはの音
からまつにからまつのかぜ
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