「HANG UP THE PHONE」を語る
山犬
私は、先日、CHAGE&ASKAを小学生時代から結構聴いていたという知人から
「『HANG UP THE PHONE』っていう楽曲のオリジナルってどのアルバムに入ってるんですか?」
と訊ねられた。私も、ある程度は、どの楽曲がどのアルバムに入っているか知っているつもりだったし、「HANG UP THE PHONE」も知っているのだが、どういうわけか思い出せなかった。
そして、続けて言われた言葉に私は、衝撃を受けた。
「MTVのライブ盤で聴いて、すごく印象に残ってるんですけど、これが入っているオリジナルアルバムが分からないんですよ」
それは、まさに私と全く同じ感覚だったからである。
家に帰って探してみると、「HANG UP THE PHONE」が入っているのは、ミリオンセラーとなった大ヒットアルバム『GUYS』の5曲目としてだった。
『GUYS』の中では「GUYS」や「if」「CRIMSON」「今日は…こんなに元気です」「no no darlin’」「世界にMerry X’mas」といった個性の強い楽曲群の陰に隠れている感がある。
断っておくが「HANG UP THE PHONE」が名曲でなかったという意味では決してない。むしろ、それ以上に強い印象や美しい旋律を持つ楽曲が揃っていたと言った方がいいだろう。
単体で聴けば、名曲ということが明らかになるが、名曲揃いの『GUYS』というアルバムの中では、少なくとも私にとって、強い光を放つ楽曲と感じ得なかったのも事実である。
だから、『GUYS』の発売当時、この楽曲をお気に入りとして挙げている人々の気持ちを私は分かっておらず、それがどんな楽曲だったかさえ脳裏からすっかり消えてしまっていたのだ。
そのため、私は、CHAGE&ASKAが『MTV UNPLUGGED LIVE』で「HANG UP THE PHONE」を披露したとき、この楽曲は新曲なのだと勘違いしてしまった。既に発表されていた楽曲だったのを知ったのは、『MTV UNPLUGGED LIVE』のCDを買ってかなりたってからだった。『GUYS』は既に持っていたというのに、である。
まず、アレンジがまるで別の楽曲のように異なっていた。アコースティックギターを前面に押し出し、それでありながらロックを感じさせる歌声。随所に見せる迫力ある太い声とASKAが間奏で出す7色の声が楽曲に強い光を与えていた。
『GUYS』バージョンがトランペットやサックス、トロンボーンの音色とCHAGE&ASKAの歌声の掛け合いであったとするならば、『MTV』バージョンは、CHAGE&ASKAの声の表現力を一層輝かせるためのアコースティックギターによる補助といったところである。
そして、『MTV』でCHAGE&ASKAは、最後に「HANG UP THE PHONEU」というスローバージョンを披露する。つまり、この楽曲がライブの最初と最後という重要な位置に存在しているわけだが、ライブを通して聴くと、まるでCHAGE&ASKAがライブを通して我々にずっと電話を掛けていたかのような錯覚にとらわれる。最後は、スローバージョンになっている構成自体が楽曲の中の疲れ果ててしまった呼び出し音とオーバーラップするのである。
この楽曲の主人公の男性は、疲れて帰宅した夜中の2時に、女性へ電話をかける。しかし、呼び出し音は、いつまでも鳴り響くだけで、一向に電話に出る気配はない。彼女は、遊びに行ったのか、留守なのである。男性は、電話を切らずにずっとずっと呼び出し続ける。そうすれば、たとえ深い眠りに就いていたとしても、いつかは起きてくれるはずなのだ。
しかし、彼女は、電話に出ない。あきらめて眠りに就こうとした男性の脳裏には、彼女に対する確信に近い疑惑しか残らなくなっていて、翌日に彼女がするであろう言い訳まで想像できてしまうのだった。
男性の心は、呼び出し音の長さに比例して離れて行き、もっと早く別れておけばよかったとさえ思ってしまうのだ。それでも、なかなか電話を切れない未練の残る感情が2人の激しくやるせない歌声で見えてくる。
アンプラグド・ライブで「HANG UP THE PHONE」を聴いていると、まるでライブがこの楽曲を世に送り出すために存在したかのような錯覚さえ持たせてくるのである。
つまり、私は、アンプラグド・ライブによって、この楽曲が極めてライブで想像以上の力を持つ楽曲であったことに気づいてしまったのである。
この楽曲には25周年のライブ『two−five』でまたしても衝撃を受けることになる。私は、『MTV UNPLUGGED LIVE』バージョンにひかれていたのだが、CHAGE&ASKAは、『two−five』でオリジナルに近いアレンジで披露し、それがまた心に響くアレンジになっているのである。ということは、『GUYS』バージョンであっても、ライブで披露すれば、この楽曲は、アルバムの中の1曲という枠を遥かに超える力を持って、我々に迫ってくる。
そうであるならば、「HANG UP THE PHONE」は、常にライブを活動の基本線としてきたCHAGE&ASKAを象徴する楽曲と言うこともできるのである。
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