再 審 請 求


 北海道庁爆破事件裁判は一九九四年七月の上告棄却によって死刑が確定したが、私は二〇〇二年七月になって札幌地裁に再審を請求した。確定からかなりの期 間を要したのは、私が思想の転向という極めて重要な問題に取り組んでいたことが大きな理由であったが、弁護団を再編成することになったこともその理由で あった。現在一〇人の弁護人がついてくださっている。

 再審請求後の経過を簡単に述べれば次のようである。札幌地裁は二〇〇四年九月に山平真氏の証人尋問を非公開で実施したものの、二〇〇七年三月十九日に請 求を棄却する決定(通常裁判の判決に相当するもの)を下したのであった。これに対して私たちは札幌高裁に「即時抗告」を申し立てたのであるが、同高裁は翌 年二〇〇八年五月二十八日に即時抗告を棄却する決定を行ったのである。私たちは最高裁に「特別抗告」を申立て、現在最高裁で審理中である。

 最高裁で棄却決定が出されると、第一次再審請求の「棄却」が確定することになる。その場合は、別の新証拠を準備した上で、第二次再審請求を札幌地裁に対 して請求することになる。 

確定裁判の事実認定と証拠構造

 本件における証拠の評価と事実認定は、二審判決において全面的に書き直されたと言い得る。従って確定裁判の事実認定と証拠の構造は、二審判決のそれであ る。

 二審判決は公訴事実(犯罪事実)認定のための間接事実として、(1)本件爆発物と被告人との結びつきについて、(2)本件犯行声明文と被告人との結びつ きについて、(3)本件爆発物の設置について等々の六項目を摘示している。

 二審判決は「証拠評価の総括」において、「本件においては、本件事件と被告人との結びつきに関する証拠の一つ一つは、犯行現場に残された犯人の指紋のよ うに殆どそれのみで結びつきを証明出来る程の決定的な証拠ではないけれども、これらを総合し、積み重ねることにより、本件爆破事件が被告人によって企画さ れ、被告人によって本件爆発物が作られ、これが被告人によって爆発現場まで運ばれて設置され、時限装置の作用により爆発したことについては、証拠上疑いを 入れない程度にまで明らかになったということができる」と結論づけていた。

 公訴事実は「本件爆発物の設置使用」であり、「本件爆発物の製造」は公訴事実ではないが、二審判決は以上のようにこの二つの事実を認定しているのであ る。そして引
用文でもわかるように、「本件爆発物の製造」という間接事実の認定が、公訴事実たる「本件爆発物の設置使用」を認定するための絶対不可欠の事実になってい るわけである。ということは、この証拠構造においては「本件爆発物の製造」の事実が認定できないことになれば、公訴事実の認定もできなくなり、無罪という ことである。すなわち再審開始決定である。

 二審判決は「これらの事実にその余の状況証拠を総合すると、被告人が本件爆発物を製造したことを推認するに十分である」と認定した。「これらの事実」と は、前記(1)の中の様々な事実を指すが、「被告人が、本件事件当時、高濃度塩素酸塩系除草剤を所持していたと認められる」という、「除草剤の所持」が中 核になっている。「その余の状況証拠」とは、前記の(2)(3)他五項目に関連する状況証拠のことである。

 二審判決は山平鑑定によって、「私の除草剤の所持」を認定している。だから山平鑑定は実際には「不存在」であったことが証明されれば、「私の除草剤の所 持」は認定できなくなり、「本件爆発物の製造」は認定できなくなる。そして「本件爆発物の設置使用」も認定できないことになるのである。本件の証拠構造か らこのことは明らかである。再審の開始である。

 そればかりではない。山平鑑定の不存在が証明されると、私の居室からも除草剤の痕跡は全く無かったという他の証拠と併せれば、「私の除草剤の不所持」が 証明されるのである。当然、本件爆発物を製造できないのであるから、完全なる無罪証拠になるのである。直ちに私は無罪である。すなわち再審開始である。
 それゆえ私たちは(第一次の)再審請求においては、「山平鑑定の不存在」を証明すること一本に絞って闘ってきた。「製造関係」の捏造証拠は、「発見押収 リン止めネジ」や「消火器ラベル痕」など他にもあるが、再審を請求するためには新証拠を提出しなくてはならず、その準備には時間もかかるからである。弁護 人は再審請求補充書を㈠から㈩まで提出した。

 ただ私たちは、前記(3)における旧証拠の再評価を行って、藤井昭作の目撃証言は虚偽であること、A男のモンタージュ写真は捏造物であること、A男B男 は犯人ではないことを証明し尽した再審請求補充書も提出した。その理由は、裁判官が「私と爆発物との結び付き」を認定した場合にも、その「爆発物」が「本 件の爆発物である」と認定できるためには、証拠構造上、A男B男が犯人であることと、藤井の目撃証言とA男のモンタージュ写真が必要不可欠であるためであ る。それらが捏造証拠であれば、「本件爆発物の製造」は認定できないのである。

再審理由の存在

 刑事訴訟法四三五条二号は、「原判決の証拠となった証言、鑑定(中略)が確定判決により虚偽であったことが証明されたとき」に再審を認めるとしている。 「原判決の証拠となった」とは、本件の場合、一審の死刑判決の証拠のことである。山平証言や山平鑑定書がこれに当る。刑訴法四三七条は、「その[犯罪の] 確定判決を得ることができないときは、その事実を証明して再審を請求することができる」としている。つまり山平証言の虚偽は「偽証罪」にあたり、山平鑑定 書の虚偽は「有印虚偽公文書作成罪」に当るが、いずれも七年の時効が完成していて、犯罪の確定判決を得ることができない四三七条に該当するものである。こ の場合は四三七条は、虚偽の事実を「証明」すれば再審を請求することができるとしている。私たちは刑訴法四三五条二号、四三七条を再審理由のひとつにし た。

 刑訴法四三五条六号は、「有罪の言い渡しを受けた者に対して無罪(中略)を言い渡」す「べき明らかな証拠を新たに発見したとき」には再審を認めるとして いる。私たちはこの四三五条六号も再審理由にした。新証拠として竹之内鑑定書や中川清の写真撮影報告書を提出した。札幌地裁の再審請求審において、山平氏 自身の新証言(旧証言をことごとく覆す証言)も得られた。これらの新証拠と旧証拠の総合評価によって、「山平鑑定の不存在」は証明されて、私の無罪は明ら かになったのである。山平旧証言の虚偽と山平鑑定書の虚偽も証明されたのである。すなわち刑訴法四三五条二号と同条六号の再審理由が存在することは明明白 白である。

 しかしながら札幌地裁は、刑訴法三一七条、三一八条を踏みにじった新旧証拠評価を行い、憲法に違反する棄却決定を下したのであった。即時抗告審の札幌高 裁も同様に憲法違反の棄却決定を行ったのである。(2008年9月13日記・10月13日掲載)

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