大侵略国家中国を包囲する米国の新戦略

●オバマ大統領の11.17キャンベラ演説−中国包囲網形成

  オバマ米国大統領は11月17日、オーストラリアの首都キャンベラのオーストラリア議会で、「戦略的な決定を下した」と言う、極めて重要な演説を行った。「私は大統領として、熟慮の上に戦略的な決定を下した。太平洋国家として、米国はこの地域〔アジア太平洋地域〕とその未来の形成に向け、より長期的な役割を担っていく。その際、核となる原則は堅持し、同盟国、友好国との緊密な連携を保つ」。この部分は、「アジア最重視」の項目の主張だ。

 オバマ大統領は「安全保障」の項目では、次のように主張を展開した。「我々は、平和と発展の礎となる安全保障を追求する。すべての国家と国民の権利や責任が保護される国際秩序を支持していく。国際法や慣習が守られ、通商や航行の自由が妨げられず、新興国が地域の安全に貢献し、意見の対立が平和的に解決される秩序だ」。オバマ大統領はこのように、国際秩序を破壊する中国を念頭において主張した。

 「私は、(国務、国防長官ら政権の)国家安全保障チームに対し、アジア太平洋におけるプレゼンスと任務(の拡大)を最優先事項とするよう指示を出した。米国の国防費削減は、アジア太平洋地域を犠牲にして行われることは決してない。

 米国は、この地域に強力な軍事的プレゼンスを維持するのに必要なだけの資源配分を行っていく。軍事力を投影して脅威を抑止するという、米国固有の能力は保っていく。オーストラリアのような同盟国に対する条約上の義務などの誓約は守る。  21世紀に必要とされることに対処するための能力向上には常に取り組んでいく。我々のこの地域に対する関心は不朽のものであり、そのために永続的なプレゼンスが求められる」。

 オバマ大統領は「中国」の項目では、「中国に対しては、国際的規範を守り、中国国民の普遍的人権を尊重することの重要性を率直に語り続けていく」と主張した。

 オバマ大統領とギラード豪首相は、前日16日にはキャンベラで、「米豪同盟を強化するために、駐留米軍を拡大する。来年からオーストラリア北部の要衝ダーウィンの豪空軍基地に、米海兵隊を駐在させ、将来的に2500人規模に増やす」と表明していたのであった。これによって、翌17日のオバマ大統領の議会演説は、より一層効果的なものになった。 

 この米国の「アジア新戦略」というか、「世界新戦略」は、巨大化した軍事力と経済力を武器にして、アジア、西太平洋地域の侵略支配を目指している全体主義侵略大国の中国の包囲を意図したものである。大統領演説は、「米軍の配置は、より広範囲に行われる。日本と朝鮮半島での強力なプレゼンスを維持しつつ、東南アジアでもさらに強化していく」として、タイとフィリピンを挙げ、また「インドが、アジアの勢力として、より大きな役割を担うことを歓迎する」と述べた。日本については、「日本との同盟関係は、今後も域内安全保障における要石であり続ける」と主張されている。

●「関与政策」の誤りを自覚し、反省し、対中包囲に転換したオバマ政権

 ブッシュ前政権は2001年の「9.11同時テロ」以降、「21世紀最大の脅威は、大量破壊兵器を持つ国際テロリストや無法国家である」と考えて、「反テロ戦争」を展開していった。しかし「無法国家」には、ロシアも中国も含まれていなかった。アメリカのこの世界認識と世界戦略は、2002年9月に「米国新国家安全保障戦略」としてまとめられた。これを主導したのは、キッシンジャーの弟子であるライス国家安全保障担当大統領補佐官(後の国務長官)であった。完全に誤ったものであった。以下に一部を引用しよう。

 「新国家安全保障戦略」はこのように主張していた。「今日、国際社会は、17世紀に国民国家が出現して以降初めて、強大な国家が戦争に備える代わりに、平和の中で競争できる世界を構築するという最良の機会が与えられている。今日の大国は、テロの暴力と混乱という共通の危機に対して団結し、同じ側に立っている。

 民主主義国家としての将来と、テロとの戦いにおけるパートナーを目指したロシアの歩みには希望が持てる。中国の指導層は、経済的自由が国富への唯一の手段であるということに気付き始めている。中国は早晩、社会的、政治的自由が偉大な国家への唯一の道であることに気付くはずである。米国は、この2つの国家における民主主義と経済開放を奨励する。それが国内の安定と国際秩序の最良の基盤となるからである」。

 引用文に現われているロシアと中国に対する誤った認識が、「関与政策」を導き出した。関与政策とは、米国が批判を含む関与をすることによって、両国を国際秩序を守る民主主義国家へと導いていく。また改革を促がしていく、という完全に誤った外交政策のことである。

 私はこの「新国家安全保障戦略」を繰り返し批判してきた。拙文を在日米国大使館へも送ってもらってきた。テロとの戦争が、米国と西側自由主義諸国の最高の課題になることによって、真の脅威、最大の脅威である中国とロシアの脅威が隠され、否定されることになってしまった。両国と対決し、包囲網を形成していくという自由主義世界の歴史的な最重要課題が否定されてしまった。そして米国・西側の関与政策によって、両国は自由主義世界の資金、技術、市場を大いに利用して、侵略国家としての自らの国力(経済力・軍事力)を堂々と増大させていくことが可能になった。実際、そうなった。一方で米国はイラク、アフガニスタンへの軍事介入で巨額の財政負担を負うことになった。私はライス氏も、その師のキッシンジャー氏も、隠れ共産主義者だと考えている。(これらについては、私の6つの文から成る「ロシアや中国等全体主義国に対する第2次冷戦を開始せよ」(2006年4月)の中の、「自由世界のリーダー米国政府の対露、対中政策の誤り」という文の、4節「伝統的脅威から目をそらさせる反テロ戦」を参照していただけたら幸いである)。

 オバマ政権も当初は、中国に対する誤った関与政策を、より深刻なレベルで推進しようとしていた。「米中経済・戦略対話」である。しかし中国の軍事的脅威の急速な増大、南シナ海や東シナ海における国際法を踏みにじった数々の侵略行動、また繰り返されるサイバー攻撃などなどの中国の一連の行動によって、そして米議会や有識者からのオバマ政権批判もあって、オバマ政権は自分たちの関与政策が幻想であり誤っていたことを悟り、対中包囲網形成へと転換していったのである。アメリカは、共和党政権であれ、民主党政権であれ、その国が国際秩序(国際法と国際慣習)の破壊を目指す全体主義侵略国家であるとわかれば、国際秩序を守るために戦っていく国家である。

 しかしながらオバマ政権として、対中認識の誤りを完全に払拭できたのではない。そのことはオバマ大統領のキャンベラ演説の「中国」の項目に、「米国は、中国との協力的関係構築の努力も続ける。平和で豊かな中国の台頭はすべての国にとっての重大な関心事であり、だからこそ米国はこれを歓迎する」とも述べられていることに、明確に現われている。そしてロシアに対する誤った認識は、ほとんど是正されていない。

 米国・西側先進国は、ロシアの大謀略に騙されて、「共産ロシア(ソ連)」は「民主主義ロシア」に改革されていったと認識してしまったからこそ、中国においても、同様な変革は可能なはずだと考えてきた。ここに来て、中国に対しては、関与政策の誤りを悟るようになったが、完全にはこの幻想を払拭できないのである。私はロシアの大謀略についても、何度も批判してきた。前記の拙文を参照していただければ幸いである。

●米国が主導した11.19東アジア首脳会議宣言−海洋国際法の尊重

 オバマ政権にも、以上のような弱点は厳然と残っている。しかしオバマ政権が、中国に対しては、正しい方向へ転換してきているのは確かである。この方向を更に徹底化していくことが求められている。

 11月19日、インドネシア・バリ島で急きょ行われたオバマ大統領と温家宝中国首相の米中首脳会談で、温家宝は「南シナ海の問題は、中国とアセアンの間の問題である」として、米国の介入を拒み、当日行われる東アジア首相会議(EAS)の議題に取りあげないよう主張した。温家宝は前日の中国・アセアン首脳会議でも、米国は介入すべきではないとアセアン各国に圧力をかけていた。だがオバマ大統領は温家宝に対して、「EASの議題にする」と伝え、「航行・通商の自由」や「領有権紛争の平和的解決」を主張したのであった。首脳会談に同席したドニロン米大統領補佐官は会談後、「我々がこの一週間、最も熱心に主張してきたのは、『規則と規範』の問題だ。南シナ海をめぐる紛争も、国際ルールに沿って平和的に解決しなくてはならない」と記者団に力説したのだった(読売新聞11月19、20日付)。

 11月19日に開催された東アジア首脳会議(EAS)では、南シナ海問題は議題となった。この問題に関して発言しなかった国は、18ヶ国中、中国寄りのカンボジアとミャンマーだけであった。そして「海洋に関する国際法は、地域の平和と安定の維持のため必須の規範を含むことを認識する。独立、主権、平等、領土保全、国の同一性の相互尊重を強化する。他国への威嚇行為、武力行使を放棄する。紛争の平和的解決」等々を謳ったEAS宣言が採択されたのであった(11月20日付読売新聞)。  言うまでもなくこの11.19宣言は、アメリカの正義の力を背景にして、初めて可能になったものである。

 南シナ海には、石油や天然ガスなどの日本の海上通商路(シーレーン)が通っている。日本の生命線である。韓国、台湾、フィリピンにとっても同様である。これらの国は米国の同盟国であるから、南シナ海の問題は、米国の問題でもある。しかし中国は1992年に、国際法を踏みにじって、「中華人民共和国領海法および接続水域法」を制定して、南シナ海の大部分と台湾と日本の尖閣諸島を中国領土に編入したのである。これは、侵略国家の姿をまざまざと見せつけたものである。

 現在、中国のこの侵略の野望を抑え込んで、南シナ海の自由航行と通商の自由が保障されているのは、米国海軍が南シナ海を恒常的にパトロールし、またイギリス海軍も断続的に南シナ海をパトロールして、中国をけん制しているからである(北村淳氏『米軍が見た自衛隊の実力』84頁参照。2009年5月刊)。米英が、日本などの国益を守っているのである。それは米英の国益でもある。日本はこれを認識しなくてはならない。

 国際法、国際習慣法に基づく国際秩序を守るのは、文明国家だけである。中国やロシアという全体主義侵略国家は、国際法や「11.19東アジア首脳会議宣言」という「紙の文字」によっては、自らの侵略行動、侵略戦争を抑止されることはない。国際秩序を守る米国とその同盟国や友好国の軍事力と政治力と経済力が、それを抑止しているのだ。軍事アレルギーの情けない日本の政治家、官僚、国民は国際社会のこの冷厳なる現実をしっかりと認識すべきである。法と正義に基づく国際秩序を守る巨大な軍事力・政治力・経済力を持つ自由主義国家の米国が、もし存在しないならば、世界は「悪の帝国」であるロシアと中国によって、とっくに分割支配されているのだ。日本という国も消えて無くなっている。

●米議会の「米中経済安全保障見直し委員会」の11.16報告書−中国の「地域支配戦略」

 米議会の諮問機関「米中経済安全保障見直し委員会」は11月16日に、「年次報告書」を公表した。年次報告書は、米国防総省幹部や研究者ら65人以上の議会公聴会での証言や聞き取りなどを基に作成された。オバマ大統領の11.17キャンベラ演説に合せるように公表されたわけである。私は今、新聞報道での情報しか持ってないが、それは次のようなものである。

 「南シナ海や東シナ海での領有権争いに関し、中国が有事の際、奇襲攻撃や先制攻撃で米軍の戦力を低下させ、日本周辺を含む東シナ海までの海洋権益を支配する戦略があると指摘する年次報告書を公表した。」「指揮系統をコンピューター・ネットワークに依存する米軍の弱点を突く形で、サイバー攻撃を仕掛け、米軍の展開能力を決定的に阻害する作戦に出ると指摘した。」「特に、南シナ海や東シナ海での紛争では、対艦弾道ミサイルや巡航ミサイルを使って、九州−沖縄−台湾−フィリピンを結ぶ第1列島線内に、他国の侵入を許さない行動に出ると予測した」。

 「米軍はこれまで、中国軍が西太平洋で空母や対艦弾道ミサイルにより、米空母など米海軍の展開を阻む『接近拒否戦略』の実行能力を高めたと懸念してきた。だが、報告書は、中国軍が米軍に対してだけでなく、地域諸国への先制行動も想定していると指摘し、中国人民解放軍の軍事戦略は、『地域支配戦略』と表現するのがふさわしいと初めて指摘した」。

 「年次報告書は、中国軍が南シナ海や東シナ海で軍備を増強し、有事の際に地域諸国や米軍への先制、奇襲攻撃などを通じて制空・制海権を握るとする『地域支配戦略』への強い危機感を示した。」「(1)ミサイル攻撃やサイバー攻撃などで相手の戦力をそぐ(2)戦闘の主導権を握るために奇襲攻撃や先制攻撃を行う(3)中国周辺、特に西太平洋を支配する、ことを目指していると分析した」。

 「米空母を標的にすることが可能な対艦弾道ミサイルDF21Dを開発中のほか、配備済みの弾道ミサイルは日本などの周辺国を攻撃することが可能だと指摘した。また、巡航ミサイルDH10を爆撃機に積めば、グアムの米軍基地も標的にできるとしている。有事の際はこれらの装備を先制投入し、米軍だけでなく、周辺国軍の展開も封じ込めることで、『地域支配』する戦略だと説明した」(11月17日付読売新聞)。

 これだけの記事では、また矛盾する表現もあって、実際の「年次報告書」がどういう主張をしているのかを正確に把握することはよくは出来ないが、「第1列島線内に他国の侵入を許さない行動に出る」とあるし、「特に西太平洋を支配する、ことを目指している」とあるから、「報告書」は中国は、南シナ海、東シナ海を支配して、それに続き、台湾、南西諸島(沖縄)、フィリピンを含む西太平洋を支配する戦略である、と指摘していることになるだろう。

 もし私たちが対抗措置を採らず、中国に地域支配戦略の実現を許してしまうとすれば、中国は東南アジア諸国(アセアン諸国)も支配することになる。日本はマラッカ海峡−南シナ海−バシー海峡を通るシーレーンも、ロンボク海峡−マカッサル海峡−フィリピン東側を通るシーレーンも中国に支配されて、経済的に封じ込められてしまう。

 オバマ大統領が「キャンベラ演説」で、中国包囲に転換していったのは当然のことであった。日本は中国に対抗するためには、まず反日・共産主義の民主党政府を打倒しなくてはならない。日本はデフレを脱却し経済を成長させ、税収増を図り、国防費を少なくとも3倍以上に増額しなくてはならない。日本は中距離核兵器を米国から購入し、陸海空軍の通常戦力も飛躍的に増強していかなくてはならないのだ。日米台湾間の軍事同盟も結ばなくてはならない。海上自衛隊は南シナ海のシーレーンの防衛も担っていかなくてはならないのである。

 日本は税金は社会保障に支出するのではなく、まず第一に国防力増強のためにこそ支出していかなくてはならない。消費税を社会保障費に充てる民主党政府の政策は、国防費を増やさせず、削減していくことを狙った反日亡国政策なのである。国が滅びれば、社会保障など全て無くなってしまうのだ。生命も財産も文化も自由も社会福祉も、日本国家の独立・存続が守られてこそである。(拙文「国防費を少なくても3倍以上にしなければ日本は滅びる」、2011年2月28日脱、などを参照していただければ幸いである)。

●中国に対抗し包囲する米主導のTPP(環太平洋経済連携協定)

 11月13日付読売新聞に、「TPP 米中の識者に聞く」という記事が載った。米中の本音が述べられているものである。ヤイター氏(レーガン政権で米通商代表部代表を務め、その後農務長官も務めた)は、次のように述べた。「TPPは世界で最も高い水準の貿易自由化ルールを理想としている。日本と米国が一緒に取り組めばアジアで中国の経済力への対抗勢力になる。あるべき貿易の姿を示しつつ中国を包囲する。中国は我々を見習わざるを得なくなる」。

 中国社会科学院・アジア太平洋研究所長の李は、次のように述べている。「米国には、高い経済成長を遂げるアジアから分け前をもらおうという経済的動機と、中国を封じ込めようという政治的動機がある。」「(TPPには中国は)加入できないだろう。」「中国はアジアの自由貿易協定(FTA)戦略として、東南アジア諸国連合・日中韓(ASEANプラス3)を唱えている。その核となるのが、日中韓のFTAで、中国の優先度は極めて高い。」「アジア太平洋自由貿易地域(FTAAP)の実現は不可能ではないか」。FTAAPとは、APEC(アジア太平洋経済協力会議・21ヶ国)全体をカバーするFTAのことである。

 オバマ大統領のキャンベラ演説は「経済協力」の項目で、「自由で公正な貿易と、すべての国が明確なルールに基づいて行動する開かれた国際経済システムを追求する。・・・これ(TPP)は、地域(APEC)全体の経済統合のモデルにもなりうるものだ」と述べている。ヤイター氏の主張と同旨である。

 自由貿易とは、富の奪い合いではなく、お互いに利益を与え合うことである。これは、リカードの「比較生産費説」が証明したことだ。しかしながらそれは、経済力を、軍事力と同じく武器として用いて、相手国を屈服させ支配することを否定する、国際秩序を守る国同士の、「自由で公正な貿易」「すべての国が明確なルールに基づいて行動する開かれた国際経済システム」の中で、成立するものである。だが、中国やロシアのような全体主義侵略国家は、経済資源も武器として使って、相手国を屈服させ支配しようとする、自由貿易を否定する国家である。「レアアース」や「石油」「天然ガス」の禁輸で証明済みである。

 だから米国は、国際秩序を守り、自由主義経済の価値観を共有する国々を結集してTPPを作り、それを拡大してFTAAPを作っていく戦略である。中国と対決し、中国を包囲して外堀を埋め、中国をこのルールに従わせようとしているわけである。

 しかし、中国がそのようなものに従うことはあり得ない。米国は、中国に対する幻想を完全に捨て去らなくてはならない。米ソの冷戦時代、米・西側はソ連陣営を経済的にも封じ込めていったのである。

 中国の戦略は、上に引用したもので明白である。自由主義の大国米国を排除して、「アジアだけの自由貿易協定(FTA)」という、言葉だけの(つまり転倒語)、いつでも大国中国が不当な介入をすることができる経済統合を作っていくことである。中国経済圏の創出である。米国が主導する自由主義陣営のFTAと、中国が主導する言葉だけのFTAが正面からぶつかり合っているわけである。

 「安全保障(同盟条約)」と「経済連携」は表裏一体のものである。敵国・中国はそのことを明確に自覚している。「日米安保条約」の正式名も、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」であり、「前文」で「日本国及びアメリカ合衆国は、両国の間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、並びに民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配を擁護することを希望し、また両国の間の一層緊密な経済的協力を促進し」とうたっている。第2条は「締約国は、その自由な制度を強化する・・・締約国は、その国際経済におけるくい違いを除くことに努め、両国の間の経済協力を促進する」となっているのである。

 法の支配と自由主義を守る西側自由主義陣営は、「安全保障(同盟条約)」と「経済連携」を表裏一体のものとして推進していかなくてはならないのである。米国主導のTPPとは、そのようなものなのだ。経済力は、軍事力・政治力の基盤となるものである。

●TPPもオバマ大統領演説も否定する左翼の野田首相の行動

 野田首相が「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と表明したことを受けて、読売新聞をはじめほとんどの人が、日本は米中の間で米国側に立った、と誤解してしまっている。だが野田民主党政権は、米国側に立ったのではない。野田政権も、反日反米の親中政権である。

 政権を維持するためには、国民の支持を得なければならない。日本国民はほとんどが、「親米」であり、「嫌中」である。親中なのは反日・共産主義勢力のみである。だから民主党は、鳩山政権でも、菅政権でも、野田政権でも、多少の表現のちがいはあるが、「日米同盟がわが国の外交・安全保障の基軸である」と言ってきた。これは「転倒語」であって、国民を騙して政権への支持をつなぎとめるための戦術である。反日・共産主義政党の民主党は、国民を騙すことを基本戦術にしている。

 私は拙文「野田内閣も反日・親中の共産主義内閣である」(2011年9月29日脱)の第4節の小見出しを、「対中共ODA供与を確定・実施した大平元首相を評価する野田首相」とした。野田首相は『voice』(2011年10月号)論文「わが政治哲学」で、「いまあらためて学ぶべきは、大平正芳さんの政治のあり方ではないか−私は最近、とみにそう思うようになった」と書いていたのだ。

 31年以上前の1980年6月に死去した大平元首相の政治を、日本国民は覚えているだろうか。名前も知らない人が大部分だ。政治学者でも、文献にあたってみて初めて政治内容を知る者が大部分だろう。つまり、そのような大平元首相への評価を前記『voice』論文で行ったことには、特別な理由があるということだ。この部分は、中国の指導部へ向けたアピールなのである。副次的には、日本の保守派を「野田首相は自民党の大平元首相を評価しているのだ」と騙す効果もある。

 大平元首相は1979年12月に訪中して、中国の近代化を支援するためにODA(政府開発援助)を供与することを決めた人物である。1980年度から供与は開始されていった。この総額6兆円以上に上る援助が、鉄道、港湾、発電所という産業インフラに投じられた。「日本が整備したインフラストラクチャーがあってこそ、欧米をはじめとする世界各国が中国に投資し、貿易を行うようになったのである。その経済効果は援助額の数百倍、数千倍、いやそれ以上に価する」(平松茂雄氏『中国は日本を奪い尽くす』163頁)。こうして日本等の侵略を国家目標にしている中国は、経済大国=軍事大国になっていったのである。

 中国共産党は、大平元首相と聞けば、すぐ分る。レーニンが言う「役に立つ白痴」であった。野田首相は、日本では「保守の政治家」とマスコミでは評されてきた。彼はその偽りの演技をしてきたのだ。民主党を、保守派も多くいる政党だと国民に印象づけて、政権を奪取するためである。野田政権としては、同志である中国指導部に自分たちの立場、姿勢を伝えておく必要がある。それが「わが政治哲学」の大平元首相への高い評価であった。確実に中国指導部に伝わっている。

 松下電器(当時)の会長・松下幸之助氏は、1978年にトウ小平が来日した際に会談し、トウ小平の人柄に誘かれて、中国の近代化のためにお役に立ちたいと合意した人物である。製造メーカーとして、中国進出に1番乗りしたのが松下電器であった(「週刊現代」)。松下幸之助氏が「松下政経塾」を発足させたのが1980年であり、第一期生が野田首相である。昔から親中なのだ。

 鳩山内閣、菅内閣も反日反米・親中内閣として、「東アジア共同体構想の実現」を主張してきた。民主党の2009年のマニフェストにも明記されている。岡田外相(当時)は、「東アジア共同体から米国は排除される」と明言していた。野田内閣は、「所信表明演説」に「東アジア共同体構想の実現」は入れなかったが(米国を騙す)、藤村官房長官は、「野田内閣においても『東アジア共同体構想の実現』は維持されています」と記者会見で述べている。

 野田首相は就任早々9月にオバマ大統領と会談した際、大統領から、11月12日にハワイで開かれるTPP9ヶ国会議までには、早ければ早い程いいが、TPP交渉参加を決断して欲しいと要請されていた。経団連からも何度も、一日でも早く交渉参加を表明してもらいたいと強く要請されていた。日米安保条約があり、首相が長年行ってきた「偽装ポーズ」があり、親米嫌中の国民の支持をとりつけて政権を維持しなければならない以上、野田首相は本音ではそんなことしたくなくても、現在の状況からは「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と表明するしかなかったわけである。

 だが反日反米・親中の野田政権が、米国側に立つはずはない。野田首相は、米国と中国がFTAをめぐって戦っていることをよく知っている。

 野田首相がもし本当に親米派の保守派であって、TPP交渉参加を決断したのであれば、その表明は直接オバマ大統領にまず伝えたはずである。しかし首相は11月11日、首相官邸で「11月12日のホノルルAPEC首脳会議で、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と記者団に表明したのである。そして12日のAPEC首脳会議で、そのように表明した。しかし、日本が求められているのはTPP交渉参加であるから、TPP交渉9ヶ国会議で表明しなくてはならない。APEC首脳会議は21ヶ国から成り、中国もロシアもいるのだ。APECも域内の経済統合(FTAAP)をめざしているのであるが、それとTPPは別である。野田首相のこの行動は、米国が主導する「中国を包囲するTPP」を批判し否定するものであることが明白ではないか。これは民主党内の左翼や、中国やロシアに向けたアピールである。

 しかも野田首相は11月13日夕方、記者団にTPP交渉について、関係国との協議を開始し、日本に求められているものは何かを把握し、情報を収集する。そして十分に国民的議論を経た上で、国益の視点に立って、交渉参加の是非の結論を得る(11月14日付読売新聞夕刊)と述べている。すなわち、今はまだTPP交渉参加を決定したのではないと言っているのである。

 首相は11月12日、胡錦濤との日中首脳会談で、年内に首相が訪中することで一致し、「お互いの発展は両国のみならず、地域、世界にとって極めて重要だ」として、「大局的な観点から、戦略的互恵関係を一層発展させる」方針を確認したのだ(同上)。「中国の発展は地域と世界にとって極めて重要」とは、中国による地域支配、世界支配を歓迎するということである。「戦略的互恵関係を一層発展させる」とあるから、左翼国家日本は中国と共に進む、ということだ。オバマ大統領の演説には、「平和で豊かな中国の台頭」と「平和」の形容詞が付いているが、野田首相のそれには、何もない。

 野田首相は11月18日、TPPと中国がめざす「ASEANプラス3(日中韓)のFTA」の「両方を横目で見ながらやることになるでしょう」と記者団に語っている(11月19日付読売新聞夕刊)。首相は11月19日、韓国の李明博大統領、中国の温家宝首相との首脳会議で、「日中韓のFTAの早期交渉入り」を目指すことで合意したのである。

 これらの野田首相の行動が、TPPを否定するものであることは明らかだ。もちろん、オバマ大統領のキャンベラ演説を否定するものである。

 読売新聞は11月20日付「社説」で、「野田首相がTPPと、中国やASEANの動きを「両方横目に見ながら」取り組む意向を示したのは、妥当な考え方と言える」と書いている。読売新聞は、野田民主党政権も「反日反米・親中の共産主義」であることが全く認識できていない。民主党を支え、日本国民を誤導している。

 自民党指導部は、反民主党政権という「党利党略」から、TPP交渉入りに反対している。現指導部は、TPPの経済的意義も、安全保障との一体性も理解できない。自民党は、小泉進次郎氏のような方を党総裁にして再出発するしかない。

2011年11月27日脱 
大森勝久


(最初のページに戻る)