(在職中の社内誌文)1990/8

テクニカルサービスを漫才師に学ぶ
ハイテク商品事業では研究所のメンバーがしばしば客先訪問にかり出される。  しかし、同行する営業マンは「研究所の人間は客先とよくトラブルを起こす」と苦情を言うし、 逆に研究マンは「営業マンは客先の無理難題をすぐに引き受けてしまう」と文句を言う。
たしかに研究所の人間は「お客様は神様である」という格言を忘れて自分の論理だけを主張して客を怒らせたり、逆に客の剣幕に萎縮して言うべきことも言えず馬鹿にされたりすることがよくある。

私はこういう体験から「テクニカルサービスは漫才師に学べ」と学んだ。  漫才はツッコミ役とボケ役 二人の絶妙なコンビで成り立っている。  営業マンと研究マンはこのコンビで客先に訪問するといい。  「物理的特性と成形加工性を両立させるのは理論的に不可能ですよ」
「そんなこといわんと、もうちょいなんとかならんか」 とか、 
「こんなみてくれの悪いもん商品になるかい」
「そーはいってもこの耐熱性は魅力的と思わんか」
などと身内で問答していれば客も怒ることなく、そのうちに「もう一度テストしてみるか」 といってくれる。  研究者はあうんの呼吸で問答できる営業マンを友人に持つと助かる。
互いに刺激し合い、営業を動かせる研究者あるいは研究所を動かせる営業マンと なりたいものだ。

世界平和を5分で話す
研究報告会などで持ち時間をはるかにオーバーして話す人をしばしばみかける。  自分の持ち時間はオーバーしても他人の長い話にはイラつくものだ。  こういう人に注意すると「私の話はとてもそんな短い時間内では話せませんよ」 などと言う。選挙が近づいた時、TV選挙演説を見ると分かるが持ち時間は厳密に僅か4分。  この4分の時間内に政治家はあれだけの大ボラを吹く。 たいしたものだ。  私はこの選挙演説から学んだ。世界平和という大きな課題についても、1時間で話したり、あるいは5分で話せるものだ。 制限時間内に自分の考えを話せない
人は物事の重要度の判断ができない人だと思う。 言い換えるなら、
自分の考えを相手に伝えるには、制限時間が短くなるほど断定的、極論的に話す必要があることも心得なければならない。  例えば、世界平和について一言といわれたら、「・・・国をたたきつぶせ」と いった具合いに。たまたまトイレで隣に立った社長から「今何しているの?」 と聞かれた時、自分が今かかえている最重要課題とそれに対する考えを社長が 用足しを終える1分以内に話せなければ機会を失うのだ。

3権分立と3機能分離
フランスのモンテスキューは「民主主義のためには3権分立が必要」と説いた。  また別のフランスの思想家は「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対に腐敗する。」 と名言をはいた。この格言は研究開発をマネージメントする上でも大いに参考になる。  研究開発における立法、行政、司法 の3権はそれぞれ、テーマ設定、課題の遂行、 成果の評価 に相当する。 この3権を研究開発という同一組織に集中させることにより、 研究スピードは向上するが独善的になり、他の組織から批判されることになる。 しからば、 研究所は3権のうち課題遂行のみの権限をもたせ、テーマ設定および成果の評価を他の組織で 実施したらどうなるか? きわめて民主的な運営になるであろうがその結果は 多分、祭りの後のクズ紙拾いのような研究になるであろう。
独創的で新規性のある成果を期待するにはある程度の独善と権力の集中はは必要と思われる。
ここに研究開発マネージメントの難しさと面白さがある。 しかし、権力の集中と混同は別問題である。 テーマ設定、課題遂行、および成果評価の3機能は絶えず併行して同一の重要度を持って管理しなければならない。
さる大会社の社長が”どの事業部長が変わってもあまり変化がなかったが、研究開発の責任者の場合だけは違った”と言ったのはこの真理を表していると思う。
90年8月


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