敵性国家を非敵性国家と誤判断すれば国は亡びる


第一節 危機意識を喪失している西側自由諸国 

「核兵器の存在しない世界」という誤った考え方

 オバマ大統領は「核兵器の存在しない世界」を掲げ、その第一歩として二〇〇九年七月六日、メドベージェフ・ロシア大統領との首脳会談で、米露の新戦略核 兵器削除条約の「基本的枠組み」に関して合意した。その内容は、両国は配備戦略核弾頭数の上限を、これまでの一七〇〇個〜二二〇〇個から、一五〇〇個〜一 六七五個に削減する。その運搬手段数の上限を、これまでの一六〇〇基から、五〇〇基〜一一〇〇基に削減する。両国はミサイル防御(MD)に関して、イラン や北朝鮮の核・ミサイル開発を念頭に、世界規模の弾道ミサイル開発の脅威について共同で分析・研究する。両国はこの新核軍縮条約の年内締結に向けて交渉を 加速させる、等々というものである。

 この直後に、イタリアで開かれたG8サミットの首脳宣言(七月八日)でも、米露の新核軍縮条約の「基本枠組み合意」を歓迎し、「核兵器のない世界に向け た条約作りに入ることを約束した」と盛り込まれたのであった。これが西側自由世界の政府と国民の今日の意識である。西側自由世界のリーダーたちは、ロシア 政府は条約が締結されれば覆行すると考えてしまっている。日本政府とマスメディアは歓迎一色である。しかしもし締結されれば、条約に拘束されて戦略核戦力 を大きく削減させられるのは米国だけである。ロシアは削減のポーズは見せるが、削減することはない。KGBの後身であるFSB(ロシア連邦保安庁)が、国 家テロルで国民を支配する、自由な報道も言論の自由もないロシアでは、政府は虚偽声明をどれだけでも発表することができる。

 この新軍縮条約が締結されれば、米国の拡大核抑止力(核の傘)の大幅な低下となるから、米国の同盟国(日本や欧州など)や友好国の安全保障は深刻に毀損 されることになる。それはまた米国が同盟国と友好国を喪失する危機に直面することであるから、米国自身の安全保障の深刻な毀損でもある。西側は世界情勢認 識を誤り、危機意識を喪失してしまい、自らの首を絞める行為を正しいことだと妄信して行いつつある。西側自由諸国は、ロシアおよび西側内部のロシアの工作 員(ジャーナリスト、学者、評論家、政治家、官僚、事業家、活動家)の情報思想戦=冷戦に完全に敗北してしまっているのである。

 現在もロシアが、アメリカをはるかに凌駕する世界最大の核兵器保有国である。新聞等に発表される、アメリカを下回るロシアの核兵器量を信じてはならな い。

西側の世界情勢認識

 西側は大体次のように考えてしまっている。「ソ連は一九九一年に崩壊・消滅して、民主主義と市場経済を掲げる新生ロシア共和国連邦に革命的に転換され た。第三次世界大戦はもはやありえないことになった。中国はロシアに先がけて市場経済をめざしたし、今はなお共産党が独裁支配しているものの、中国の指導 者たちも早晩、政治面の自由化、すなわち民主主義化が偉大な国家への唯一の道であることに気付くはずである。我々はそれを推奨するし、また中国をして世界 経済と世界政治の責任ある一翼を担うようにさせていくことを通して、積極的に働きかけて民主化を促がしていくべきだ。西側自由世界にとっての二一世紀の最 大の脅威は、アルカーイダ等の国際テロ組織および無法者国家によるテロ戦争である。ロシアと中国もテロとの戦いで、我々と同じ側に立っている。我々と協力 し合っている」。

 この世界情勢分析・認識は、前ブッシュ政権が二〇〇二年九月に発表したアメリカの「新国家安全保障戦略」等にうたわれているものである。ソ連は変わった し、中国も変わるであろうというわけである。ソ連=ロシアと、中国の対外政策の大原則は、敵=西側自由諸国を騙すことである。西側自由諸国は、まさにロシ アと中国の支配者が望んでいる対露観や対中観を持ち、そのための政策を採るようになってしまっている。両国の支配者はニンマリしていることだろう。北朝鮮 に関する「六カ国協議」の開催も、中国をその議長国に就けたのも、西側が情報思想戦に完敗している結果である。

 西側自由諸国を侵略征服することを国家目標にしている敵性国家(ロシア、中国)の正体を、我々が見抜くことができず、彼らの演出と虚言に騙されて、非敵 性国家だとか、テロに対して共に戦っている味方だと誤判断することが続いていくならば、近い将来、極めて悲惨な事態を招来することになるのは確実である。 国の滅亡にもなりうるのだ。私はそのことを心より危惧している。この状態から脱け出すためには、現実を正しく分析するしかない。敵国の情報思想戦に打ち 勝っていくしかない。

第二節 ソ連偽装倒壊と新生ロシア誕生の大謀略

 西側自由世界が「ソ連と共産主義は崩壊した。冷戦は終結した。民主主義と市場経済が唯一の正統な制度であることが実証された」と信じ込んだのは、ゴルバ チョフとエリツィンらソ連共産党の最高幹部が行った、東欧解放(一九八九年)を含むソ連の民主化の演出と、ソ連の偽装倒壊と新生ロシア共和国の誕生の演出 が、想像を絶する大規模なスケールの美事な演出であって、超高等な謀略であるからである。また西側が、ソ連の共産主義を誤って「革命イデオロギー」ととら えてしまっていたためでもある。

 西側は批判をしつつも、ソ連が対外的に宣伝していた言葉どおりに、共産主義を「革命イデオロギー」だと誤って認識してきた。その場合には、ソ連人のリー ダーたちが革命幻想から醒めれば、誤りに気づけば、ソ連において根本的な変革が起こるという認識になる。だからゴルバチョフが「ソ連の民主化」を演出した 時、西側は信じ込んでしまった。そして「反ソ連、反共産主義。民主主義と市場経済のロシア」を掲げたエリツィン派が、大きな勢力として登場してきた時、西 側はソ連崩壊と新生ロシア誕生もすんなりと信じてしまったのである。

KGB(FSB)がそのままロシアを支配している

 新生ロシアが本当にソ連体制を自己否定したものだと言うのであれば、ロシアはソ連の秘密警察KGB(ソ連国家保安委員会)を徹底的に解体するはずであ る。東欧諸国は共産主義時代の秘密警察を解体した。ソ連共産党の独裁支配は、党書記長ゴルバチョフの指揮下にあるKGBによる、ソ連共産党、あらゆる国家 組織、軍、国民の監視と、国家テロルの恐怖支配によって、保証されていたからである。もちろんKGB要員はソ連共産党員のエリートであった。ところがゴル バチョフもロシア大統領エリツィンも、紙の上だけのKGBの分割や名称の変更という目くらましをしただけだった。「新生ロシア共和国」はKGBをそのまま そっくり継承したのである。FSB(ロシア連邦保安庁)やSVR(ロシア対外諜報庁)等である。すなわち、ロシアはソ連体制を自己否定した国家ではない。 ソ連の本質たる「憲法の支配が存在しない、国家テロルの恐怖支配による全体主義と侵略主義」を継承した国家だということになる。

 この点を更に具体的に見てみよう。まず、共産主義体制からの解放を勝ち取った東欧諸国では、当然のことながら反体制派が新国家の指導層に就いた。なぜな らば、共産主義体制とは革命の社会体制ではなく、人間を奴隷支配・収奪する最悪の支配体制であるから、共産主義体制からの解放をめざした人々は、反体制派 であったからだ。しかしロシアでは、ソ連時代の反体制派が新指導層を形成したのではない。独裁支配者のソ連共産党のエリートたち(KGBはソ連共産党のエ リートである)が、そのままロシアの支配者になっているのである。この一事で疑問を抱かなくてはならないのである。

 ロシア共和国大統領のエリツィンは、ソ連時代はモスクワ党委員会第一書記であり、ソ連共産党政治局員候補であった。エリツィンはロシアSVR(ロシア対 外諜報庁)の初代長官に、ソ連KGB第一総局(海外諜報局)長官プリマコフを抜擢した。プリマコフは次いで外相になり、首相になった。エリツィンの人事で ある。ソ連内務省幹部のステパシンは、エリツィンによって一九九四年四月にFSB長官に就き、次いで首相になった。プーチンもKGB第一総局出身である。 エリツィンによって九八年七月にFSB長官に抜擢され、九九年八月に首相に昇格し、十二月に首相兼大統領代行に指名されて、二〇〇〇年三月の“選挙”で大 統領になったのである。ソ連時代に国民をテロルで支配してきたソ連共産党のエリートたるKGB要員らが、ロシアの支配者になっている。というよりも、 KGBが名前を変えただけで、そのままロシアを監視・支配することになったのである。「新生民主主義ロシア」が謀略であるのは明白だ。

 ソ連共産党は「理想社会の実現」を目指す「革命組織」ではない。良い人々の集団ではない。何十年も人間を徹底的に奴隷支配してきた「反革命組織」であ る。彼らが対外的に「革命」をプロパガンダしてきたのは、西側諸国内の左翼を騙し幻想を与えて、ソ連の尖兵として西側各国内で、反政府闘争や反国家闘争あ るいは反核運動、軍縮運動、反米闘争等を展開させるためであるにすぎない。ソ連の利益のためである。ソ連共産党のエリート中のエリートであるゴルバチョフ やエリツィンらが、「ソ連の民主化」「一党独裁の放棄、複数政党制」とか、「反ソ連、民主ロシア」などを、本心から唱えることは絶対にありえないのだ。そ れは西側自由諸国を騙すための超高等な謀略なのである。だから彼らは、KGBをそのまま使ってロシア国家のバックボーンを固めた上で、西側を欺くために一 定の民主化の演出をしていった。「独立テレビ」などメディアの活動を一定程度容認していったのである。

憲法の支配と自由を求める人々が次々と殺されているロシア

 しかし限定付きで容認した自由も、今ではもはや遠い過去のことになってしまっている。FSBは一九九九年八月三一日から九月二二日にかけて、モスクワな どで高層アパートを次々と五件爆破し、三〇〇人以上の住民を殺した(九月二二日の爆破は未遂に終った)。そして政府・FSBはそれらをチェチェン人テロリ ストによる卑劣なテロだと嘘プロパガンダし、国民の反チェチェン人感情を煽動していったのである。ロシアが民主主義国家であれば、このようなことはしない し、出来ない。エリツィンと新首相プーチンは九月二四日、「世論」の熱狂の中で第二次チェチェン侵略戦争を開始していった。モスクワ警察は九月二二日の未 遂事件がチェチェン人グループによる犯行ではなく、FSBの仕業であることをつかんでいたが、FSBが「ロシア国民のテロに対する警戒心を検証するために 演習を行ったまでだ」と強弁すると、それで片付いてしまったのである(リトビネンコ氏著『ロシア闇の戦争』参照。二〇〇七年六月刊。リトビネンコ氏は亡命 先のロンドンで、FSBによって二〇〇六年十一月二三日暗殺された)。

 ロシア政府・FSBが、自作自演の爆弾テロを起こして第二次チェチェン戦争を決行していった目的は、一定程度容認してきた自由も圧殺して、FSB= KGBが超法規的暴力の威力で自由主義者、民主主義者を支配していく、ソ連時代に近似した全体主義の政治体制をより一層復活させていくためであった。その ために戦争状態が必要とされたわけである。プーチンはロシアの「非常事態」を利用して、政府に批判的なメディア(テレビ、新聞、雑誌)を弾圧していった。 またロシア軍、内務省軍、特殊部隊が実戦経験を積む上でも、チェチェン戦争は必要とされたのである。国民大衆は愚かにもプーチンを支持していったのであ る。

 二〇〇〇年五月七日の大統領就任式で、プーチンは「憲法を守り、国民の権利と自由を守り、国家の主権、独立、安全、一体性を守り、忠実に国民に奉仕する ことを誓う」と宣誓文を読み上げた。各国大使も招かれていた。事実に反することも平然と述べることができるのが、ロシアのエリートたちである。直後の五月 十一日、プーチンはFSBを使って「独立テレビ」など多くのマスメディアを所有する「メディアモスト」およびその傘下の企業の家宅捜索を強行した。1ヶ月 後、会長のグシンスキーは逮捕されて、保釈後、海外へ逃げた。「独立テレビ」は政府系テレビの一つにされてしまったのである。プーチンは他のテレビも、次 には新聞や雑誌等も、次々と弾圧して、翼賛メディア化していった。

 ロシアでは、米英のような「法の支配」はもちろん存在しないし、「憲法の支配」すら存在していない。ロシア憲法は西側を欺くための見せ物でしかないので ある。ロシアでは、憲法の支配と自由を求めるジャーナリストや議員や人権派弁護士や活動家たちが、FSBによって次々と暗殺されている。しかし自由を求め る彼らは、国民の中の圧倒的な少数派であり、圧倒的多数派の国民大衆は、抗議の声を挙げることはなく、不服従することもなく、逆にプーチン体制を支持して いったのである。FSBに二〇〇六年十月七日に暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤ記者は『ロシアン・ダイアリー』(三四頁。二〇〇七年六月刊)で、そう 指摘している。

 「憲法の支配による国民の権利と自由の保障」が無い国家(ソ連)、国家テロルによる恐怖支配が貫かれている国家(ソ連)で生まれ育った国民は、このよう になるしかないだろう。全体主義体制とは、国民大衆が支えている体制でもあるのだ。だからこそ、ゴルバチョフやエリツィンらの「演出」も可能になったのだ し、プーチンの虚言も可能になっているのである。

第三節 ソ連=ロシアの支配者が大謀略を行った理由は何か

一九八〇年代も九〇年代も、ソ連=ロシアは核兵器の量では米国・NATOをはるかに凌駕していた。通常兵器でもしかりである。ではなぜソ連=ロシアの支配 者は、東欧解放を含むソ連の民主化やソ連崩壊と民主ロシアの誕生という大謀略を行ったのか。結論を先に述べれば、米国レーガン政権が一九八三年十一月から 西欧に大量に配備していった中距離核戦力(INF)が、米国らはそのことを認識できていなかったが、客観的にソ連を完全に封じ込めてしまったからであっ た。ソ連から見ると、国家存亡の危機に直面することになったためであった。

 それを述べる前に、言っておきたいことをまず書こう。米国は一九七二年五月、キッシンジャーによって反国家的な誤った協定をソ連と結んだ。「戦略核兵器 制限協定」だ。ICBMとSLBMの基数を規制する協定である。米国は当時、戦略爆撃機で優位にあったし、MIRV弾頭(多弾頭)を開発していて弾頭数で 優位にあった。キッシンジャーは「対等である時こそ相互抑止が働く」という自らの誤った理論に基づいて、米国のみ六〇年代末のレベルにICBMとSLBM の基数を凍結し、ソ連には弾頭数で対等になるまで、ICBMを九一基、SLBMを二四〇基も増産配備を認めたのだった。米国のICBMとSLBMの合計は 一七一〇基、ソ連は二三五八基となった。しかしソ連もすぐにMIRV化に成功したから、七〇年代半ば以降は、ソ連の方が戦略核弾頭数で米国より優位に立つ ようになったのである。この核優位を背景にして、ソ連は七〇年代半ばからキューバ兵を使って、アンゴラ、モザンビーク、エチオピアへ侵攻して共産政権を樹 立した。北ベトナムには南ベトナムへ侵攻させて併呑させていったのである。

 ソ連は一九七七年からINFのSS−20弾道ミサイルとバックファイアー爆撃機の、ヨーロッパおよび東アジアへの配備を開始していき、中距離核戦力にお いても更に一層優位に立った。ソ連はこれらを背景に七〇年代末には直接アフガニスタンへ侵攻したのである。

「欧州戦域限定核戦争」を可能にした米国のINF西欧配備とソ連の国家存亡の危機

 西欧のNATO諸国の強い要請を受けて、レーガン大統領はソ連のSS−20やバックファイアーとバランスさせるために、一九八三年十一月からINFの地 上発射核巡行ミサイル・トマホークを西独、英、伊、ベルギー、オランダに配備していったのである。西独には地上発射弾道ミサイルのパーシング2も配備して いった。配備予定最終年は八八年であり、その時点でパーシング2が一〇八基、トマホークが四六四基になる予定であった。これだけ大量に配備しても、SS− 20の弾頭数には及ばないのであった。ヨーロッパ部のSS−20は八三年九月時点で三六〇基であったが、一基三発の多弾頭であるため弾頭数は一〇八〇個で あり、米国のINFは八八年でも五七二個になるにとどまるからだ。

 量的にはソ連の核兵器がはるかに優位であったにもかかわらず、ソ連の支配者が国家存亡の危機だと認識し恐怖したのは、地理の非対称(ソ連の不利)がある からである。

 もしソ連が西欧へ侵攻して、欧州核戦争(通常兵器も使用される)になったとすれば、ソ連が米軍のINF部隊を先制攻撃しようとしても、パーシング2もト マホークも車移動式であるため生き残るから、この五七二基のINFによって、ソ連ヨーロッパ部の軍事施設、指揮命令機構などの軍事目標は壊滅的に破壊され ることになる。SS−20も車移動式であるから、西欧の軍事施設を含む軍事目標も壊滅的に破壊されることになる。しかし米国本国は無傷のまま残っているの だ。従って米国が第二段階の米ソ全面戦争を挑めば、戦う前からソ連の敗北は決ってしまうのである。だからソ連はたとえ量的に西側を凌駕していても、西欧を 侵攻することはできなくなるのである。いや、完全に封じ込められてしまうのである。そして国家存亡の危機にもつながっていきうるのである。

 これがソ連指導部が、米軍核部隊の西欧への前方展開に恐怖した理由である。米ソ(ロ)には地理の非対称があるのである。ソ連は米国政府に対して、「米国 がもし欧州の戦争に参戦するならば直ちに米ソ全面核戦争となり、すぐにICBMを米国本土に撃ち込むぞ!」と恫喝することはできても、実行することはでき ない。なぜならもし米国に核を撃ち込めば、米国から反撃の核が飛来して、ソ連の国家滅亡に至ってしまうからだ。もちろん米国も滅亡する。しかし自分自身が 滅んだのではなんにもならない。ソ連は米国を直接侵略することは考えていない。西欧や東アジアを侵略し、自国領土を拡大したいのである。従ってもし欧州核 戦争になった場合は、ソ連は米国本土へは核を撃てず、欧州に戦域を限定した核戦争を戦っていくしかないのである。これを「欧州戦域限定核戦争」と言う。米 国は無傷で残ることになる。ソ連の敗北は決ってしまう。だからソ連は封じ込められてしまうのである(中川八洋氏の理論である)。

 もし欧州戦域限定核戦争が戦われたとすれば、西欧に前方展開した米核部隊がソ連の核によって攻撃されるから、米国政府も国民も、仮にソ連から本国が核攻 撃されようとも、ソ連との核戦争を決意する。従ってソ連の敗北・滅亡は戦う前から決定しまう。このように西欧に配備される米核部隊は、米国と西欧を分かち がたく結合させることになるのである。これを「カップリング効果」という。米国は西欧を見捨てないということだ。

 レーガン大統領は「悪の帝国を打倒する」と言った。ソ連指導部にとっては、心底から恐怖する言葉であった。レーガン大統領にはその意思ははじめから無 かったのだが、もしも米国が西欧配備のINFを使い、またNATO軍と共に、悪の帝国ソ連を打倒して、東欧諸国やバルト三国またソ連国民の解放を目的とす る解放戦争(欧州戦域限定核戦争)を発動するとすれば、前述したとおり、ソ連は確実に戦わずして降状を余儀なくされることになるのだ。

 だからこそゴルバチョフらは「大謀略」を考え、実行していくことになったのである。しかし米国もNATO諸国も、自分たちが「欧州戦域限定核戦争態勢」 を形成しつつあること、ソ連を完全に封じ込めつつあることを全く認識できなかったのである。そのことをゴルバチョフらは見抜いていた。ゴルバチョフらは米 国政府らにこのことを気づかせずに、米国の西欧INFを廃絶させるためにはどうすればよいのかを考えていった。ソ連が民主化し、さらにソ連が崩壊して民主 ロシアに革命的に転換したことにすればよい。そのためには「大退却」をして西側を信用させなくてはならない。

ゴルバチョフが演出した「東欧解放」と「ソ連八月政変」

 ゴルバチョフは一九八六年から「ペレストロイカ」を演出していった。八八年五月からアフガニスタンからの撤兵を行っていった。「ソ連の方がはるかに多く の核兵器を廃棄する」とプロパガンダして、八七年十二月には米ソINF全廃条約(地上配備のINFである)を締結した。八八年六月発効。十三年間が検証期 間である。この条約は無期限条約である。しかしゴルバチョフはバックファイアー爆撃機をウラル山脈以東へ移すことを条件に、INFから除外することを勝ち 取っている(有事となればすぐにヨーロッパ部へ移動できる)。ゴルバチョフは八九年には東欧解放を容認した。彼は植民地の東欧諸国を解放してソ連軍を撤兵 させることによって、西側世界を完全に騙していったのである。西側は「ソ連は変わった。民主的になった」と固く信じてしまった。東欧解放という「大退却」 をしなくてはならない程に、米国のINFの西欧配備はソ連を追い詰めていたのである。

 東欧革命について一言することがある。それはゴルバチョフが東欧各国共産党に、「民衆の反共産党デモ、民主化デモを弾圧してはならない!」と秘密命令を 出していたからこそ、「東欧の民衆革命」は成功したのだということである。それがなければ瞬時に弾圧されてしまったのである。ゴルバチョフはこれによっ て、西側に「民衆の反共産党革命の巨大な力(虚構)」を植え込んでいった。後日にその誤った認識を利用して、「ソ連の八月政変」を演出するためであった。  

 ゴルバチョフは九〇年三月、「ソ連共産党の一党独裁の放棄。複数政党制導入」を決定して、「ソ連の民主化」を更に演出していった。ゴルバチョフは同年六 月に、エリツィンに「ロシア共和国の主権宣言」を行わせていった。七月にはエリツィンにソ連共産党からの脱退を宣言させていった。西側はこの時点で、ゴル バチョフよりもエリツィンにこそ期待をかけるようになっていった。西側はゴルバチョフが演出していることを認識できなかった。ゴルバチョフは九一年六月に は、エリツィンに「反共産主義・反ソ連。民主主義と市場経済のロシア共和国」を掲げてロシア共和国の大統領選挙を行なわせて、勝利させていったのである。

 ゴルバチョフは八月十九日に、「ソ連共産党最高幹部保守派八人組」(KGB議長、国防相、内務相、首相、副大統領、最高会議議長、農民同盟総裁、企業・ 建設・運輸・通信協会会長)に、ソ連の改革派ゴルバチョフ打倒の軍事クーデターを演技させていった。このクーデター軍は、反クーデターに起ち上がったエリ ツィンの下に結集した三万人の非武装のモスクワ市民の包囲によって、内部分裂して八月二一日に降状することになるのであった。死者はわずか三名であった。 こんな茶番の「ソ連八月政変」でも、「東欧革命」の「民衆革命の巨大な力」を見ていた西側は簡単に信じ込んでいったのである。西側はソ連の体制とは、国民 六六〇〇万人を虐殺した血も涙もない体制であることが解っていなかった。

 ゴルバチョフは八月二三日に、エリツィンに「ソ連共産党の活動を停止させる大統令」を布告させ、翌日、自らもエリツィンに強要されたという形で、ソ連共 産党の解散を命じ、自身もソ連共産党書記長の職を辞していったのであった。ゴルバチョフは同年十二月九日、エリツィンをしてソ連消滅を宣言させた。自身も 二五日にソ連大統領職を辞した。クレムリンのソ連国旗が降され、ロシア国旗が翻えたのであった。ソ連の消滅、新生ロシアの誕生である。

 「東欧解放」や「八月政変」を含むソ連=ロシアの大謀略については、「日本と自由世界の安全保障研究会(大森勝久)」のホームページに掲載してある私の 文「ソ連=新生ロシアの大謀略」(一九九九年八月三一日記)他も参照していただきたい。

 ゴルバチョフが狙ったように、ソ連=ロシアの支配者たちは、この大謀略によって国家滅亡の危機から脱したのであった。それのみならずこの大謀略によっ て、「我々は冷戦に勝利したのだ」との油断と驕慢を西側に作り出すことによって、ロシアの再大侵略のための有利な戦略環境作りも着々と進めてきたのであ る。

第四節 再大侵略を狙うロシア−ヨーロッパ全域と東アジア等の占領を狙う

 ロシアは侵略と退却と再侵略を繰り返して、領土を拡大してきた歴史を持つ国である。ロシアは東欧諸国やバルト三国などを解放するなどして大退却したが、 それは再大侵略をするためである。占領地を解放して軍隊を撤退させたからといって、それは敗北ではない。退却は敗北ではない。状況を有利にさせれば、再び 侵攻するからである。既に述べたようにロシアは、西側に強制されてではなく、「ソ連の民主化(外交と内政)」を演出して自ら進んで「東欧解放」などを行っ たのであるから、必ず再大侵略して、かつての占領地・領土を奪還するのみならず、西欧全域をも占領することを狙っているのである。なぜならば西欧を残した のでは、再び米国がINFを西欧に配備して、ロシアがまた封じ込められ、国家存亡の淵に追いやられることにもなりうるからだ。
 同じ理由によって、ロシアは「東アジア戦域限定核戦争」を阻止するために、日本も侵略占領することを狙っている。

外交戦に敗北して一方的に大核軍縮している米国

 INF全廃条約(運搬手段の解体)によって、米国が西欧に配備したパーシン2もトマホーク(GLCM)も全て解体されてしまった。その生産工場ももはや ない。だから米国は危機になっても急増産することができない。しかしロシアはINFから取りはずした核弾頭を保管しているし、SS−20等の生産工場も維 持している。検証期間の十三年は二〇〇一年五月で終わったから、ロシアは秘密裡にSS−20等を生産していくことが可能だ。

 米国はINF全廃条約が発効した一九八八年以降は、新しい核弾頭の設計をしていない。だから設計者も数十人に縮小してしまった。そもそも米国では、核弾 頭製造工場が閉鎖されてしまっている。従って従来の核弾頭も、急増産しなければならなくなっても、それができない。技術も錆びつき失われていく。一方のロ シアは新核弾頭の設計も行っているし、核弾頭の心臓部のピットを年間数百レベルで生産し続けている。

 米国は「冷戦終結」(一九八九年十二月にブッシュ父大統領とゴルバチョフが共同声明で発表した)後、新型ICBMは開発していない。しかしロシアは新型 ICBM(SS−27。トーポリM)を一九九七年から配備を開始し、既に数十基も配備した。ロシアが流した「経済破綻」は、真っ赤な嘘だったし、「経済的 負担が大きく、多くの核兵器を維持できない」も、真っ赤な嘘プロパガンダである。

 START1(第一次戦略兵器削減条約)は、戦略核兵器の保有弾頭数の上限を六〇〇〇個、運搬手段の上限を一六〇〇基としている。二〇〇九年十二月で失 効する。ところが米国は既に核弾頭数を五六〇〇個、運搬手段一二〇〇基に削減してしまっている。読売新聞(七月七日)には、ロシアのそれは三九〇〇個、八 一四基(内、ICBMは四六九基)となっていたが、全くの虚偽数字である。これは米国務省発表の資料であるが、米政府は騙されている。ロシアはICBMの 弾頭数だけでも一万個近くを保有している。二〇〇二年のロシアのICBMは七三五基、配備弾頭数三一五九個であるが、七三五基は発射筒の数であり、ロシア の戦略理論では予備ミサイルは原則二倍というから、実際のICBMのミサイル数と弾頭数はそれぞれ三倍の二二〇五基と九四七七個となるのである(中川八 洋氏)。

 START2(第二次)は重ICBMの全廃、MIRV・ICBM(多弾頭ICBM)の全廃をうたった。しかしこれは米国上院が批准しなかったから発効し なかった条約である。それなのに米国政府は重ICBMを全廃してしまったし、MIRV・ICBMは単弾頭ICBMにしてしまったのである。ロシアは自らの 実力を何分の一かに弱く見せようと演出しているが、米国政府は油断し驕慢となって、ロシアの情報心理戦に敗北してしまっているのである。米国だけでなく、 西側全体がである。ロシアは外交戦(敵を騙すこと)を戦争の一形態と位置づけている。

 ブッシュ前大統領は二〇〇二年五月、モスクワ条約を締結した。それは二〇一二年末までに戦略核の配備弾頭数の上限を、START1の六〇〇〇個から一七 〇〇個〜二二〇〇個に大削減するというものである。残りは予備として保管できる。「経済的負担が重荷(嘘)」というロシアの外交戦に敗北した結果であっ た

 今回オバマ大統領がロシアと合意した米露の新戦略兵器削減条約の「基本的枠組み」は、START1が本年十二月末で失効するために、それに代るものであ る。またモスクワ条約の後を継ぐものでもある。核弾頭の配備数の上限を一五〇〇個〜一六七五個に削減し、運搬手段数の上限をSTART1の一六〇〇基か ら、五〇〇基〜一一〇〇基に削減するというものである。オバマ政権は署名するだろう。敗北が積み重ねられていく。米上院は絶対に批准してはならない。私た ちは説得していかなくてはならないのである。

 仮に米国が調印し批准したとしよう。条約に拘束されてしまう米国の戦略核戦力の運搬手段は一一〇〇基が最大となり、配備弾頭数は一六七五個が最大とな る。米国の対露観、対中観から判断して、多くの予備ミサイルを保有したり、多量のミサイル生産能力を維持し続けるとは思われない。予備の戦略核弾頭数も段 々と削減されていくこととなるはずである。一方のロシアは、自らの世界征服のための障害が米国だと考えて、戦略核戦力(運搬手段、弾頭数)において米国に 対して絶対優位を確立しようと、戦略を練り日々努力している。ロシアは条約は最初から守る意思を持っていないし、内部の告発者もいない。START1が失 効すれば、保有できる戦略核弾頭数の上限六〇〇〇個の規制も無くなる。ロシアのICBMには一基で十個の弾頭を持つものも多くある。

 時間が経過すればする程、ロシアが戦略核、中距離核、短距離核を急増産して配備し、絶対優位の下で、一気にヨーロッパや日本や中東を大侵略する環境が整 えられていく。現在でもあらゆるレベルの核兵器量において、ロシアがダントツで一位であるのに、それが見えない西側は本当にどうかしている。ロシアの「敵 を騙す能力(外交戦を含む情報思想戦能力)」は際立っている。西側内の工作員を巧みに使っているということでもある。言うまでもないことだが、戦略核兵器 量でロシアが米国に何倍も格差をつけて絶対優位に立てば、ロシアは米国を逆抑止できるから、自由に侵略できるようになってしまう。

西側自由諸国がなすべきこと

 ロシアは軍事超大国を支えるための経済力強化にも西側を利用してきた。かつてレーニンは資本主義国を「役に立つ白痴」と呼んだが、ゴルバチョフもプーチ ンも同様に考えているのは間違いない。西側はシベリア・極東の石油・天然ガス開発に大いに協力してきた。日本政府も経済界も「甘い言葉」につられて協力し てきた。七月二七日の新聞には、三菱商事と三井物産が石油・天然ガス開発事業「サハリン3」に参加することが有力になったと出ていた。両社は「サハリン 2」でロシア政府の違法行為で煮え湯を飲まされたのは、ほんの少し前のことなのに、全く学習能力もなく、またロシア政府に騙されようとしているのである。 日本には外交能力は全くないに等しい。民主党政権になれば輪をかけて酷くなる。西側は、自らを征服しようとする敵国を強化するために、金と技術を投入して きたのである。こういう反国家行動は直ちに止めなくてはならない。

 ロシアの弱点、ロシアが恐怖することは何なのか。それは歴史的実践で明白になっている。米国・NATOに「欧州戦域限定核戦争態勢」を構築されることで ある。米国とNATO諸国は直ちに、この態勢を築くべく行動を開始していかなくてはならない。米国は当然、INF全廃条約を破棄しなくてはならない。米国 と日本は同時に、「東アジア戦域限定核戦争態勢」を築くべく行動を開始していかなくてはならないのである。これらの戦略は「二段階核戦争戦略」である。第 一段階の欧州また東アジア戦域限定核戦争においては、我々はロシアの軍事施設や指揮機構や軍需工場等を壊滅できる、第一撃に対して非脆弱な核兵器を十分配 備していなくてはならない。第二段階の米露全面核戦争においては、米国は、生き残ったロシアの戦略核兵器をはるかに上回る量の圧倒的な戦略核兵器を保有し ていなくてはならないのである。そうでなければ、この二段階核戦争戦略は正しく機能しない(この戦略は、中川八洋氏が一九八〇年代半ばから主張し続けてこ られたものであり、私は氏の著書から学んだ)。

 だからロシアの支配者は、米国の戦略核戦力を可能な限り縮小させようと努力してきているのである。また西側各国内の左翼を使って、反核運動、核軍縮運動 を展開させている。米国は核軍縮をしては絶対にならない。大核軍拡をしなくてはならないのである。故ケネディー大統領は、ICBMの対ソ三倍計画を推進し ようとしていたのであった。米国はケネディーに学ばなくてはならない。

日米同盟を堅持した日本の核武装

 日本政府は米国の核によって国の安全を守られていながら、一貫して左翼のごとく「核廃絶」を唱えてきた。直ちに反省して改めなくてはならない。西側自由 諸国の核兵器こそは、「平和の最大の兵器」なのだ。従って日本の核武装は、日本の平和とアジアの平和を、ロシアや中国や北朝鮮の侵略から守るための絶対不 可欠の兵器である。左翼マスメディア等の謀略思想戦に負けてはならない。日本政府は「非核三原則」を閣議ですぐに破棄しなくてはならない。そして米軍の核 部隊の日本駐留を要請するとともに、日本自身でも米国に発注して核武装していくのである。日本の核のボタンは米国との「二重キー」とする。英国も米国との 二重キーである。

 日本が米国に発注する核兵器は、走行式弾道ミサイルのパーシング2改(射程二〇〇〇q)が一〇〇基、地上発射巡航ミサイルのトマホーク改(射程四〇〇〇 q)が一五〇基、海中海上発射巡航ミサイルのトマホーク改(射程二五〇〇q)が二五〇基の計五〇〇基である。(中川八洋氏『日本核武装の選択』一四二頁。 二〇〇四年十月刊)。五〇〇基となるのは、対ロシアだけでなく、対中の「東アジア戦域限定核戦争態勢」も構築しなくてはならないからである。対北朝鮮の核 も必要であるからだ。

 全体主義の侵略国家であるロシアと中国(両国は同盟関係にある)の侵略征服から、祖国の日本を守る方法は、日米核同盟、日米NATO核同盟に基づく前記 した「二階段核戦争戦略態勢」を構築して、両国を完全に封じ込めていくこと以外にはほかにない。中国を封じ込めていくためには、日米台湾核同盟が求められ ている。西側は「法の支配」や憲法の支配を守って国民の自由を守る自由主義国であり、ロシアや中国はそれを否定し国民の自由を否定する全体主義国である。 自由主義と全体主義の戦いは終わることがないだろう。

 二一世紀の最大の脅威は、巨大な核戦力を有するロシアと中国による世界征服であって、国際テロ組織や無法者国家ではないのは明白である。西側自由諸国は 世界情勢認識を、根本から改めていかなくてはならない。

 日本には共産主義者やアナーキストといういわゆる左翼だけでなく、“保守派”を名乗る者の中にも「反米主義者」は非常に多い。反米は必ず反日になるもの であり、誤りである(戦前昭和期の歴史もそれを証明している)。日本の核武装は、米国の巨大な戦略核をはじめとする核戦力体系と結合することによって、つ まり日米核同盟による「二段階核戦争戦略態勢構築」によって、はじめてロシアや中国の日本侵略征服を抑止し、逆に完全に封じ込めてしまえるものになるので ある。もし日本が「反米」から、「核武装による自主防衛」をめざして、日米同盟を破棄して、米国の「巨大な核の傘」から離脱するとすれば、日本の自殺にな る。日本はロシアや中国に侵略され征服される。少量の核兵器は巨大な核兵器の前には敗北するしかないからだ。反米は反日(日本の亡国)である。

● 私は獄中に在って、規則によって自由に手紙を出すことができない。この文を読まれて共感された人には、あなた自身の見解として、是非とも米国の議会や 国防総省やシンクタンクやジャーナリストなどしかるべき方面の方々に訴えていって欲しいと思う。

(2009年7月28日記・2009年9月10日掲載・9月21日レイアウト訂正)

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