ロ シアや中国等全体主義国に対する第二次冷戦を開始すべし(2006.4.8)

5、自由世界のリーダー米国政府の対露、対中政策の誤り

大森勝久

(1)ソ連1991年8月政変は西側を騙す大謀略

 極めて重大な問題がある。自由世界のリーダー米国が、対露政策と対中政策を深刻に誤ってしまっていることである。米国だけでなく、西側の主要な国々の全 てが同様に間違ってしまっている。もちろん、対露観と対露政策の誤りのほうが何倍も深刻である。リーダーたる米国の責任は重大である。日本の保守派は、日 本政府を批判して、日本の核武装を実現させていかなくてはならないが、そのためにも、米国の保守派その他の勢力と共同して、両国政府の対露、対中観とその 政策を根本的に正していかなくてはならないのである。

 西側主要国では、事の本質を捉えない解釈が常識となってしまっている。すなわち「ソ連は、米国ら自由陣営との軍拡競争によって経済破綻に陥り、体制の変 革をめざすエリツィン派が出現する事になった。そしてついに1991年8月の政変となり、ソ連は崩壊し、西側と協調する『市場経済と民主主義を志向する新 生ロシア』が誕生したのである。米国ら自由陣営は全体主義との冷戦に圧倒的に勝利した。核戦争の危険は無くなった」という神話である。この世界観、対露観 は2002年9月に策定された米国の『新国家安全保障戦略』にも反映されて、より強固なものになった。

 ソ連=ロシアが一時的に大退却したのは、米国らによる単なる軍拡競争のためではない。米国が核軍拡をなし、その核戦力によって、全面核戦争になればソ連 の敗北が確実になってしまう「ヨーロッパ戦域限定核戦争戦略」を米欧が実戦配備していったからである。ゴルバチョフやエリツィンが大々的に流した「食糧危 機」は明確な偽プロパガンダである。西側の左翼メディアを大いに利用して宣伝した「経済破綻」も真っ赤な嘘である。そして何よりも、1991年8月政変 も、西側を騙す高等な演出である。

 なぜそうしたのかの理由は、少し考えれば理解されるだろう。ソ連のままで冷戦に一時的であれ敗北すれば(大退却)、米国らは冷戦の勝者として、ソ連の核 戦力・通常戦力の解体を要求してくる事になるし、真実の反体制派によって新たな政府を形成しようとするし、「ヨーロッパ戦域限定核戦争戦略態勢」も長期に 維持しようとするだろう。侵略の数々に対する巨額な賠償も要求される事になる。このようになれば、ソ連=ロシアは永遠に敗北することになってしまうのであ る。これを回避すると同時に、米国ら西側を油断させるために、前記の大謀略を実行したのである。ソ連は崩壊し、西側と同じ価値を追求する新生ロシアに変わ り、かつロシアは経済的、軍事的に弱体化してしまったのだ、と。まさに冷戦=情報心理戦である。ゴルバチョフは天才的戦略家だ。

 自国民を6600万人も殺害し、東欧諸国やバルト諸国や日本など外国を侵略しまくったソ連の独裁支配者が、「市場経済とデモクラシーの新ロシア」また 「西側と強調する新ロシア」の建設をめざすエリツィン派との間で、国家権力をめぐって戦ったというのが真実ならば(1991年8月政変)、わずか数日、し かも3人の死者で収拾するなどということは絶対にありえない。エリツィンには動かせる一兵士の軍隊もなかったのだから、まさに太陽が西から登るようなもの だ。余りにもスケールの大きな嘘は、かえって信用されるということか。

 騙された米国政府・ブッシュ(父)政権は、ゴルバチョフ政権そしてエリツィン政権との間でSTART1条約・議定書に署名し、エリツィン政権と START2条約(これは未発効)に署名した。そしてブッシュ(長男)政権が、プーチン政権との間でモスクワ条約(02年5月)に署名したのであった。 ブッシュ父・長男政権は、これらの戦略核兵器削減条約において、ロシアに対等の地位を与えるという誤りを犯し、それのみならず、ロシアは条約など守る意志 などないから、これらの条約を順守する米国が、冷戦の敗者のごとくに戦略核兵器を一方的に大削減させられることになったのである。致命的な誤りである。

 米国はSTART1条約により現在戦略核兵器の運搬手段は1164基(機)、戦略核弾頭数は上限の6000発しか保有していない。米国はモスクワ条約に よって2012年末までには、配備する戦略核弾頭数を最大でも2200発まで削減することになる。予備として3800発を保管するだろうか。減らす可能性 もある。02年当時、一時は2400発を保管する方針だと言われたこともあった。米国には稼動している核弾頭生産工場は既に無いのだ。

 モスクワ条約は、START2条約は不問に付したから、ロシアは重ICBMもMIRV(個別誘導多弾頭)ICBMも配備し続けるが、米国は愚かにも重 ICBMを廃棄してしまったし、MIRV弾頭は単弾頭にして使用することにした。米国は新型重ICBM(MIRV弾頭のピースキーパー)の配備を中止し、 既に配備した50基も廃棄してしまった。

 ロシアは将来の大反攻=大侵略に備えて、戦略核戦力の運搬手段や中距離核戦力や短距離核戦力の運搬手段の生産能力を維持・拡充していくし、現在も稼動中 の各種核弾頭生産工場を維持していき、いつでも急増産ができる態勢を保持する。もちろん現在でも大量の核弾頭を隠匿している。新型ICBM・SSー27 (トーポリM)も開発配備してきた。

 今ロシアは、軍事超大国を支えるために経済力と最先端技術の強化に邁進している。西側諸国はそれを支援してしまっている。レーニンは資本主義国を「役に 立つ白痴」と呼んだが、ゴルバチョフ、エリツィン、プーチンらも同様に思っているにちがいない。

 西側諸国は肝心なところを認識できていない。ソ連=共産ロシアの支配者たちは、世界を奴隷的に支配するために、共産主義がロシアを世界最強国にしてくれ るのだと思い込んだから共産主義を採用したに過ぎない。ソ連の侵略を含む外交・軍事政策は、中川教授が明らかにした如く伝統的なロシアのそれであった。共 産ロシアが共産主義を放棄したのは、西側に強制されたためではない。その経済の非効率性を痛感し、世界征服のためには国家統制的な市場経済にするしかない と自覚して、同時に西側を騙しその二段階核戦争戦略態勢を解除・廃絶させる事を狙って、主体的に放棄していったのである。1991年の8月政変の大謀略で ある。従って「全体主義に対する西側の勝利」である筈はない。

(2)米国は直ちに核軍縮をやめ核軍拡すべきだ

 2002年末現在で、ロシアのICBMは735基、弾頭数は3159個であるが、735は発射筒の数であり予備ミサイル数は含まれていない。ロシアは核 戦争を半年以上は継続するするドクトリンに立脚しており、ロシアの戦略理論では予備は原則2倍としているから、実際のミサイル数は発射筒の3倍の2200 基のICBM、核弾頭数も3倍の約1万個があると見なくてはならない(中川教授『日本核武装の選択』116頁)。そして侵略戦争時には、更にミサイルも核 弾頭も急増産するのである。

 だからもしこのままで推移するならば、ロシアは米国に対して戦略核戦力において絶対優位を確立することになる。そうなれば、二段階核戦争戦略の二段階目 の全面核戦争シュミレーションにおいて、米国は勝利できないばかりか敗北が確実になってしまう。そうなると、日本が既に核武装し、米国のICBM部隊の日 本配備もなされて、「戦域限定核戦争戦略態勢」が実施されていようとも、日米はロシアの対日侵略を抑止できなくなるのである。

 二段階核戦争戦略は第二段階で米国が必ず勝利しロシアが必ず敗北する、そのような戦力関係の時に成立する戦略である。だから米国は、核軍拡すべきであっ て、核軍縮など決してしてはならない。ましてや米国のみが一方的に核軍縮するのは、明確に米国の国益に反する反国家的犯罪である。中川教授も「米国はこの 第二段階で必ず勝利するだけ核戦力を保有しなくてはならない。このためにも、米国はこれ以上の核軍縮をしては困る。「MD重視」は「MD重視」にとどまる べきものであって、ブッシュ政権のように、「攻撃核戦力軽視」に連動しているのは論理的にも飛躍している。「MD重視」は「攻撃核能力重視」と統合されて こそ真価を発揮する」(137頁)と米国政府を批判する。

 中川教授の主張を更に引用しておきたい。「我々は、戦後六十年間の歴史と体験から多くの知識と智恵を得た。とりわけ、米国が核軍拡に邁進しているとき、 ロシア[ソ連]の膨張や対外工作は弱まり、世界は静かになり平和と法秩序が安定的に到来した、ことを学んだ。つまり、核抑止の信頼性は、ロシアを恐怖させ る“米国の核軍拡”に直接的に比例して向上する、という法則を学んだ」(166、167頁)。

 米国の「拡大核抑止力」、つまり同盟国への核の傘の信頼性は、米国が保有する攻撃核戦力量に比例する。従って米国はロシアを圧倒的に凌駕する攻撃核戦力 を保有しなくてはならない。中川氏は次のように述べている。「このスパイクマンの理論に従えば、米国の核戦力の主力は、非脆弱で敵に迅速集中的に核投下が できる走行式ICBM・・・がベストである。つまり“ケネディ大統領のICBM対ロ3倍論”に従って、ロシアの保有する核弾頭の3倍に相当するミゼットマ ン型ミサイルを実戦配備することである」(167頁)。

 このまま手をこまぬいていれば、近い将来、日本は核超大国ロシアに侵略征服されることになってしまう。米国を対露核軍拡路線へ転換させていくためには、 米日両政府の対露観を批判し正していくしか途はない。またそれなくして、日本の核武装も出来ない。保守派は、米国の保守派その他の人々と共同して、全力を 挙げてこの課題に取り組んでいかなくてはならない。これ以上の重要な課題はない。日本国の存亡がかかっている。1991年8月政変は、西側を騙すための大 謀略である。

 「ロシアは民族の性格において世界の動乱や戦争を欲する。どんなに「退却」したかに見えてもそれは「再膨張」のためのバネにすぎない。このことは、イワ ン三世以来のロシア500年史が証明している。歴史の常識である」(167頁)。ロシアは大侵略、大退却、再大侵略を繰り返して領土を拡大してきた。 1989年からの大退却も30年後に大侵略して取り戻し、更に領土を大きく拡大すれば、おつりがくるというものである。

 中川教授は、ロシア人は時間の感覚が西側の人間と全く異なっていると指摘する。「『日本人の明日』と『ロシア人の30年先』は、同じ程度の近い未来であ るように、ロシア人は日本人に比すれば焦りが全く欠如した民族文化を持つ。じっと待つ時間感覚が100倍も1000倍も相違する。かくしてロシアにとっ て、20年 先、30年先の侵略は日本人の『明日』と同様であるから、その準備に絶え間なく精を出すのである」(『国民の憲法改正』99、100頁)。

 米国を始めとする西側は、確かにソ連=ロシアとの冷戦に一時的には勝った。国境線はヨーロッパにおいては600kmも後退した。だが、その直後から西側 はロシアとの冷戦(兵器を使用しない情報心理戦)に敗北を重ねてきている。米国らにその認識はない。米国は核戦力を大削減してきている。通常戦力もそう だ。他の西側諸国も同様である。実際の戦争において、敵の大退却を降伏と誤判断して、自らの戦線を解き、同盟を解除し、戦力を大削減し、さらに加えて敵を 「協力関係にある国」だと捉えるとすれば、近い将来のわが方の敗北は必至であろう。

(3)米政府中枢にも露、中のエージェントが侵入し政策を左右している

 米政府の対中政策も、対露政策に比べれば誤りの程度が小さいというだけで、徹底的に誤っていることには変わりがない。米国防総省の『中国の軍事力 2005』を見てみる。

 それは「中国の将来のイメージ」の項で、「中国は戦略的な分岐点に立っている。中国は、平和的な国際社会への統合と、穏便な競争という道を選ぶことが出 来る。中国はまた、より広い領域において支配的影響力を行使するような道を選ぶことも出来るし、こうした道の途上にすでに身を置いていると気付くかもしれ ない。あるいは、中国が自信を欠いて内向きになり、国の統合や中国共産党の正統性といった国内問題に力をそがれる可能性もある。台頭する中国の将来はまだ その方向性が定まったわけではない。米国の政策は、平和的で繁栄する中国の台頭を歓迎するものである。しかしながら、中国を平和的な道から逸脱させかねな い様々な力があり、その中には中国の軍部と国家安全保障担当者たちの力が及ばないものもある」と述べる。

 国防総省は米国を敵国から守る政府機関である。その国防総省が、「中国の将来はまだその方向性が定まったわけではない。米国の政策は、平和的で繁栄する 中国の台頭を歓迎するものである」と主張しているのである。この部分は、国防総省中枢に侵入している左翼(反米主義者で露、中のエージェント)が、保守派 を抑えて書いたと考えて間違いないであろう。中国の国家目標が東アジア地域の征服、さらにはより広大な地域の征服であることは、最初から決定していること だ。上記のように言う者は、断じて保守派や正統な中国専門家ではない。明確に左翼である。もちろん、彼は保守派、愛国者を装っている。中国に対する批判も 口にする者である。

 『中国の軍事力2005』には、「中国政府は北朝鮮の核問題を解決するための六カ国協議において、主要なまとめ役としての役割を担い続けた。中国は公け に、「朝鮮半島非核化」を求めている。中国は、北朝鮮との歴史的絆や地理的関係によって北朝鮮を説得し、核開発を放棄させる特別な潜在力を持っている」と いうナンセンスな、左翼の主張も盛り込まれている。「協力的、率直かつ建設的な米中関係」の項にも、「米中両国は、朝鮮半島非核化という共通目標を共に追 求し、六カ国協議プロセスを確立し、テロ対策で協力した」とある。

 ブッシュ政権は2006年3月16日、『国家安全保障戦略』(02年9月に発表されたものの改訂版)を発表した。私はまだ読めてないが、産経新聞は次の ように書いていた。「中国に対しては、「資源の豊富な国に対し、悪政などを行っているにもかかわらず支持している」として、中国が国内のエネルギー需要を 賄うために、スーダンやイランに対し、積極的な資源外交を展開している事を批判した。そのうえで、「責任ある『ステークホルダー』(利害共有者)として行 動しなければならない」と指摘するとともに、政治や経済活動の自由の保障を求めた。同時に、「中国が国民のために、正しい戦略を選ぶよう促しつつ、その他 の可能性についても備えるのが米国の戦略だ」と記した」。

 これも左翼が書いた内容だ。「関与政策」と言われてきたものである。同文書は「圧制国家」として7ヶ国を挙げるが、ロシアも中国も入っていない。中国 は、国民を独裁支配する圧制国家だ。中国に国民のために正しい戦略を選ぶよう言葉で促しても、また言葉で政治や経済活動の自由の保障を求めても、効果はゼ ロである。独裁支配者に言葉は通用しない。

 『中国の軍事力2005』で分析されている軍事力の内容から出てくる結論は、中国は東アジア地域の征服を国家目標にしているというものになるしかない。 それなのに、無理矢理「戦略的分岐点にある国」と定義し、将来の方向性が定まったわけではないとしているのだから、正体を偽装した左翼(中国のエージェン ト)の介入があることが合理的に推認できるわけである。政策立案レベルという高いポストにいる人物である。国防総省内部で激しい論争が展開された筈だ。

 私は日本以外では米国が一番好きだし、同盟国として唯一頼りになる国だと思っている。全体主義侵略国のロシアと中国がいる以上、日本は永遠に米国と同盟 し、自ら核武装しつつも米国の「核の傘」に頼る以外に途はない。しかし、米国でも政府中枢に左翼(エージェント)が侵入していて、米国の対露、対中政策を 誤導している。ブッシュ大統領は騙されてしまっている。中川教授は、キッシンジャーを隠れ共産主義者とみて糾弾してきた。私も中川氏に学び、そうだと考え ている。キッシンジャーは保守派の長老といわれており、その人脈は深く広い。国防総省にも国務省にもホワイトハウス・国家安全保障会議にもキッシンジャー 派がいる。

 戦前もスターリンの秘密指令を受けて、米政府中枢に共産主義者は数多く侵入した。「ハル・ノート」を作成したH・D・ホワイトもソ連のエージェントの一 人であった。ルーズベルト大統領の補佐官のL・カリーもそうであった。45年2月のヤルタ会議にルーズベルトの側近として出席した国務省のA・ヒスも工作 員であったし、側近癸韻箸靴峠仞覆靴H・ポプキンズもそうであった(中川教授『大東亜戦争の「開戦責任」−近衛文麿と山本五十六』二章に詳しく述べられ ている)。第二次世界大戦は、その戦後地図で明らかなように、東欧は全てソ連圏となり、アジアも中国、北朝鮮、北ベトナムがソ連圏となり、日本の北方領土 もソ連に占領されたように、ソ連のための戦争であった。米国はソ連に利用され奉仕させられたのである。

 戦後、マッカーシー議員らによる共産主義者追放の正しい戦いがあったが、ソ連=ロシアの秘密工作が継続されたことは明白だ。今も多くの共産主義者が政府 内で活動していることは間違いない。米国防総省の他国の動行・戦力評価を担当する「ネット・アセスメント」室の室長マーシャルは、キッシンジャーが招聘し た人物という。彼が中心になって国防政策の立案はなされているという。だからソ連、ロシアまた中国の動向把握と戦力評価、そして誤った対外政策(INF条 約、冷戦勝利とSTART1・2条約、モスクワ条約、伝統的脅威への対応から対テロ戦争への転換)も、国防総省においてはネット・アセスメント室で立案さ れたのだろう。

 レーガン大統領は1987年INF条約(地上配備の中距離核戦力全廃)に署名した。当時西欧諸国はこれを批判した。ブッシュ父大統領はSTART1・2 条約に署名した(91〜93年)。ブッシュ現大統領はモスクワ条約に署名した(02年)。ブッシュ父・子政権のソ連またロシア専門家として対露政策を主導 した人物は、ライス現国務長官である。彼女もキッシンジャー派である。02年9月の『国家安全保障戦略』も彼女(国家安全保障担当大統領補佐官)が中心に なって作成したものである。反ソ(露)・反中・反共の共和党大統領時代にも、敵国を利し、米国と自由世界に大脅威になる政策が実行されるのは、正体を隠し た左翼(露、中のエージェント)が政府内部で活動しているためであろう。私は情報も少ないが、論理的に考えて、保守派の国家安全保障問題の専門家であっ て、それでいて敵を利し米国・自由世界の利益に根本的に敵対する政策を実行するのだから、ライスも隠れ共産主義者で露、中のエージェントであるという以外 の答えは出てこないだろう。

(4)伝統的脅威から目をそらさせる「反テロ戦」

 ブッシュ政権は01年9・11同時テロ以降、21世紀最大の脅威は大量破壊兵器を持つ国際テロリストや無法国家(ロシアや中国は含まれていない)である と考えている。02年9月の『国家安全保障戦略』もその基本認識でまとめられた。06年3月16日に発表された改訂版の国家安全保障戦略も同様である。ロ シアについては、「最近の傾向は残念ながら、民主的自由やその制度の確立という公約から後退している」と懸念が表明されている(産経新聞)程度のようだ。

 私はこれまでも、「テロとの戦い」によって最大の脅威国たるロシアと中国が隠され、両国との対決、封じ込めという自由主義世界の最重要課題が否定されて きたと主張してきた。私はテロリストを憎む。テロ組織や無法国家と戦うのは当然のことである。だが、それらによって日本ましてや米国が敗北することはない が、ロシアや中国の核戦力によっては、そうなり得るのである。だから最大の伝統的脅威国のロシアや中国と対峙し、封じ込めつつ、テロ組織や無法国家とも戦 うということでなくてはならないのである。

 だが、米政府内に侵入している反米主義者で露、中のエージェントは、9・11テロを最大限に利用して、米国や同盟国をして、ロシアや中国の脅威に一層目 が向かわないようにし、さらには両国も反テロや反無法国家の戦いで同じ側に立っていると位置づけて両国の評価を高めようとした。そうすることでロシアと中 国が、米国や同盟国にできるだけ警戒されることなく軍事力・経済力を増大していくことができることを狙った。左翼は反祖国主義者であり、米国の安全保障を 否定することはどんなことでもする。それは、米国を敵だと考えてる最も有力な外国(ロシア、中国)の国益を図っていくことである。ロシアや中国のエージェ ントでなくても、左翼はそうするが、エージェントならなおさらだ。

 朝日新聞2006年2月17日に重要な記事が載った。国防総省情報局の職員3人が、「99年秋から00年末までアルカイダの動向を追う機密作戦が実施さ れ、同時テロのリーダー格のモハメド・アタの存在を把握し、かつ93年の世界貿易センタービル爆破への関与を指摘される人物と関係があることもつかんでい たが、上層部からの指示で作戦は中止され、こうした情報は全て放棄されてしまった」と、下院軍事委員会で実名で告発したという内容である。情報が正規に処 理されていれば、FBIなどとも共有され、9・11テロ以前にアタらを摘発することが出来た、という告発である。同委員会副委員長のウェルドン議員(共和 党)が告発側の言い分を認め、隠蔽工作についても調査を継続する意向を示しているという。

 国防総省の中枢にいる隠れ左翼は、アタらがテロを計画し実行していくことに、戦略的利益を見出していたということになるだろう。

 ライスがまとめた02年9月の『国家安全保障戦略』を抜粋しておきたい。

 「われわれは、テロリストや独裁者と戦うことによって平和を守る。強大国間に良好な関係を築く事によって平和を維持する。・・・今日、国際社会は、17 世紀に国民国家が出現して以降初めて、強大な国家が戦争に備える代わりに、平和の中で競争できる世界を構築すると言う最良の機会が与えられている。今日の 大国は、テロの暴力と混乱という共通の危機に対して団結し、同じ側に立っている。米国は、こうした共通の利害を基盤として世界の安全保障を促進していく。 共通の価値に基づく各国間の団結も強まっている。民主主義国家としての将来と、テロとの戦いにおけるパートナーを目指したロシアの歩みには希望が持てる。 中国の指導層は、経済的自由が国富への唯一の手段であることに気付き始めている。中国は早晩、社会的・政治的自由が偉大な国家への唯一の道であることにも 気付くはずである。米国は、この二つの国家における民主主義と経済開放を奨励する。それが国内の安定と国際秩序の最良の基盤となるからである。・・・

 対ロシア関係の特徴が、対決から協調へと移行したことの利点は明らかである。両者を対立させていた恐怖の均衡は終了した。両国で過去に例を見ない核兵器 の削減が行われた。また、テロ対策やミサイル防衛など、最近まで想像も出来なかった分野での協力が実現した・・・ロシアの指導層は、・・・冷戦時代のアプ ローチはロシアの国益に沿わないこと、そしてロシアと米国が多くの分野で戦略的利害を共にしていることを、さらに深く理解するようになっている」。

 私は徹頭徹尾、隠れ共産主義者(露、中のエージェント)の政治謀略文書であると考えている。保守の思想は、人間を善なる存在とは見ないし、ましてや国際 社会を「強大な国家が戦争に備える代わりに、平和の中で競争できる世界」とは決してとらえない。人間はそのままでは悪に染まっていってしまう。だからこ そ、法の支配と道徳の支配が必要であり、法を執行する立派な国家機関が必要となる。国際社会は、隙あらば他国を侵略しようと考えている全体主義国で満ちて いる。国際法が守られるのは一部の文明国間においてだけだ。そんなことは常識だろう。だから私たちは常に、ロシアや中国と非妥協的に対決し封じ込めていか なくてはならないのである。だがこの文書は、「平和幻想」をまきちらして、現実と逆のロシア像、中国像、国際社会像をプロパガンダしているのである。

(5)ソ連、中国のエージェント・キッシンジャーの謀略

 この節では、隠れ共産主義者でソ連、中国のエージェントであると断じてよいキッシンジャーの謀略について書いていくことにする。

台湾を切り捨て中国を強国化する

 保守政権であれば、自由主義の台湾を主権国家だと積極的に認めていくのが当然なのに、ブッシュ政権は、キッシンジャーがニクソン大統領を誤導して発表さ せた「米中上海コミュニケ」(1972年2月)を守って、「台湾独立反対」「現状維持」を唱えている。上海コミュニケとは、台湾放棄であり、侵略国中国を 一方的に利するものであるから、法の正義に反しており、無効である。直ちに破棄してこそ法に適い正義である。ブッシュ政権の対中、対台湾政策は、02年9 月の『国家安全保障戦略』に謳われている「強大国間に良好な関係を築くことによって平和を維持する」から導き出されているものでもある。だが米国議会で は、超党派で多くの議員が政府のこの政策を厳しく批判している。

 中国を今日の核大国に成長させたのは誰なのか。米国政府と日本政府である。安全保障担当大統領補佐官キッシンジャーは、「中ソ対立」という声ばかり大き いが決して全面戦争に発展する可能性などない親子喧嘩をもって、「中ソ全面戦争が迫っている。座視すればソ連は中国を無力化し、一切の軍事努力をあげて西 側に向けていくことができる」とニクソン大統領を騙し説得して、「米中和解」へ誤導していったのである。その結果、台湾は国連から追われ、替わって中国が 安保理常任理事国の座を手に入れた。

 中国は大きな国際的政治権力を手に入れただけでなく、米国に警戒されることなく軍拡を推進することができるようになった。日本も米国に倣って中国を承認 し、台湾を完全に切り捨てた。1980年度から巨額のODAを中国の独裁政府に供与したから、中国はその資金で核軍拡と経済強化に邁進していった。ソ連に とっては、中国の強国化はソ連の世界戦略から見て明らかに利益になるのである。なぜならば、米国がソ連と戦争に突入する場合、米国は戦力の全てをソ連に向 けることができなくなるからだ。中国用に一定の戦力を割いておかねばならなくなる。これがソ連を大いに利することは明白だ。だからソ連は「中ソ対立」中も 一貫して中国に兵器を供与し軍拡を支援してきた。

 国際政治学者キッシンジャーは、全てを理解した上で、ソ連と中国を利し、米国及び西側の安全保障を深刻に傷つける政策を、逆に米国と西側の安全保障を向 上させるものだと理論付けて、ニクソン大統領を騙して実行させていったのであった。

 私は中川八洋教授の『中国の核戦争計画』の第三章「チャイナ・カードという幻想―アジア共産化の拡大を狙ったキッシンジャー」に学んで、この「米中和 解」の謀略部分を書いたが、少し引用しよう。「ソ連(ロシア)にとって、中共が「反ソ」であるが故に有事に西側につくであろうという、自分らの願望を現実 とないまぜにした米国の錯覚や誤解ほど、ソ連(ロシア)の世界戦略に貢献したものは他にはないだろう」(89頁)。

 中国は、そのような有事の際に、西側につく筈はない。なぜならば、西側についてソ連の敗北を援助するとすれば、中国は自らの首を絞めることになってしま うからだ。米国ら西側はソ連を打倒すれば、次には中国に向うことになるからだ。だから中国は絶対にそのようなことはしない。とすれば、米国は軍事力の一部 を中国用に割いておかなくてはならなくなる。「米国の軍事力の標的がロシア1ヶ国に集中することなく中共にも割かれることによって、ロシアに投入される米 軍事力がたとえば3分の1は減るからである。そのことは、対露戦争に投入される米軍事力が3分の2になるということではく、対露戦争に必要な米国の軍事力 が3分の1も欠如することにおいて対露戦争を断念せざるをえなくなるから」(90頁)、ソ連を大いに利するのである。

 ソ連と中国は、米政府中枢にいるエージェントのキッシンジャーを使って、戦略環境をこのように飛躍的に向上させたのである。

SALT1協定、ABM制限条約で米国の戦略核戦力を対ソ優位から劣位に逆転させた

 キッシンジャーは72年5月、モスクワで交渉していた米国大使を無視して、ワシントンにおける秘密の裏外交で、ソ連と戦略核兵器制限協定(SALT1) を締結した。

 同協定は、米国の戦略核基数を凍結する一方で、ソ連のみはICBMをさらに91基、SLBMをさらに240基も増強を認めるものであった。これによっ て、米国のICBM・SLBMは1710基、ソ連は2358基となった。これは発射筒の数であり、予備のミサイルは含まれていない。米国は戦略爆撃機にお ける優位と、MIRV弾頭を開発していたから、弾頭数の優位をもってソ連のミサイル数の優位にバランスし得るというのがキッシンジャーの建前論であった。 だがソ連もすぐにMIRV化に成功したから、同協定は60年代までの米国の戦略核戦力対ソ優位を、70年代半ば以降の対ソ劣位に逆転するものであったのだ (同書70頁。中川教授『核軍拡と平和』中央公論198六年。38、39頁)。

 キッシンジャーは、誤った核戦略理論であることを十分承知の上で、「相互抑止理論」、「相互確証破壊理論」、「十分性理論」を提唱し、先のSALT1協 定を締結していったのである。同時にABM(弾道ミサイル迎撃ミサイル)制限条約も締結した。

 核戦力の優位(米国)は、相手(ソ連)の先制核攻撃を招くので相互抑止に反する。優位は放棄すべきであると主張するのが相互抑止理論である。この謀略理 論によってキッシンジャーは、米国の核戦力の凍結と、ソ連の核戦力の増強を正当化した。米国の戦略核の対ソ優位を対ソ劣位に逆転せしめるための理論であ る。

 相互確証破壊理論(MAD)とは、双方が防御を放棄して(ABM制限条約)、確実に破壊される状況にしておくことによって核戦争を抑止するという理論で ある。これは米国の防御の優位を否定し、ソ連に合わせて対等にするための虚偽理論である。

 十分性理論は、核戦力の優位は相手の先制攻撃を招くから不要であり、相互抑止が働くから全面核戦争はありえず、限定核戦争のみに対処する核戦力を保有す ればよいと主張するものである。要するに、米国の戦略核戦力の凍結を合理化する理論であり、ソ連の対米優位を作り出すための理論である。さらには米国にの み核軍縮させる理論である。ソ連は核軍縮条約に拘束されないからだ。

 これらのキッシンジャー理論は、ソ連も米国と同じ考え方をしていることを大前提にしたものである。もちろん彼はそうでないことは熟知した上で、嘘をつい ている。ソ連=ロシアの核戦略思想は、米国と全く異なっている。抑止思想はない。核戦争を戦い抜き勝利する思想である。だからロシアは、核の量的・質的優 位を目指す。ICBM重視であり、奇襲先制攻撃、大量攻撃を原則とする。核戦争を戦い抜くために防御にも全力を投入する。すなわちABM配備、防空ミサイ ル、防空戦闘機、そして核シェルター、産業施設や人口の分散、疎開という民間防衛も高度に完成している(中川教授『現代核戦略論』原書房1985年を参 照)。

 つまりキッシンジャーは、ソ連の勝利、米国の敗北を目標にして、米国の核戦略理論を構築し宣伝してきたのである。そして国家安全保障担当大統領補佐官と してニクソン大統領を操り、SALT1協定、ABM制限条約を締結していったのであった。抑止を前提にするとしても、抑止する例(米国)が、攻撃力におい ても防御力においても、また戦略においても敵(ソ連)に優位であらねば、抑止できないのは余りにも当然過ぎることだ。マシンガンを持ち防弾チョッキを着た 警察官だからこそ、ピストルの凶悪犯を抑止できるのであり、両者が攻撃力、防御力で対等ならば抑止は成功しない。

 中川教授の文を引用しよう。「ケネディ大統領はABMの推進者であると同時に、“ICBMの対ソ3倍計画”を実行しようとしていた。ケネディが暗殺され ずに2期目の大統領も勤めていれば、“ICBM対ソ3倍”は実現している。その結果、ソ連のアフガン侵攻はなかっただろうし、ソ連崩壊が1970年前後に 生じていた可能性がある。しかしニクソン/キッシンジャーの両名が登場し、“量的対等(パリティ)下の抑止”戦略に変更した(SALT1条約、1972 年)。これによって、ソ連は、そのあと1970年半ばをもってアンゴラ/モザンビーク/エチオピア/ニカラグア/アフガニスタン等々といっせいに侵出し、 南ベトナムもカンボジアも共産化し(1975年)、地球上あらゆるところに共産政権が次々と樹立した。抑止は、攻撃核戦力の“対等”では、米国一カ国の自 国には効いても、同盟国その他への拡大抑止力の効能の方を喪失する」(『日本核武装の選択』164頁)。

 キッシンジャーが隠れ共産主義者・反米主義者で、ソ連(ロシア)や中国のエージェントであることは疑いがないであろう。

盗聴器だらけの在モスクワ米大使館建設

 中川教授の文を再び引用する。「キッシンジャーが結んだ1972年の米ソ大使館新築協定も、同様に、在ワシントンのソ連大使館建設は下級の土木作業員に 至るまですべてロシア人をつれてきて米国人は一名も雇用しなくてもよいとしてあげ、一方の在モスクワ米国大使館の新館建設にはロシア人の土木作業員を一定 以上雇用しなければならないという義務規定を入れた。・・・それによって、この在モスクワの米大使館(8階建て)の壁といい天井といい盗聴器だらけとなっ た。作業員に化けたKGBの盗聴器専門家が自由に出入りし設置したからである。米国は15年後の1987年に至り、この新館の6/7/8階を取り壊し、加 えて6階建ての第2新館を労働者1人残らず米国から運んで建築し直すことを決定した。実際に、このキッシンジャーが仕組んだ米大使館を丸裸にして米国の情 報をソ連に“貢ぐ”、この盗聴器問題がロシアと解決したのは1992年であった」(『中国の核戦争計画』71、72頁)。

南ベトナムを売り渡したベトナム和平協定

 「ノーベル平和賞受賞の対象となった、1973年1月の、北ベトナムとの和平協定も、その内実は北ベトナムの要求のまま受け容れて米国が南ベトナムを放 棄することを定めたものであった。南北ベトナムの両国の和平ではなく、北ベトナムに南ベトナムを“貢ぐ”米国の「無条件降伏」の文書であった。なぜなら、 米国はベトナムから米軍を全面撤兵させるだけではない。米軍の緊急再展開を絶対不可能にする、在南ベトナムの米軍のすべての“空軍基地の破壊”を義務づけ ていた。米国がこの協定を履行した直後の1975年4月、案の定、北ベトナム軍は南への大規模侵略を再開し、南ベトナムはあっという間に北ベトナムの占 領・支配するところとなった。「ボート・ピープル」の大量難民の発生も、旧南ベトナムの知識階級や共産体制への批判者等に対する虐殺と強制労働も、明白に キッシンジャーが暗躍して結んだこの協定が元凶であった」(前掲書72頁)。

 「キッシンジャーが「ソ連のエージェント」でなかったと断定するのは困難なことである」(71頁)。私も全く同感である。(2006年4月6日記)
                                                              

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